第12話 秋から冬へ
師匠の教え方はわかりやすい。それともこの頭脳が優秀なのだろうか?
文字と計算は覚えて、本が読めるようになった。本は楽しい。
錬金術はいろいろな知識が必要だからと、基礎学習というのをしている。
今読んでいる本はいずれ、俺が通うことになる貴族の学校の下準備のための本だ。
俺は男爵家の嫡男でこのままいけばルヴェール家を継ぐ身だ。貴族として認められるには王都にあるその学校に通い卒業資格を得なければいけないんだって。
通うことになるのは十二歳から、三年間。十五歳の成人までだ。
平民は十歳くらいから見習いやらなんやらで家を出て働きに出ることが多いらしい。村の子供たちはもう畑を手伝っているものね。
収穫祭(俺は見てない)からしばらくした後、麦の種まきがあって、見学しに行った。その時、見知った子供たちも総出で種を蒔いてて農業は大変だって思ったよ。
「ルオ、魔力、増えてないか」
師匠が急に俺を見て言ってきた。本当に急だったので、書き取りをしていた俺はびっくりした。
「はえ?」
間抜けな声が出た。
「ルオは魔力の成長が著しいのかもな。精霊を抱えてる分、これから増えないと体の成長に支障が出るしな」
聞き捨てならないこと言った!
「身体の成長?」
「栄養不足だと、大きくなれないからな。ちゃんと食べて、よく寝ろよ」
「そういう問題?」
「そういう問題。だが、溢れるまま精霊に与えているのもよくない。精霊持ちはエルフに多いが、俺が知ってるエルフは一人だけだしな。そのうち、精霊との付き合い方を考えるようにしよう。まずは増えた魔力をどうするかだが……」
師匠は顎に手を当てて考え込む。
「十歳になると教会で天職とスキルを授与する祝福の儀がある。天職というのは個人に与えられた職だ。剣士とか、魔術師とか、細工師とかいろいろある。大抵は親の手伝いやそれまでの経験を鑑みて神が授けてくれるものだ。ギフトともいうな」
「ギフト」
「ギフトが希望のものでなくても、それが神の恵みだ。それに沿ってスキルや仕事を探すのが最も効率がいい」
「……十歳で見習いってそういうこと?」
「ああ。天職を確認して就職の道を選ぶことが多い」
「なるほど」
「ルオは俺の弟子になって勉強をしているから錬金術師の天職が一番有望だと思う。それはさておき、魔力は制御できた方がいい。今日から魔力制御の訓練をするぞ」
「はい!」
「いい返事だ」
人は学習する生き物だからね。
魔力制御の訓練は魔力を感じて、意識をすることから始める。錬金術も魔力を使うから、絶対に習得しないといけない技術なんだって。
ただ、暴発することもあるので、大人のいるところでしないといけないそうだ。
「むむ? 多分、ラヴァが吸い取ってるこれが魔力だと思うんだけど??」
「わけわからないという顔してるなあ」
「うん。わからない」
「こればっかりは練習あるのみ。すぐできたら超天才なんだよな」
地道な努力ということかなあ? とりあえず日課がまた増えた。
吹く風が冷たくなっていって、上着を着ないと外に出られなくなった。
そうして河原に行くのは春までお預けになった。
秋が過ぎて冬が来る。
雪が降る季節が目前だ。
父がばたばたしていて母やネリアが忙しそうにしていた。
焚き木を集めたり、干し肉や、干し野菜の用意。
俺も手伝えることは手伝う。
イオが立ってよたよたと歩き始めたのをみんなが歓喜して、冬が来た。
「雪だ!」
「お~初雪だな」
今年の冬は師匠がいるから少し賑やかになる。毎日、勉強と魔力制御で明け暮れる。
イオも大分しっかりしてきた。
「まんま」
「ぱぱ」
「にい」
「しー」
片言を話すようになったイオが一番最初に話したのは母の事ではなく、ネリアの名前だった。ネリアは奥様というし、母がネリアと連呼してたせいかと思う。
母や父が泣き崩れていたのは仕方ない。
「ねり」
「あらあら」
嬉しそうに抱っこするネリアは勝利の笑みを浮かべているようだった。
正直、練り物みたいだと思ったのは内緒だ。
冬は居間にみんなが集まって暖炉の前で過ごす。母は刺繍をしたり、父は師匠と話したり、書類仕事をしたり。俺は本を読んでいて、ローワンは父の補佐、ネリアはイオの面倒を主に見ている。
ラヴァは暖炉に居座ることも多くなった。やっぱり火の中にいるのがいいのかな?
年が変わる頃には雪は積もり、二階の窓が出口になりそうなほどだった。
魔物は冬眠するものが多いので、それほど迷い出るのはいなかったが、この時期に歩き回る魔物は危険で、俺は絶対、屋敷から出るなと言われていた。
天気のいい日、雪かきしている側で、雪だるまを作るくらいが外での遊びだった。
そうして季節は巡り、春が来る。
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