第11話 お買い物
俺は挙動不審になった。
いやー子供だしね? 一つだけって言われると吟味したくなるもの。
あっちうろうろこっちうろうろ。食材やなんやらは買う必要がないし、村人たちの楽しみのようだから無くなっても焦らない。
ただ、食器とか工芸品には惹かれる。
村人たちもお金を持っている。そういえばお金って知らない。
「師匠、買うってどうするの?」
俺は今、初めてのお使いの子供より、物を知らない気分だ。泣いちゃうぞ。
「みんな商人に渡しているものがあるだろう? あれがお金だ。計算を教えた時使った丸い硬貨、これのことだ」
師匠が小さな革袋を取り出して中から出したのは銅貨だ。
「これを使って買い物をしている。物々交換もあるが、今はこのお金が基本だ」
鉄貨、銅貨、大銅貨、小銀貨、銀貨、大銀貨、金貨がある。この上にもあるらしいけど、庶民には見る機会がないらしい。大体銅貨で十円くらいと考えていいけれど、経済状況はどうなのかわからないから一概に言えない。
「村の人達なら、そうだな、小銀貨までくらいだな」
「そうなんだ!」
「わかってない顔してんな」
「はい!」
「いい返事だよ。で、何買うか決まったのか?」
「うう~ん」
いまいちぱっとしたものは見つかってないんだよね。ガラスを使ったものはないかな。割れやすいから馬車で運んだりしないかな?
「そこの坊っちゃん、剣はどうかな?」
不意に後ろから声をかけられた。小太りないかにも商人て感じの男。広場の中の一番目立つ位置に広くスペースをとっているところを見ると、この行商人の中だと一番力を持っているのかな。
並べられた商品は塩や香辛料、食器、装飾品、金物だ。見せられた剣は装飾過多で、俺が持つにはまだ大きくて重いだろう。
「んー、興味ないかな」
「残念だ。何か欲しいものはあるかな?」
「ううん」
俺は首を横に振ってその場を離れた。
「ぼったくりの典型だから、気を付けろ。もっとも、成功はしなかったようだけどな」
「ぼったくり」
「商人はふっかけてこそ商人だからな」
「へえ」
「一回くらいは値引き交渉しろよ」
「はい!」
一回りして、最後の商人の前に来た。広げられた布は小さく、商品も少ない。やる気が感じられない。でも、その商品の中にガラスのロックグラスがあった。
「こ、これ」
「ああ、珍しいだろう。お貴族様しか、買わないくらいの高級品だ」
「え、高いの?」
「普通なら。ここ、へこんでるだろ? 失敗作だって、工房の奴は言ってた」
くすんだ、薄い青緑のロックグラス。陶器のように見える、分厚いグラス。口を付ける部分が歪んで、綺麗な円とはなってなかった。でも十分、使用できる状態だった。
「工房……こういうのを作ってるとこ?」
「ああ、そうだ。知り合いが職人で、つてで仕入れたのさ。大銀貨五枚といいたいが銀貨五枚でいい。買うか?」
「えー失敗作なんでしょ? 銀貨一枚」
「赤字だ! 銀貨四枚」
「銀貨二枚」
「銀貨三枚と小銀貨五枚。これ以上はまけらんねえ」
俺は師匠を見た。
「上出来だ。ほら、確認してくれ」
「と、確かに。ああ、ちょっと小耳に挟んだんだがね」
「噂話か。面白い話かね」
「どうだろう。仕入れもしながら、農村を巡ってきたんですがね。特に今は小麦の収穫で、大忙しのはずなんですよ。ところが、村人たちの元気がないし、収穫は終わったのか、できなかったのか。聞くと水不足で収穫量が減ったそうで、思ったように仕入れられなかったんですよ。売り上げも減ってしまって」
「なるほど。ありがとう。ここは去年と変わらずだよ」
師匠は立ち上がって俺を促した。
「まいどあり」
師匠は俺を連れて父様のところに向かった。俺はいつも持っている麻袋の中へ受け取ったガラスのロックグラスを入れ、付いていった。
「小麦を備蓄したほうがいい。村人の規制はしなくてもいいかもしれないが、去年と同じに放出してしまうのは危険だ」
師匠は父に声をかけると小さな声でそう言った。
「……わかった」
父が難しい顔をしていたが、商人や村人が来るとにこやかな顔で対応していた。
「さて戻るか」
「ええ? お祭りは?」
「子供には早い」
「えええ?」
「グラス取り上げるぞ?」
「はい!! 帰ろう! 今すぐ!!」
「現金な奴め」
笑って俺の髪をかき乱した師匠とともに屋敷に戻った。
机の上にガラスのコップ。
「ふふふ~~」
(じょうきげん)
「ガラスのコップだよ~嬉しいんだ~」
ガラスの工房がある。職人もいる。吹きガラスの製法もあるかもしれない。
ああ、作るところを見てみたい! どこにあるんだろうか?
またあの人、ガラス製品仕入れてこないかな。
買い物、楽しかった!
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