第10話 収穫祭
今日は師匠と村に来た。師匠は初めて会った時の服装と髪型になっていた。
「なんで、その髪型?」
「いいんだよ。この格好で、村に来たんだから。顔出すと緊張するんだ」
「照れ屋?」
「師匠を揶揄うとは……課題をたくさん出してやろう」
「ああ! ち、ちがう~」
農地は土の色になり、刈られた麦が干されて風に揺れていた。
「いいか? 麦は秋に種を蒔いて六月から八月に収穫する。ああやって、小さく束にして乾燥させて脱穀して小麦になる。毎日食べるパンは粉にして焼いたものだ。この辺は少し寒いから夏の終わりの今頃雨の降らない時期に穂の様子を見て収穫するんだ。十月から十一月くらいに次の種を蒔く」
「粉にする? 大変そう」
「あそこに大きな小屋があるだろう? 水の力で臼を動かして粉を挽いてる。見に行くか? 結構うるさいから覚悟は必要だぞ」
「行く。見てみたい」
水車小屋だった。水路に浸かっている水車がくるくると回っている。
これ、大きくしたら水力発電……はないか。魔道具は魔石っていうものを使うんだって言ってたものな。
中に入ってみると、前世で見た水車小屋そのままのようだった。
魔道具は高価なのか屋敷でもランプくらいしか見ていない。
「この臼から粉が出てくるんだ。ちなみにお金がかかることがあるが、この領は無償だ」
「お金がかかるの?」
「ああ。今はお金がかかることもあると覚えておけばいい。さ、行こう」
水車小屋を後にすると、村の広場に来た。いつもはまばらにしか人がいないが今日は村人総出でいるみたいだ。
「なんだろう?」
「行商人が来ているようだな」
「あ、父様がいる。父様~」
「ルオ、ああ、先生も一緒か」
「うん。麦のこと、教えてもらった!」
「そうかそうか」
思い切り撫でられて鼻息が荒くなった。前世を含めると、師匠くらいはいっているはずなのになあ。
「今日は、行商人の日ですか」
「ああ、収穫祭を兼ねてだ。この後祭りになる」
「お祭り」
俺は首を傾げた。
「とりあえず、商品を見て回ろう」
「はい」
「父様~ばいばい」
村の人達や商人らしき人に話しかけられて、申し訳そうにこっちを見た父様の元を離れて円形の広場の縁をなぞるように商人たちがいる。馬車の前に商人がいて、敷物が敷かれてその上に様々なものが置かれている。
家庭で使う道具や衣服、装飾品、香辛料や嗜好品だ。
俺は並べられているものが何かを師匠に解説してもらった。衣類は高く、しかもどうやら中古品のようだ。
「服、高いの?」
「そうだな。糸を作るのにも布を作るのにも手間暇がかかるし、色がついた服などは高すぎて貴族や裕福な商人にしか買えないな。都市部に住む平民で何とか。農村に住む住民は中古品や布を買って自分で、服を作ったりする。繕ってボロボロになるまで使って端切れにして、そうしても使えなくなったらやっと捨てるくらい貴重品だな」
生成りの服ばかりなのは生地そのままの色だったのか。そういえば継ぎ接ぎしてる村人ばかりだ。
顧みて自分はどうだろう。継ぎ接ぎはなく、上等な布。
身分の差は大きいんだ。でも支配者が自分たちと同じ服を着てたらなんで、って思うから、これは仕方ないのかな。
「自分たちで染めたりはしないんだ」
「染めるには技術がいるぞ。材料も染色ギルドの秘密なんだ」
「ギルド?」
「同じ仕事をしている人たちの集まりだな。そこに所属していないと、その仕事ができない」
「できないの?」
「いろいろな決まりがあって、ギルドに所属してない人間が勝手にその仕事をすると最悪処刑される」
「処刑!?」
「罪を犯したら、罰を受けるし、殺されてしまうこともあるんだよ。それが処刑だ」
「こ、こわい」
「悪いことはしちゃいけないって思っておけばいい。悪いことすると、ネリアや奥様に叱られてるだろう?」
「ぼ、僕、悪いことしないもん」
「そうだったか?」
「し、師匠酷い」
「ギルドによって規則はさまざまだけど、錬金術師になるなら錬金術師ギルドには加入しないといけないぞ」
「じゃあ、新しい染め方を発見したらどうなるの? 農民がたまたま」
「そこはその村の長が領主へ報告して、染色ギルドへ登録する、もしくは領主が事業を起こし、染色ギルドを立ち上げる」
「立ち上げる?」
「新しく作るんだな。そして大元の染色ギルドが許可をすれば大手を振って布を染めていいことになる」
「へえ。じゃあ、ガラスを作るなら、ギルドを作らないといけないんだね」
「そうだな。ここにいる行商人も、商人ギルドに所属していないと商売はできないんだ。ほらあそこ、武装している人たちがいるだろう?」
「うん」
「あの人たちは傭兵ギルドか冒険者ギルドに所属していて、行商人たちの護衛だな。魔物や、盗賊から守っている」
「冒険者ギルド!」
「なんだ? 興味あるのか?」
「冒険ってつくんだよ! どんな冒険するのかな!?」
「そうかあ。じゃあ、帰ったらどんなギルドがあるか、勉強しような」
「うげげ」
わっはっはと、師匠が笑った。
「あんまり高いものはダメだが、欲しいもの一つ買っていいぞ」
「いいの!?」
「ああ」
この世界で生まれて初めての買い物だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます