第4話 ガラスを作りたい

 日課ができた。

 朝起きてから散歩。戻って朝食。

 朝食の後、文字の練習。石板とチョークをもらった。何度も消して書けるので練習に使いなさいと父に渡された。子供の頃、父が使ったものだそうだ。大切に使おう。

 昼食を食べたらお昼寝。

 目が覚めたら、散歩を兼ねた体力づくり。森に入らないなら村までは自由に歩いていいそうだ。てっきり、誰か一緒じゃないとダメなんだと思っていた。


 今日は領内の探検だ。屋敷は霊峰のすそ野に位置していて、村より高台になる。柵の周りは道になっていて、村と農地に繋がっている。

 村から東に向かうと馬車で二週間ほど行った先に王都がある。間には西をまとめる大貴族、デュシス侯爵とその寄り子たちの領地が広がっている。多分、うちも寄子だ。なんでわかったかというと簡易な地図が書庫に飾ってあったんだ。

 でもどうだろう、測量とかないなら、あれは凄く貴重な地図ということになるのかな?


 村の農地には川から引いた水路が通っていて水不足になったと聞いたことは生まれてからない。ただ、気候はやや涼しいので、春秋で麦がとれるかというと、そうではないらしい。


 うちが貧乏なのも、産業がないからで、農業しかない小領地だからである。税を国に納めたら残らないってわけ。

 他の貴族がどうかはわからないけれど、うちの父は税を搾り取ってはいないらしい。まず人口を増やして、農地を増やしてそれからのつもりらしい。


 代々それで豊かになってないのであれば何か一手が必要だと思う。

 例えば霊峰。前世から言ってみたら、高い山は温泉の可能性がある。ただ、硫黄の匂いとかしたことがないから富士山レベルの休火山なのかもしれない。


 でも溶岩がある可能性はあるんだよな。

 根拠はラヴァ。

 火の精霊なんだから火の気があるところに生まれるはずなんだ。でも周りは森で、川は水だし、あとは土。

 火がないんだ。でも、ラヴァが生まれた。迷い込んだ可能性もあることはあるけど、あの山々が火山の可能性は捨てきれない。


 富士山の名水がそうで豊富な水源は枯れない。しかも地層によってろ過されているから水が綺麗だ。そして、地中から鉱物資源が地上に押し上げられている可能性もあるし、火山灰もいろいろと役に立つ。

 前世と同じような鉱物があるとは限らないから一概には言えないけれど、まずは川の石拾いから始めるかな。


 石拾いなら河原だ。うちの領地の側を流れていく川の中流魔の森から出て、森を覆うように流れて、また魔の森を通ってどこの海に流れて行っているのかはわからない。隣の領に出ているかもしれない。


 川にも魔魚がいて襲ってくるらしいんだけど、不思議と村の側の川には狂暴な魔魚はいない。水辺に出やすいスライムとかはいるみたいだけど、スライムは手を出さなければ襲ってこない。魔の森にいるスライムの中には毒持ちもいるみたいだけど、見たことはない。


 さて、川についた。ちょっと大きめの石がごろごろしている河原の中央で流れるその豊富な水は透き通ってきらきらしている。覗き込むと底の石や水棲生物が見える。魚やエビっぽいの、貝、虫の幼生などがいるみたいだ。


 影になったせいで、覗き込んだ俺の顔が映った。全体的に母似で、少したれ目で、眠そうな目。眉も勝気というよりは細く眉尻が下がっていて、気弱そうに見える。

 子供のカースト的に言えば気弱そうってだけで下に見られそう。

 肌も白くて本当に女の子に間違えられそうだな。大きな街とか一人で歩いてたら攫われそう。平民のちょっといいとこの子供に見えるもんな。これ、自衛しないとヤバそう。ため息を吐くと、ラヴァがペロッと頬を舐めた。くすぐったい。


 いい天気で川の水が光っている。魚の鱗にも反射してるみたいだ。

 そっと浅瀬に足を入れた。川は急に深くなって流れが速くなるから手を先に入れて確かめた。もう汗ばむ季節になってきてるのに水温はとても低い。

「気持ちいい~」

 汗が引っ込んだ感じだ。しゃがんで川底を攫う。ちゃんとざると石を持ち帰るための袋は用意してきた。


 ざっくりと攫った砂を見てみる。一緒に入っていた生き物は川へリリース。

 河原へ上がって砂をかき分けた。砂金とかあったら、もっと栄えているはずだから、多分ない。でも、光る砂はあるんだよな。

 よし、今度燃やしてみよう。準備が足りてないから適当に石を拾って持ち帰るか。


「ルオ坊ちゃま? 何をなさっておいでで?」

 部屋にある机の上に石を並べているとネリアがやってきた。そろそろ夕食だからかな?

「川で拾ったの! 飾ってる」

「汚れますよ?」

「川の中にあったからきれいだよ? ほら」

 いろんな色の石を見せる。下流じゃないから割と大きめだ。

「ほんとね。でもちゃんと綺麗に飾るのよ。捨てるときは川に戻してね」

 母もやってきて微笑んだ。ネリアは肩を竦めている。

「でも気を付けて。川は怖いのだから雨の後はいかないこと。河原が全部水に隠れていたり、いつもより川の勢いがあったら川に近づかないこと。約束できる?」

「うん!」

「いい子ね。もう少ししたら夕食だから食堂に来るのよ」

 俺の返事に母が頭を撫でて、にこにこしてネリアと部屋を去っていった。


 俺は並べた石を見てにやにやしてた。その俺の様子に首を傾げてラヴァは石を渡り歩いた。

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