第3話 ガラス工芸作家になる!!
母は子供用の本を読み聞かせしてくれてた。それで本があるのはわかっている。領政には書類は不可欠で、少なくとも父と母、ローワンは文字を知っているはずだ。貴族なんだし。よし、まず母に聞こう。
俺はネリアに母の所在を聞こうと、イオの部屋に向かった。イオは今はベッドで寝てるみたい。
イオは三月生まれで、今は六月。俺は六月一日生まれ。一歳三か月と五歳。
まだまだ、イオは赤ちゃんで、ぷすぷすと小さな鼻息を立てて眠っている。可愛いなあ。
「ルオ坊ちゃま、どうなさいました?」
ネリアが小さな声で俺に聞いてきた。俺も、イオを起こさないよう小さい声で聴く。
「かあさま、どこ?」
「旦那様のお仕事のお手伝いしてましたよ」
「わかった」
「坊ちゃま、お仕事のお邪魔はダメですよ」
「うん」
俺は頷くと部屋をそっと出た。忙しいんだな。何か手助けしたいけどまだ無理だ。そのためにも文字を覚えなきゃ。
父の執務室の扉をノックした。はい、とローワンの声がして扉が開かれた。
書類が山積みの机の向こうに父が座って、その横のこれまた書類が山積みの机に母がいた。もう一つある机に座っていたのはローワンだろう。
「ルオ坊ちゃま、どうかなさいましたか?」
「あ、あのね。僕、ご本が読みたい」
「本、ですかな?」
「おかあさまが読んでくれるご本、僕読みたい」
ああ、中身は大人なのに、滑舌が悪いせいで、上手く話せない。
「では、ネリアの手が空いたら、部屋に……」
ローワンは顔を母に向けると母が頷いた。
「違うの! あのね、一人で読みたいの」
「なんと! お一人でございますか」
「うん、僕、読んでみたい」
ローワンの身体の向こうで父と母が感動した顔で口元を押さえてた。見なかったことにしよう。
「ルオ、ちょっといらっしゃい」
母が満面の笑みで俺を呼んだ。
「この表がね、文字の基本なの。組み合わさって言葉になってるのよ」
俺は母の膝の上にいた。積み上がった書類のある机ではなく執務室にあるソファに母は座っている。
ちょうどいいから休憩をとるということになってローワンがお茶を淹れてくれた。俺はジュースだけど。ソファーの前のローテーブルに文字を覚えるための文字の表が置かれている。これを見て文字を覚えるのだ。
母が文字一つ一つを読み上げてくれて、俺は復唱をした。一通り終わって母に撫でられた。
「よくできました」
羊皮紙に書かれたそれを握り締めて、俺は母を見上げた。
「うん、頑張って覚える!」
「いい子だ」
父も頭を撫でてくれた。父も仕事で疲れているだろうに俺に文字を教えるために時間を作ってくれたのだ。嬉しい。
「ローワン、書庫に行って、いつも読み聞かせで使っている本をルオに渡してくれないか?」
「かしこまりました。坊ちゃま、飲み終わったら一緒に参りましょう」
「うん!」
笑顔で頷くとみんなに頭を撫でられた。ああ、髪がくしゃくしゃになる~! 髪を母が直してくれて、ローワンと書庫に向かった。
書庫の扉を開けると窓の隙間から光が漏れているくらいで真っ暗だった。
日に焼けるから、窓を開けないんだろうな。ローワンはランプに灯をともして書見台に置く。その光はろうそくやオイルランプの灯りではない気がした。
「僕の部屋のと違う」
「燃えやすい本があるので、書庫の灯りは魔道具なのですよ。ありました。この本がいつも奥様が読み聞かせで使う本です」
魔道具!? 魔道具があるんだ。あれ、この外側、ガラス使ってないか? そうだ、ガラスだ! 透明度が低いけど、ガラスだ!
「坊ちゃま?」
「あ、うん」
ガラスに気を取られて、生返事になった俺に差し出された本を受け取る。ぱらりと中をみてみた。うん、わからない。転生チートで読めるかと思ったけど、無理だった。
やっぱり地道に覚えろってことだね。文字の表記は英語圏のそれだ。文字表と照らし合わせてがんばろう。
本を抱えて書庫を出た。ローワンと別れて部屋に戻る。ガラスが存在すると知れたのは収穫だった。
お昼はネリアが部屋に持ってきてくれて取り、午後は体を鍛えることにした。
適度な運動は脳のためにもいいはず。庭を歩き回っていたら、馬に乗って出かける父に会った。柵に駆け寄って見上げる。大きい。
「お馬さん?」
「ああ、ブルーという。気が荒いからあまり近付かないようにな。父様は村に見回りに行ってくるから、母様たちを頼んだぞ?」
また俺の頭を撫でて父は村へ駆けて行った。かっこいい。
「馬もいいなあ」
(そのうちのせる!)
なぜだか、ラヴァが不機嫌だった。乗せるって、ラヴァに乗るの? 無理じゃない?
(むりじゃない!)
「わかったわかった」
歩いては休み、歩いては走ったりして、午後は過ごした。
夕飯の時は疲れてしまって半分寝ているような感じだった。父と母はくすくす笑っていた。
夜はベッドに寝転ぶとすぐ眠気が襲ってきた。
今日のことを振り返った。まだ全然、知りたいことはわからなかったけど、一つだけわかった。
ガラスがあった。前世の夢だった、ガラス工芸作家になることがこの世界でもできるかもしれない。
うん。ガラスでアートを作りたい。俺の作品をたくさんの人に使ってもらいたい。
俺は、ガラス工芸作家になる。
なるんだ。
俺は決意を新たにすると、ラヴァに魔力を搾り取られて意識を失うように眠りについた。
毎晩かよ!?
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