第5話 精霊

 ラヴァに毎日魔力を搾り取られてるので、何となく体内の魔力を感じるようになった。増えてる気がする。噛まれたところが熱くなる時はラヴァが魔力を吸い取っている。多分。川で首筋を見た時、炎のような痣になっていたし。


 今日もいい天気で日課の石拾いに出かけている。日本と違ってヨーロッパの北の方に近い気候なのかと思う。このまま夏に突入なのかな。

 石集めは玉石混合で、そもそも製錬ができないからどの石に何が入ってるかなんてわからない。前世の知識でなんとなくアタリはつけているけれど、せめて鍛冶工房とかないと、ダメだろうなあ。炉を作る技術は俺にはないしな。


 川に着いて川幅を確認、水の勢い確認。

「安全確認、よ~し!」

 指さし確認はものづくりの基本だな。

(よばれてる~)

「ん?? 呼ばれてるって誰に? あ、ラヴァ!」

 肩にいたラヴァが河原を滑るように上流に向かって駆け出すと、俺は反射的に追いかけた。


 追いかけているうちに周りの様子がおかしなことに気付いた。

 周りの音が聞こえない。

 河原を走っているはずなのに、いつのまにか森の中にいた。

 おかしいと思うのに俺はラヴァを追いかけ続けている。


 変だ。


 走っているラヴァが立ち止まる。ふわりと花の香りがした。

 周りを見ると花畑で遠くに大きな木が見える。ラヴァの向こう側には泉が見えた。

『契約者を得たんだね。得難いことだ』

 だれか若い男性の声が響く。

(やさしい。すき)

『その子がそうかな?』

 うっすらと透けた髪の長い男性で、トーガのような衣装を着ているようだ。眩しくてよくは見えないが、なんだか気圧されて、足が震える。


『ラヴァという名をつけたのはどうしてだい?』

「溶岩っていう意味でつけました。サラマンダーだから」

『ふむ。そんな言葉あったかな?』

「と言われても……ちょっと説明できないから」

(あるじいじめないで)

『虐めてないけどねえ。ああ、君は招かれた子か』

「招かれた?」

『ゴホン、いやなんでもない。その子を頼むよ。今はまだ、君からの魔力がその子の生きる糧だから』

「はい。でも、僕この子よりずっと早く死んじゃうと思うんだ。そうしたら、どうなるの?」

『その頃には一人で糧を得られるようになっているだろうね。大丈夫だよ。私も助けるからね』

「よかった! ラヴァにはファイアドラゴンくらい大きくなってほしいな!」

『ドラゴン……それには長い長い月日がかかると思うけど』

「ラヴァならなれるよ。かっこいいドラゴンに」

(ドラゴン! なる! あるじがよろこぶ)

「ラヴァは可愛いなあ」

 くるくる回るラヴァを抱き上げて肩に乗せる。心なしか、ラヴァの頬が紅潮してるように見えた。


『微笑ましいね。その子を頼むお礼で、私からも祝福を』

 そう彼が言うときらきらした光の粒が俺とラヴァに降り注いだ。光に包まれて何も見えなくなる。

『また会う時まで、その子をよろしく』

 ごおっと風が吹いて止んだ時には俺とラヴァは元の河原にいた。空を見るともう、日が暮れ始めていて、俺は慌てて屋敷に戻ったのだった。


 不思議な経験をした。思い出すと足が震えそうだ。圧倒的な何か。でも、怖くはなかった。


「母様、またご本読んで」

「いいわよ。夜行くわね」

「あ! 不思議な生き物が出るやつがいいな」

 母が読み聞かせてくれるのは神様のお話が多かった。魔物とか、悪い子にしてると、○○が来るとか、そんなお話。

「わかったわ。新しいお話にしましょう」

「わ~い!」

 思わず両手をあげてしまった。

「ルオ、食事中は大きな声を出したり、手をあげたりしてはいけないよ」

「は~い」

 父に怒られてしゅんとした俺を見てみんなくすくす笑った。もう。


「今夜は精霊のお話にしましょうね」

 母が話してくれた精霊の話はこうだ。



 神様が世界を創り、地上を生き物で満たして去った後、世界の調整を受け持ったのは精霊と呼ばれる存在だった。

 火、水、風、土、光、闇、が六大精霊と呼ばれ、その上に妖精を統べる王が立つ。

 自然のあらゆるものから精霊は生まれ、消えていく。

 風と水の精霊の加護を強く受けた民族がエルフ。

 火と土の精霊の加護を強く受けた民族がドワーフ。

 光と闇の祝福を受けた民族がヒューマン。

 獣人は特定の精霊の加護を持っていないが都度祝福を受ける。

 精霊王は精霊たちを見守って気に入ったものに祝福を授けることもあるという。

 精霊を怒らすなかれ。精霊のいない土地は生命の住めない土地になるという。


「精霊って怖いの?」

「いいえ、精霊はどこにでもいるのよ。見えないけれど。エルフやドワーフには見えているし、精霊眼という魔眼を持つ者にも見えるそうよ。あとはそうね、精霊のお気に入りや、愛し子かしら」

「そうなんだ」

 俺にはラヴァしか見えないけれど、あちこちにいるんだろうな。

 そして、どうやらあの人は精霊王っぽい。

 えええー。

 母が出て行った後ラヴァに魔力を搾り取られたが、今夜ばっかりは感謝したのだった。


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