若林⑨

 うーん……。

 津島くんの言うことを納得して受け入れちゃったけれど、あの人もかなり想像でしゃべってたんだよな。

 だいたい、与田くんからのあの取り組みみたいな助けが代々木くんの立ち直りの大きな要素なら、悪い記憶を呼び起こすどころか、良い思い出で、訊いたって全然平気かもしれないし。

 それか、飯田って先生が代々木くんをああやって救って、与田くんはその影響を受けたのかもしれないよな。与田くんが言ってた「そいつ」はその先生で、教師だから生徒のために頑張るくらいは当然で、感謝される必要はないってことだったとか。どんな人か見にいってみて、大丈夫そうなら尋ねてみようか。

 あれを考えた人にお礼を言えなくても、せめて真実は知りたいよな。

「唯」

 毎度おなじみの藍子だ。

「ん?」

「あんたさ、午後にサボる回数増えてるけど、大丈夫なの? そのうち学校に来なくなっちゃったりするんじゃないの?」

「そんなことないよ」

「心配してるよ」

「別に午後の授業サボりくらいで心配なんてしなくていいよ。自分だって師岡の授業をサボったこと、前にあったよね?」

 あー、もー。今日は天気悪いし、イライラして、あまりしゃべりたくない。

「違うよ。私じゃなくて、首藤さんが」

「え?」

「最近若林さんよく早退するけど大丈夫なの? って、私訊かれちゃった」

 うそ。

「ほんとに? 首藤さんに?」

「うん。そんなに話したことないのに、しかも、たまたまそばにいたからとかじゃなくて近寄ってきてで、びっくりしちゃった」

「……ふーん」

「それでさ、唯、興味ありそうだったから、そんとき訊いたんだけど、あのコが元気になったのって、保健委員のやつでじゃないんだって」

「え? そうなの?」

「うん。それも役に立ってはいるらしいけど、元々は家に訪ねてきて支えになってくれた人がいて、そのおかげで学校にほとんど休まず行けるようになったんだって」

「へー」

 なーんだ。じゃあ、今までの苦労は……。

「あー」

 あたしはそう言って息を大きく吐いて、倒れるようにして机に上半身を載っけた。

「どしたの? 急に」

「何でもない。それより、そっか、そうだったんだ。あたしって、仲がいいわけじゃない首藤さんにまで心配されるような存在だったんだ。こりゃー、もっと自覚して行動しなきゃな。もう授業をサボることはないと思うよ、うん」

「なに、それ」

 勢いよく体を起こし、おどけて偉そうな態度をとったことで、藍子は笑った。

「仲のいい藍子ちゃんはもっと心配だったはずだもんね?」

 藍子を、幼いコをあやす感じで軽く抱きしめた。

「何なの? 訳わかんない。でも、久々に唯らしく元気になってよかった」

「久々って何よ。あたしはずっと元気だけど」

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