若林⑦
「そうですか。すみません」
もう残っている人には全員訊いたな。結局、手掛かりさえ得られなかった。二年生にしぼったけれど、他の学年にも尋ねるんだったか。今からじゃ遅いよな。
「あーあ」
しょうがない。帰るか。
「あの」
寄りかかっていた廊下の壁から体を離した直後、真面目でおとなしそうな男子が近づいてきて、そう声をかけられた。この人にも、さっき訊いたはずだ。
「はい?」
「与田くんと仲がいい人、見つかりましたか?」
「いえ、駄目でした。見つからないというより、いないみたいですよね」
「やっぱり。実は、役に立つかわからないけど、もしかしたらっていうのがあるんです。僕、与田くんと小学校も同じで、クラスも一緒だったことがありまして、当時から与田くんは他のコと親しくなろうとする性格じゃなかったんですが、一人だけ仲が良かった感じの相手がいたんです。どういう話の流れでかは忘れちゃいましたけど、『あいつだけは認める』ってその人のことを言っていた覚えがありますし」
「へー、初耳です。その人の名前は?」
「代々木拓実くんです。僕が言うのもなんですけど、すごく地味な人で、いかにもガリ勉という見た目で、与田くん以上に無口なんです。与田と代々木だから出席番号順で最初席がそばで、それで話すきっかけがあって仲良くなったのかもしれません。ただ、遊んだりするほどだったのかはわからないですし、今付き合いがあるのかもまったく知らないんですが」
「その代々木くんってコは、中学はここじゃないんですか?」
「はい。どこの学校に行ったのかも僕はわからないです。ごめんなさい」
これが他の人の情報だったら取るに足らない感じだけれど、あの与田くんの話だからかなり有力だろう。
「いえいえ助かりました。いい情報を教えてくれて、どうもありがとう」
あたしは、また放課後すぐの時間に合うようにして、雛井中から一キロくらいしか離れていない公立の緑永中学校にやってきた。
この学校に代々木くんは通っているのだが、それはすぐに判明した。代々木くんのことを教えてくれた男子の後、多分同じ小学校だった人はここに他にもいるだろうから、知ってるコがいるかもと、与田くんについて訊いた人に尋ねたら、代々木くんのガリ勉っぽい風貌はすごく目立ち、緑永中では超有名で、だから近くに位置する雛井中でも、小学校が一緒だった人じゃなくても、知っている人はけっこういるのだそうだ。
「あの」
校舎に入り、親切そうな雰囲気の男子に声をかけた。
「あたし、見ての通り別の学校から来たんですけど、ここの二年生の代々木拓実くんって人に用があるんですが、どこのクラスとかご存じないですか?」
「あー、それなら二組です。こっち側の三階が二年の教室で、手前から一組という並びなので、行けばすぐにわかると思います」
「そうですか、ありがとうございます。あなたはそのクラスなんですか?」
「いえ。二年ですけど、クラスは別です」
代々木くんは本当にみんなに知られてる感じだな。
よっしゃ。これなら簡単に会って、訊けるぞ。
すぐに向かって、着くと、ちょうど二組の教室から出てきた女子がいて、話しかけた。
「すみません。代々木くんって人、いますか?」
「え?」
その人は教室のほうに顔を向けた。
「ちょっと待っててください」
小走りで中に入り、別の女子と何やら話すと、こっちに戻ってきた。
「もう帰っちゃったみたいです」
えっ?
「もうですか?」
あんまり早過ぎることで、「あなた、学校は?」とここの大人たちに違和感を持たれないように、若干だけ間を空けたけど、こんな事態にならないために、放課後すぐ来たってのに。
「はい。普段気にしないので、いつもこんなに早いのかはわからないですけど、たしか部活もやってないですし、まっすぐ帰ったんだと思います」
あいたたた。失敗したー。
もしかして与田くんからあたしが来るかもしれないと聞いたからか? それとも、友達がいなそうだから日常的か?
どうしよう。誰かに場所を訊いて家へ行ってみるかな、無駄足になっちゃうし。だけど、与田くんから聞いてたら、居留守を使われちゃったりして。
うーん……行ってみるか。
でもその前に、誰か何か知ってるかもしれないし。
「すみません、代々木くんってどんな人ですか? 仲のいい人とかっているんでしょうか?」
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