若林⑥
「アー」
あくびとため息が混ざったような声を出して、あたしは学校の自分の机に顔を横にして載せた。
「唯、どうしたの? 昨日」
藍子がいつものように隣に座って訊いた。その席の主の内藤は休み時間に必ずいなくなるが、どこに行ってるんだろう? まさかあたしたちに気を遣ってくれているのだろうか、よくわからない。
「別にー」
「師岡の授業だから、どうでもいいっちゃいいけど、サボるなんて珍しくない?」
「ちょっと具合が悪かっただけ」
「本当に? 大丈夫?」
「もう全然平気。元々たいしたことなかったから、心配する必要なし」
「だったら保健室で寝てればよかったじゃん」
「そうだけど、気分的に帰りたかったの」
「ふーん」
あの取り組みの中身を考えた人として有力なのは、第一に与田くんの身内、それから塾やネットで知り合ったなどの学校外の友人、あとは雛井中の他のクラスや学年で仲がいい人。他にも挙げようと思えばあるだろうけれど、確率が高いのはそんなところじゃないだろうか。
あの感じだと与田くんは頑張っても教えてくれなそうだし、ゆえに最初の二つだったらたどりつくのはほぼ不可能だろう。
三つ目も、たとえこれが当たりでも見つけるのは大変に違いないとあのときも思い、二年一組で訊いて回って時間的に校内に人が少なくなっちゃったこともあって、諦めた。
うちの学校に勧めてくれた与田くんにお礼は言ったんだし、もういいかなとも考えたが、やっぱりちょっと気になり、あと一回だけと、前回の訪問から一週間。あたしは雛井中に、この前よりわずかだけ遅い時間にやってきた。
校舎に入り、まっすぐ二年一組の教室へ向かった。
ドアのところから中を覗き見ると、もういないかと思った与田くんが席にいた。
でも、帰りそうだ。あたしはその場を離れ、気づかれないように遠くから様子をうかがっていると、カバンを持って教室を出ていった。
よしよし。友達はほぼゼロだし、部活もないんだから、早く帰るんじゃないかと思っていたが、計算通りのようだ。
与田くんがいたら、本人がいるのに仲がいい人を訊いて回るのはおかしいし、邪魔もされかねない。なので、帰ってからあの取り組みを考えた人捜しを行うことにしたのだ。
「すみません」
さっそく、決めていた「二年二組の目立たない印象の男子」から声をかけた。
「一組の与田くん、帰っちゃったみたいなんですけど、あの人と仲がいい人を知らないですか?」
「あ、全然知らない人なので」
「そうですか。どうも」
じゃあ、次。訊けるだけ訊くんだから。
「知らないけど、いないんじゃないかな」
「さあー?」
「その人がわかりません」
「同じクラスで一緒に学級委員をやっている椎野さんって人なら、話しているのを何回か見たことあるし、知ってるかもしれないですよ」
「いない、いない。あいつは友達がいないので有名だもん」
駄目だな。やっぱり諦めるしかないか。
「あれ?」
ん?
「ほら、この前言った」
何だ? 尋ね続けて今もいる廊下で、こっちの方向に歩いてきていた四人組の男子のなかの一人が、あたしを見て他の三人にそう口にした。
「ねえ、少し前にもうちの学校に来て、与田について知りたがってた人じゃない?」
「……はあ」
「あー、そういや、そんな話をしてたよな。何なの? あいつと付き合ってて、浮気調査とか?」
別の人が続けてあたしに訊いた。ていうか、別の「奴」と表現するほうが合っている。
「そんなんじゃないです」
全員面倒くさそうな奴らだ。とっとと離れていかないかな。
「アホか。そんなもん、ちげーに決まってんだろ。あいつに彼女なんかいるかよ。あの孤独大王に」
「じゃあ、何なんだよ?」
「あいつ、陰で悪いことしそうじゃねえ? 知能犯的な。それで何か事件が起きて、少女探偵のこのコが、今まさに犯人である与田に迫りつつあるのだ、って感じだよ」
「何だ、それ。ドラマや漫画の観過ぎだろ」
「でも、おもしれえし、ほんとっぽいな、それ」
「だろー」
うぜー。盛り上がんのは勝手だけど、どっか行ってよ。こんなふうに絡まれたりしないように人を選んで尋ねてたし、この学校は真面目な人が多そうで、今まではよかったのに。
「お前ら、話しかけといて、ほっといてんじゃねーよ。何が目的でやってるの? 協力してあげるよ」
「あー。お前、下心あるな。この前フラれたから」
「そんなんじゃねーよ。面白そうじゃん。与田の奴、呼んできてやろうぜ。あいつが、捜してる女と会ってどんなリアクションするか、見たくねえ?」
チッ。ふざけんな。
「いいです、本人にはもう会いましたから。どうも」
あたしは小走りで離れていった。
「あ、ちょっとー」
「やめとけよ。与田のこと探ってるなんて、変な女だぜ、きっと」
くそっ。帰ろう。
……。
やっぱり、あともう少しだけ。せっかく二回も来たんだし。
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