若林⑤
与田くんは生徒会活動の一環でうちの学校に来たんだから、あれを考えたのはここの生徒会役員かも。
あーだこーだ考えてもわかりっこないんだし、そうしている間にその人も帰っちゃうかもしれないから、思いついたその考えをもとにすぐに場所を訊いて、生徒会室へ向かった。
「すみません、ちょっとうかがいたいんですが……」
ドアを開けて言うと、中にいた女子二人と男子一人がこっちを向いた。
「はい」
いかにも生徒会役員といった、しっかりした感じの女子が近寄ってきた。
「生徒会役員の方でしょうか? あたし、中枝中から来た者なんですけど」
「はい、そうですけど、何でしょう?」
「こちらの学校の、学級委員をやっている与田くんっていう人がうちの中学に来て、心の健康から学校を良くするという取り組みを勧めてきまして、その際に生徒会の活動の一環で他の学校を支援しているからだって説明したんですが、間違いないですか?」
「……まあ、はい、そうですね……」
何だ? その煮えきらないような受け答えは。
「違うんでしょうか?」
「いえ、生徒会活動の一環……まあ、間違いじゃないですけど、与田くんがそうしたいと言うから承認しただけで、生徒会挙げてみんなでやっているというのではないです」
「え? そうなんですか? でも、今さっき与田くんに訊いたら、自分は派遣されて行っただけみたいなことを言ってましたけど」
「え? だとしたら、それは嘘です。その取り組みはうちの学校でもやってますけど、中身がほとんどできあがった状態で提案をしたのは与田くんなんですから」
「ええ? 本当ですか?」
「はい。そんな嘘を言う必要はありませんので」
んー? どういうことだ?
「じゃあ、与田くんはなんで嘘をついたんでしょうか? わかりませんか?」
「さあ? ……ちなみにその取り組み、そちらの学校でやって、どうなんですか? 勧められて良かったんでしょうか?」
「あ、はい。すごく。だから考えてくれた人にお礼が言いたくて、こうして来たんです」
「とすると、与田くんは恥ずかしかったのかもしれません。あの人、人付き合いが上手なタイプじゃないと思うので、素直に感謝を受けとめられずに」
「……そうですか」
つじつまは合いそうだけれど、あのとき与田くんがしゃべったことは作り話って感じじゃなかったよな。自分が役に立った割合は半分もいかないだとか。
だったら、そうか。仲のいい友達がいて、その人が主に考えて、与田くんはそれをこの学校で提案したり、うちに勧めたりしたってことじゃない? うん。あたし、冴えてるかも。
二年一組に引き返したあたしは、与田くんは多分クラスの目立たないほうに属するから、友達もそうである確率が高いだろうと、おとなしそうな男子を選んで声をかけ、尋ねた。
「与田くんの友達? いるのかな、そんな人……あ、ねー、与田くんと仲がいい人って誰かいる?」
その人は近くを通りかかった別の男子に訊いた。
「え?」
「この人が知りたいんだって」
「そんなのいないっすよ。見たことないし、あいつは一匹狼みたいな奴ですから」
「そうですか。どうも」
今の人たちが知らなかっただけかもしれないし、次は目立つ印象の男子に訊いてみた。
「知らない、あいつのことなんて」
じゃあ、知らない可能性大だが、念のため女子にも。
「いなそうですけど」
その女子に教えてもらった、同じく学級委員をやっているという女子は?
「いなそうですけど」
まったく同じ答えかい!
でもこの人は、友達はわからなくても、あの取り組みや考えた人について何か知ってるかも。
「与田くんが心の健康を通じて学校を良くする取り組みの提案をしたと思いますが、それを、一緒にかな? 考えた人がいるっぽいんですけど、ご存じないですか?」
「え? 本当ですか? わたしはてっきり与田くんが一人で考えたものだと思ってました」
あー、くそう。
なら、もう一回おとなしそうな男子。
「いないと思いますよ。部活もどこにも入ってないはずですし、僕、一年のときから同じクラスですけど、誰かと楽しそうにしているところを見た記憶がないですから」
……駄目だ、こりゃ。
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