椎野⑤
「静かにしてください」
担任の根元先生に話して時間をもらい、クラスでいじめの防止策について具体案や意見を求めたが、みんなまったくやる気がない状態で発言者は一人も出ず、周りとしゃべったりしてうるさくなった。
「誰か、意見のある人はいませんか?」
私語が収まらないなか、前に立っているわたしは声を大きくして言った。
すると、それまで横にある教卓で、何か書いたり仕事をして我関せずといった態度だった根元先生が、わたしとは比べものにならない大声を発した。
「コラ! 静かにしなさい!」
みんなはビクッとして、一気に静まり返った。根元先生は怖い先生ではないけれど、時折今みたいにうるさい場合などに強く注意し、そのときはすごい迫力で、生徒は必ずおとなしくなるのだ。
「もうそろそろ私に言われなくても、自分たちでやるべきことを考えて、できるようにならなきゃ駄目よ」
そう口にすると、先生はわたしのほうを見て続けた。
「学級委員も、もっとしっかり注意して、手際よくやりなさい」
「はい。すみません」
わかっているが、前に立つと緊張するし、うまくできないんだよな。
先生はまたペンを手に持って作業を始めた。
「えー……」
静かにしてもらってありがたいところだけれど、暗い雰囲気になったみんなの歓迎的ではない視線が一斉に注がれて、もっとしゃべりづらくなってしまった。
「い、いじめをなくすためにどういうことをしたらいいと思うか、意見のある人はいませんか?」
みんなは沈黙したままで、変わらず誰も手を挙げない。おしゃべりをきつく注意されて不機嫌そうなコもいるし、いじめをなくすそんないい方法があるならこっちが教えてもらいたいくらいだと思っている人もいるんじゃないだろうか。
どうしよう……。
「では、班ごとに話し合って、少し経ったら順番に訊くので、それぞれ誰か代表で意見を述べてください」
とっさにうまいことを言えたと思ったけれど、失敗だったかもしれない。みんなは徐々に話し始めたが、いじめについてよりも単なるおしゃべりをする状態に戻したようになってしまった。
「先生」
追い打ちをかけるように、廊下からドアを開けた別の先生にそう呼ばれて、根元先生が教室を抜けていった。先生はもう口を出すつもりはなかったと思うし、わたしも頼りにする気はなかったものの、やっぱりいてくれたほうが安心できていい。
先生は帰らないままちょっと経って、わたしはみんなに告げた。
「それでは話すのをやめてください」
思った通り失敗だったようで、全然静かにならない。それでももう一回、大きな声で言った。
「静かにしてください!」
誰だか女子の声で「静かにしてあげなよ」と口にしてくれたのが聞こえたが、それもつかの間、前のほうの席の男子たちがわたしに不満そうにしゃべった。
「うるせーなー。何かテキトーに意見が出たことにしちゃえよ」
「そうだよ。そんなの訊いたって意味ねーし」
わたしだって同じような気持ちがまったくないわけじゃないけれど、だったらあんたたちが代表委員会に持っていって恥ずかしくない意見を言って終わらせてくれればいいじゃないか。そう返したくなった。
何をすればいいか迷っていると、背後から声がした。
「ねえ」
顔を向けると、わたしの左の、ドア側の前の壁にずっと寄りかかるようにして立っていた与田くんが、わたしに近づいてきた。
「俺、ここにいなくてもいいよね?」
「え?」
どういう意味かと思ったら、与田くんはそのまま本人の席のほうへ歩いていってしまった。
ちょ、ちょっと。確かに前に立っている必要は実際にはないが、そんなに堂々と職務放棄をしなくても。しかもこんなタイミングで。
呆れちゃったのかな? せっかく我慢して頼まれた通りじっと黙ってたのに、この有様かよって。
与田くんは席に座った。何人かのコが、「どうしたんだ? 仲間割れか?」と思ってる様子で微笑んだりしながら、わたしと与田くんに視線を向けている。
あー、もー。だからわたしには向いてないし嫌なんだよ、学級委員なんて。
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