椎野②

 後期の初めての委員会の日を迎えた。

 わたしが出席する代表委員会は、各クラスの学級委員プラス生徒会役員というメンバー構成で、これからうちの学校におけるあらゆる事柄について話し合いなどをしていくことになると思う。

 放課後になって、委員会を行う教室に足を運ぶと、まだ来ている人はわずかだったが、すでに机が会議をする用の大きな一つの四角の状態に並べられていた。そして生徒会の役員の男子に、前の列に生徒会役員が座って進行役を務め、四角形の残りの三つの辺にあたる部分が学級委員の席だと教えられた。

 そうして今、前列の中央の席から生徒会長の日高さんが、配布したプリントをもとに活動の予定など諸々の説明をしている。

 女子である日高さんは、生徒会役員も学級委員などと同様に就任したばかりだけれど、実に堂々とした態度や話しぶりで、もう何年も会長をやっているかのようだ。思えば生徒会役員選挙のときもしっかりとした雰囲気が際立っていた。だからこそ当選したとも言えるだろうし、生徒会長をやるために生まれてきた人だと誰かが口にしても、わたしは大げさに感じない。

 日高さんは同学年で同姓だし、仲の良いコだったらどんなに心強くて、気が楽になれてよいかと思うが、残念ながら知人という間柄でさえない。といっても、活動的ではなく顔が広くないわたしと仲が良い人なんて数えるほどしかおらず、決して運が悪かったわけではない。なのに生徒会長が仲の良いコだったらと考える自分は、いまだに学級委員をまともに務める気になれていないんだなと、その往生際の悪さに呆れるし落ち込む。

「以上で伝えておくべきことについて一通り話しましたが、質問はありますか?」

 わたしたち学級委員に視線を向けて、日高さんは尋ねた。

「質問じゃなくて意見でもいいですよ。これに関して自分はこう思う、こうしてはどうか、であるとか、あればぜひ言ってください」

 その問いかけに対し、全員黙って、発言をする気配はない。

 日高さんの話はけっこう長かったし、今日は初回だから顔見せみたいな感じで、これで終わりになるかも。だったら嬉し……

「え?」

 私は意図せず声を出してしまった。音のボリュームは小さかったから、近くの人にも聞こえたか聞こえなかったか程度で目立つことはなく、それはよかったけれど。

 声を漏らしてしまった理由は、まったく予期していなかったことが起きて驚いたためだ。わたしの隣の席で、ずっと普段通りのやる気がない態度だった与田くんが、右手を挙げたのだ。

「はい」

 日高さんがそう口にして与田くんに発言を促した。

「提案でもいいんでしょうか?」

 は? 提案? 与田くんはゆるい感じを残しつつ問うたのだった。

「えーと、それはどういう?」

 日高さんは訊き返した。

「今後この場でやっていくんでしょうが、委員皆でどうするかを話し合う提案です。議案と言ったほうが良かったですかね」

「そうですか」

 日高さんは嬉しそうな表情になった。

「いいですよ。今日は話し合いは行いませんけれども、先ほど言いましたように皆さんには積極的に発言してもらいたいと思っていますので、大歓迎です。おそらく次回やることになる議論のときまで、各自考えることもできますしね。では、どうぞ」

「先ほど言った」というのは、日高さんが冒頭で「生徒会活動は役員だけの活動になってしまいがちです。そうならないように、一番に努力するのは私たちですが、皆さんの協力も欠かせないと考えています。この委員会のとき積極的に意見を述べたり、それぞれのクラスの生徒との良いつなぎ役になったりと、ぜひ活発に行動していただくようお願いします」と口にしたのである。

 まさかその言葉に触発されたわけじゃないだろう。ともかく、与田くんは立って話し始めた。

「学級委員はクラスの代表ですから、責任や負担が他の委員よりも大きいと思います。なので、立候補ではなく推薦などにより望まずになった人には、相応の見返りがあっていいんじゃないかと思います。ということで、該当する人は在任中、一、クラスで行っている掃除を一カ月間免除できる。二、クラスで給食が余った場合に一カ月間優先的におかわりができる。三、クラスでの席替えの際に一回、座る位置を最優先で選べる。四、給食の時間に一回、最低限のモラルは守っての自由な校内放送ができる。五、放課後に一回、本人のクラスか別の都合の良い教室を貸しきるかたちでパーティーを催せる。以上のなかから希望する一つを権利として与えられるようにする、ことを提案します」

 ……は?

 パ、パーティー? それに給食のおかわりを優先とか……。わざわざ手を挙げて何を言うかと思ったら、そんな内容?

 みんなも同じように思ったんじゃないだろうか、呆気に取られた様子で、教室は静まり返った。

 着席した与田くんは、周りの反応はどこ吹く風といった感じで平然としている。いったいどういうつもりなんだろう?

 発言をしたのは、美咲に学級委員をしっかりやるようにつつかれたからかもしれない。でも、前もって考えてきた案だとしても、最初の委員会で明らかに堅い雰囲気だったのに、やめておこうとか、中身をちょっと変えようとか、思わなかったのだろうか? 目立ちたい性格じゃないと思うし、場の空気を読めない人なのかな? でなければ、美咲に言われたことが気に障って、わたしへの腹いせでやったとか。

 何にせよ、どうなるんだ? これから。今まで以上に学級委員で苦悩する日々が続いていくことになるんだろうか。

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