椎野①
「ハー」
空はお見事というくらい綺麗に晴れ渡っているけれど、わたしの心は曇っている。しようという意識はなく、ため息を漏らしてしまった。
「どうしたの? 香織。暗い顔しちゃって」
隣を歩いている七海ちゃんが言った。
「だから、あれだよ。学級委員になっちゃったから落ち込んでるんでしょ」
さらにその隣にいる美咲がわたしに代わってそう返した。
今、わたしたちは在籍している中学校へ登校している最中だ。まだ少し距離はあるが、校舎が視界に入る位置まで来た。
「マジで? 決まってから、もうかなり経ってるよね? 本当にそれでなら、いいかげん諦めてさ。何か好きなことでもして元気出しなよ。しょうがないじゃん」
「私もそう言ってるんだけどね」
二人はそう続けた。現在わたしたちは二年生で、一年のときは三人一緒のクラスだったが、今はバラバラだ。
「だってわたし、リーダーって器じゃないし、人前でしゃべるのだけでもけっこう緊張するのに、すぐにそういう役割をやらされてさ。嫌になるよ」
「真面目で勉強ができるから、やりたい人がいないと押しつけられちゃうんだよねー。先生からすると、みんなは押しつけたんじゃなくて、ちゃんとふさわしいと思って選んだんだろうって考えて、満足しそうだし。本当にふさわしいと思って選んだ人もいるだろうけど、香織が嫌がってるのはだいたいわかるはずだから、同じことだよね」
七海ちゃんはのんきな感じで言った。彼女はわたしが落ち込んでいるのを面白がっているわけじゃないけれど、あまり悩んだりしないコで、どんなときでも態度が変わらず、こういう場面では少しデリカシーがない印象になってしまうんだと思う。
それはそうと、ほんと幼い頃からどの先生も、勉強の成績がいいコがそういう役割をやるのが妥当だみたいな顔をしているのが、わたしは理解できない。学校の委員会でやることなんて、そんなに難解で頭が良くなきゃできないものじゃないんだから、みんなをまとめたりするのが得意な、目立つ人のほうが絶対に適任なのに。あるいは、善くない行動が多いコに敢えてそういう役割を与えて責任感を持たせれば、教育として意味があると思うのに。
「だけど、そんなにしょっちゅうやらされるんなら、もう慣れっこじゃないの?」
七海ちゃんに訊かれて、わたしは答えた。
「慣れないし、慣れても嫌なものは嫌だよ」
「じゃあ、学級委員は二人なんだから、もう一人の人に頑張ってもらえば?」
「それは駄目だよ」
わたしが返事をする前に、また美咲が先に口を開いた。
「たしか、そのもう一人は与田だよね? あいつは頼りにならないもん」
わたしとともに学級委員になった与田くんは、勉強はわたし以上にできるが、頭が良過ぎるために学校でやることのすべてがくだらないと思っている感じの人で、いつも不機嫌そうだし無気力な態度だ。それゆえみんなから好かれていない。しかし、うちのクラスは女子もだけど、男子はより一層そういった責任の重い役割を務めようというコがおらず、前期も学級委員に推薦されて惜しいところまでいき、今回の後期の委員決めの際、どうせやらされることになるから無駄な時間は省きたいと思ったのだろう、自ら手を挙げて就任したのだ。
「でも、そっか」
美咲はつぶやくと、わたしに話した。
「わかった。私が与田にしっかりやるように言っておくから、もう気にするのやめなよ。悩んだってつまんないだけだし。ね?」
美咲は人見知りせず誰とでも気兼ねなくしゃべれる性格で、みんな話しかけるのにちょっと躊躇してしまうような与田くんとも普通に会話できる仲みたいだ。わたしなんて半年もクラスメイトでいながら、与田くんと話したことはほとんどない。やっぱり学級委員は美咲みたいな社交的な人がふさわしいんだよ。
「うん」
そう言ってくれても、与田くんが頑張ってくれるとは思えないし、心が晴れたわけではなかったが、美咲に悪いからわたしは微笑んだ。
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