潮崎⑥

 僕は自宅の自分の部屋のベッドに横になっている。そして頭の中は今日やった面談で埋め尽くされている。それは軽く整理するとこういう内容だった。

・人間は基本的に、行うことに対して良い結果を残そうとするはずである。勉強のテストをするならいい点を取りたいし、スポーツの試合をするなら勝ちたいし、部屋を掃除するのであれば綺麗になったほうがいい。自分の満足感や他人による評価、その他いろいろな面でプラスなのだから。しかし、好ましくない行為をしてしまうときもある。その理由は大きく分類すると、①理解や認識、自覚といった問題②感情の問題③能力的な問題④環境など外部の問題となる。

・具体的に例を挙げて説明すると、①は、ルールやマナーに反することをしているが、そのルールやマナーを知らなかったり、知っているけれど、守らなくても大丈夫なレベルのことだからという意識でやるようなケース。②は、怒りや不安や欲望などによって、いけない自覚は十分あっても、やってしまうようなケース。③は、同じく良くない自覚は十分だとしても、忘れ物をしょっちゅうしてしまうであるとか、勉強や運動などが単純に苦手でうまくできないといったケース。④は、駄目である自覚は十分で、なおかつ、通常ならやらずにいられるが、何もしないと自分がいじめられてしまう環境にいるために、いじめる側に加わってやっているといったケース。

・複数当てはまる場合もあるし、最初は外部に問題があって望まずにやっていたけれど、しだいにいけないという意識が薄れ、積極的にやるようになるといった、移行パターンも考えられる。ともかく、やめる気はあるがニコチン中毒で禁煙できない②の人に、いかにタバコが体に悪いかこんこんと語る①などの、合っていない対策では効果はないか少ないだろう。四つすべての対策を用意できれば、どれなのかわからなかったり、何人もいてそれぞれ理由が違っていたりしても、解決なり効果が見込める。

・人間は他人に好ましくないところがあると、その原因は①と考えがち。一方で、自分が抱えている良くない点に関しては、②から④のいずれかだと答える割合がおそらく大きくなる。それは、好ましくない振る舞いは、評価を落としたり誰かに恨まれるといった、得よりも損につながるほうが多いわけで、普通は改善しようとするはず。なのにそうしないのは、「改善しない」よりも「改善できない」という表現が正確だからで、②から④はいけない自覚があってもやってしまう性質のものだから、自分はいずれかに当てはまると考えるものの、他人の場合は、少し努力すればできるのに、ただやらないだけのように見えるし、そう思いたかったりするために、そうした判断をしがちなのだろう。ゆえに、正論で責め立てるようなこともしがちだけれども、他人もやはり改善するのが難しいのだと考えて対策を立てたほうがうまくいくことが多いだろうし、そうでないと不毛な対立を招いたりしかねない。

 あんな話をするなんて、まったく想定外だった。

 自分で考えたようなことを言ってたけれど、もしかして飯田先生支持の生徒の誰かが勧めたのか? いや、どっちにしても、そんな付け焼き刃な感じの話しっぷりじゃなかったよな。

 でも、じゃあなんで一回目のときはああいった話をしなかったんだ?


 みんな、あの二回目の面談についてどう思ってるんだろう? 誰かが休み時間にでも話題にしないかなと思ったが、何も聞こえてこない。

「意外な話で驚いた」のか、「別になんとも思わない」のか、「多少驚いたけど、どうってことはない」って人が一番多そうだし、僕もどうでもいいといえばどうでもいいんだけども、知れるなら知りたい。でも、わざわざ尋ねる気にはならない。


 僕の三回目の面談が始まった。

「何か言いたいことは見つかった? 前回の面談で話した内容に関してでももちろんいいよ」

 飯田先生はそう口にした。

「いえ、ないです」

 深刻な悩みでも話したら、どういう受け答えをするんだろう? 前回の面談みたいに思ってもない展開になったりして。

 試したい気持ちはけっこうあったが、悩みなんてないし、嘘を言って後で面倒なことになりでもしたら嫌だから、やめておいた。

「じゃあ、前回の続きの話をしてもいいかな?」

「はい」

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