潮崎④
うーん。
別に何かを期待していたわけじゃないが、『もう? それで終わっちゃっていいのかよ』というのが真っ先に浮かんだ感想だ。噂で聞いていた通りに悩みを訊いたし、それに対してこっちが何も返さなかったとはいえ、しゃべる気がない僕でももう少し会話したほうがいいんじゃないかと思うくらいあっけなかった。本当は言いたいことがあるけど口に出そうか迷っているとは考えなかったのだろうか? まあ、考えなかったんだろうな。
しゃべったことを口外しないと約束した点に関しては良かっただろう。飯田先生のその言葉の信用度は高いし、言っていたように胸の内にあるものを吐きだせて楽になって、感謝する生徒もいるかもしれない。
でも、不満や悩みの解消にたどりつくイメージはわかないし、これも自ら口にしていたが、話しても無駄だと思うのが大半の生徒の反応じゃないかな。あの面談をいくら続けたところで、親や他の先生たちから良く見られるようになるくらいにうちのクラスを改善するのにはつながらないだろう。
落ち着きがないと注意されたりすると言ってはいたけれど、別に先生は他の大人たちの評価などはどうでもよく、ただただ純粋に生徒のためを思っている気がする。とはいえ、親身な態度をとりながら、あまりに助けにならなければ、今現在みんなが飯田先生に少なからず抱いているに違いないいらだちの感情を怒りにまで昇華させてしまったり、逆効果にもなりかねないんじゃないか?
「よお」
今日最初に面談をやる予定の瀬尾が、休み時間に僕のところに来た。もう別の誰かから聞いているかもと思ったが、約束通り僕に面談の内容を尋ねた。
「え? それで終わり?」
僕が思ったのと同じリアクションをして、しょうもないことを始めたもんだというような表情をした。
「サンキュー」
そして最後にまたその台詞を口にして、離れていった。
おそらくあいつら三人ともサボるだろうし、回を重ねるごとにその人数は増えていくかもしれない。
飯田先生は善い人だし、僕は頑張ってほしいと思っている。クラスのなかにははっきりと応援の姿勢を示し、悪いことをした奴はちゃんと叱ったほうがいいよなどと真剣にアドバイスをしたりする生徒もいる。その人たちが、面談についても助言してあげることが考えられる。
だからなんとかなるだろうし、真面目じゃないから、僕が先生に何かを言うことはないだろう。
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