滝沢③

 沖原からのメモを読んだ次の日の放課後、廊下で多香子が一人になったのを見て、私は近寄って声をかけた。

「ねえ、多香子」

「ん?」

「代々木にさ、勉強を教わったんでしょ?」

「あー、うん」

「代々木の教え方、わかりやすかった?」

「んー、まあまあじゃない」

「そう。それにしても、勉強で困ってたんなら、私も教えてあげたのに」

「……そうだよね」

 あれ? 多香子の表情が少し変わり、真剣な感じになった。

「別にタッキーより代々木のほうが良さそうって思ったわけじゃないんだよ」

 すると、小声になって耳もとでささやいてきた。

「タッキーには本当のこと教えてあげるから、ちょっと来て」

「え?」

 本当のこと? 沖原が書いた通り、何かあるのか。

 多香子は、すでに二人きりなのに、さらに周囲の生徒たちから遠ざかる位置へ私を誘導した。

「何なの? 本当のことって」

 まさか多香子は代々木が危険なことをする計画の具体的な中身を知っていて、それを話す気なんじゃないか。そんな雰囲気もあって、私は緊張しながら尋ねた。

「タッキーさ、どこまで知ってんの? 体育で着替えてるとき、私の親が勉強のことでうるさいからテストの点を上げられるように代々木に教えてもらったんだって話をしたけど、それ聞いてた?」

「うん。近くにいて、だいたいのことは耳に入ったけど」

「実はあれ、嘘っていうか、親が勉強についてうるさいのは本当だけど、いつものことだし、それで何かをするつもりなんてなかったんだ」

「え? そうなの?」

「うん。でね、知ってた? 代々木ってテスト前、試験勉強しないんだよ」

「いや、知らないけど」

「私、一年のときのテスト前に、しゃべってて試験範囲を聞き逃したことがあってさ。そんときも席が近かった、代々木ならわかるだろうと思って、訊いたんだ。そしたら代々木もわからなかったんだけど、なんか聞き逃したわけじゃなくて知らなくていいんだって感じなの。そんで、『なんで?』って言ったら、『テストは授業で勉強したことを理解しているか確認するものだから、テスト前に試験範囲のところだけ改めて覚えたりするのはおかしいから』って答えたんだよ。そんなの普通、建前でも口にしないけど、本気だなんてもっと思わないじゃん。思わないよね?」

「うん」

「でも、テスト前の授業で先生が試験勉強していいって自習時間にしたときも、テスト当日の直前とかも、本当にテストのための勉強はしてないみたいでさ。家ではやった可能性もあるけど、わざわざそんな嘘をつく必要はないはずだし、だから外見のイメージほどはいい点を取れないのかって思ってたのに、この前の中間は良かったみたいじゃん?」

「そうだね」

「だから中間の後でたまたま代々木が目に入ったとき、『今回は試験勉強したんじゃないの?』って話しかけたの。そしたら、『まあね』とか何とか言ったかな? で、それから少しして、『自分の言う通りに勉強をやってみてくれない?』って言いだしたんだ」

 え?

「なに? ごめん。ちょっと最後の部分がよくわからなかったんだけど」

「つまりね、私が勉強を教えてほしいって頼んだんじゃなくて、代々木のほうから、自分の勉強のやり方を私にやってみてほしいってお願いしたわけ」

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