沖原⑤

 そうして俺は代々木への意識を再び強くしたが、渡部が言っていた通り、行動で気になるところは特にない。

 それにしても、以前の個性丸出しなあいつの見た目が変わった理由はやっぱり恋なんかじゃなかったみたいだな。俺はそうじゃないかと思いつつも、逆にあそこまでわかりやすく恋して変化するなんて現実にはほとんどないことだから、合ってるのかもって感覚になっていた。

 渡部の心配がもし的中しているなら大問題だ。だけど一方で、学校がわざわざおかしな環境にしていると思っていて、その誤りがわかって姿を変えたなんて、これぞ俺の思い描いていた「変人・代々木」だと嬉しい気持ちにもなった。変人ってのは褒め言葉だ。だいたい、あいつが復讐心で悪事を働くかもというのはおそらく杞憂だろう。そんなのは普通の奴がやるようなことだからだ。とはいえ、可能性はゼロじゃないし、違う発想でやばいことをするなんてのもあり得るから、三人で決めた通りにちゃんと監視はするが。

 でも、個人的にはやはり悪いことなどしないだろうという気持ちが強い。これまでは自分の好きなタイミングで見ていたからなんともなかったけれども、今は刑事のように欠かさずやらなければならず、しかも犯人である確率が相当低い人物を見張っている感じでモチベーションは上がらないし、日が経つにつれて代々木を気にするのがうっとうしくなってきた。

 そんな折、誰かが入れたんだろう、俺の机の中に見知らぬ一枚のルーズリーフが入っていた。そしてそこには「教室以外の場所でも手掛かりが見つかるかもしれないから注意して。わかったら、本人に見られないようにこの紙は破って捨てて。意味がなくなっちゃうから、この伝言のことをわざわざ確認しにこないでね。じゃあ、よろしく。Tより」と、手書きではなく印刷された文字で書かれていた。

 内容から考えて差出人は渡部か滝沢だが、Tだから滝沢だろう。代々木の教室外の行動も注視しろということだな。俺は別の教室での授業のための移動中や体育の授業前後の校庭や体育館などではそれなりに目を向けている。多分、滝沢はそれをわかっていないから頼んできたのではなく、休み時間にクラスの教室以外のところにいるときのあいつを見てほしいと言いたいに違いない。

 あいつはガリ勉姿の時期は休み時間中ほぼ自らの席にいたが、普通の見た目になってから人並みに廊下へ出ていくようになった。俺もその後をついていけば何かあるかもと思っていたけれど、代々木本人や他の誰かに気づかれた場合の良い言い訳が思いつかなかったし、本格的に刑事のまねごとをするようで馬鹿馬鹿しい気持ちにもなって、たまにしかやらずにいた。それじゃあ不十分と言われたら、何も返せないくらいに決めたことをまっとうできていない自覚があった。

 しかし滝沢の奴、名前をイニシャルで記したり、見られないようにこの伝言の紙は破って捨ててだの、用心過ぎるだろ。字が手書きじゃないのはまさか、見られても筆跡で自分からだとバレないようにするためか? たしか滝沢も代々木が本気でやばいことをするとはそんなに思ってなかったはずだよな。

 もしかして、何かあったのか? 代々木が危険なことをやる気だという証拠となるものを発見したとか。いや、だったら真っ先にそれを伝えるだろう。そこまで切迫感があるようには文面からも感じられなかった。

 じゃあ、滝沢が刑事みたいに行動するのが楽しくて、その流れでって感じか? でも、それなら自分で代々木が教室を出ていった後を尾行すればいいよな。

 とすると、気にして見ていることを代々木にバレそうになったか、もしくはバレたか。だからあんな伝言で俺に託してきたと考えればしっくりくる。けど、だったらそのことも書くはずか。

 あるいは真面目な滝沢のことだから、いったん代々木を見張ると決めたからには周到かつ慎重にやろうとしているだけかもしれないな。代々木の後をつけるなら、滝沢よりも同じ男子の俺のほうが目立たなくて合理的だろうし。

 何にせよ、俺も気になってはいたから、代々木の休み時間中の教室外での動きもしっかり観察することにした。滝沢がせっかくそうしているので、俺も一層気づかれないように慎重に、代々木が教室を出ていったら、少し間を置いて俺も行き、どこかに向かうようなら、さりげなく後を追うことにした。

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