特化した精神の夢

天川裕司

特化した精神の夢

タイトル:(仮)特化した精神の夢



▼登場人物

●浦野有人(うらの ゆうと):男性。45歳。精神科医。都内の大きな心療内科で働いている。

●上司:男性。60歳。心療内科での有人の上司。一般的なイメージでお願いします。

●小木野広務(おきの ひろむ):男性。38歳。根っからの悪鬼。精神異常。

●警察1~2:男性。30~50代。一般的な警察のイメージでOKです。

●素須美香子(すす みかこ):女性。30~40代。有人の本能と欲望から生まれた生霊。


▼場所設定

●某心療内科:有人達が働いている。都内にある大規模な病院のイメージで。

●カクテルバー:お洒落な感じ。有人と美香子の行きつけ。

●有人の自宅:都内にある豪邸のイメージで。ラストではクローゼットの中に広務の死体を隠していた。


▼アイテム

●Reveal True Nature:美香子が有人に勧める特製のカクテル。これを飲んだ人の本性は更に活性化され現実に暴露される(こちらは何となくのニュアンスで描いてます)。


NAは浦野有人でよろしくお願い致します。



イントロ〜


あなたは精神異常者ですか?

こう言われて怒る人はどれぐらい居るでしょう。

でも、なぜ怒るのでしょうか?

例えば本当の事を言われて怒るとなると

どうにも矛盾した事になってしまいます。

それに…この先はとても放送できないので控えますが、

その精神異常に魅せられる人も中には居るようです。



メインシナリオ〜


ト書き〈大規模な心療内科〉


上司「え?大学病院へ行くって?それ本当か?」


有人「ええ。こんな時期に抜けてしまう事は本当に残念で、申し訳ないと思っておりますが、やはり自分の将来の事ですので、この辺りで決めさせて頂ければと思っております」


俺の名前は浦野有人(うらの ゆうと)。

今年で45歳になる精神科医。


これまでドクターとして20年やってきていたが、

この辺りで自分の人生の岐路を考え、

新しい道へ進もうと思っていた。


今まで勤めてきたこの心療内科は都内でも結構大きな病院で、

今度新しい精神医療の為のプロジェクトを始めようとしていたところ。

俺はその責任者に抜擢されかけていたがそれを蹴り、

この病院を立ち去って新しい場所へ行こうとしている。


それには理由があった。


ト書き〈カクテルバー〉


有人「ったく、今さら驚いたような顔しやがって。俺が居たって居なくたって変わらねぇじゃねぇかあの病院は。俺の意見なんて何にも聞かず、ついこの前にも、俺が担当していたあの患者を病院は世間に野放しにしちまったんだから」


当院で働いている上の連中との軋轢。

下につく者は俺の言う事をちゃんと聞いてくれるが

上の連中は全く聞かない。


そう、隔離病棟で勤務していた時。

俺が10年診続(みつづ)けてきた精神異常の患者をあの病院は退院させてしまい、

そのまま世間に野放しにしたのだ。


その患者の名前は小木野広務(おきの ひろむ)。


そいつの精神の中には未だに凶暴な殺人鬼が棲み着いていて、

過去に何度もの殺人を犯したが精神鑑定の結果、

刑事責任能力はないと判断され、

そのままゴチャゴチャとした複雑な経過を通って

結局あの隔離病棟にやってきた。


俺は初めこそ自分の感情を捨て、

その彼の為にいろんな治療を試みようとしてきたが、

どうにも奴の精神は良いほうへは改善せず、

ずっとその狂気を胸の奥深くに隠したままになってしまった。


俺はその事を充分知っており、その上で…


「彼はまだ社会復帰できるような状態じゃない。絶対にここに隔離して、特定の人以外とは接触させず、環境を整え、同じ犯罪を繰り返させないようにしなきゃ」


と病院側に何度も訴えたのだが奴らがそれを聞かず、

「俺のほうに問題がある」とまで言ってきた。


小木野広務と言う男は本当に狡猾な奴で、

自分が精神異常なのを客観的に見て知っており、

その状況を把握して利用できるものを利用し、

自分の欲望を満たす事だけを考えている。


あんなのを野放しにするとは…。


そんな事をグチグチ言っていた時…


美香子「こんばんは♪お1人ですか?もしよければご一緒しませんか?」


と1人の女が声をかけてきた。


彼女の名前は素須美香子(すす みかこ)。

都内でライフコーチやメンタルヒーラーの仕事をしていたようで、

過去に精神科の助手として勤めていた事もあり、

俺とも少し話が合った。


そんなこんなで打ち解けて、暫く彼女と喋っていた時、

少しずつだが不思議な気がしてきた。


何か「昔どこかで会った事のある人?」のような気がして、

だからか心が和まされ、俺は自分の事を

もっと彼女に打ち明けたくなってくる。

気づくとその通りの行動をしていた。


美香子「え、そうなんですか?精神科のお医者様…」


有人「ええ」


軽く自己紹介してからそのあと、

今自分が悩んでいる事を彼女に話した。


有人「あの凶暴な男を世間に戻してしまうなんて、いったい病院は何を考えてるのか。本当に、あの時のような残忍な殺人がまた起きてしまう…。あなたもどう思いますか?こんな事が世間で罷り通ってるんですよ」


本来なら義務として、患者のプライバシーを損ねてはならなかったが、

その時の俺はもうどうかしてたんだろう。


新しい病院へ行き、自分の再起を図るなんて言ってたが、

それはただの逃げ口上に過ぎなかった。

そんなアテはなく、俺はこのまま精神科医としての世界から

身を引こうとまで考えていたのだ。


でもこのとき彼女は、俺のそう言う悩みを聞いて

少し不思議な事を言ってた。


美香子「そうですか。まぁ仕方がありませんね。世間と言うのはそういったもんですから。…でもあなた、その患者さんの事をどこかで、羨ましい…なんて思ってるんじゃありません?」


有人「…は?」


美香子「いえ、お気に触ったのなら申し訳ありませんが、ふとあなたの表情や身振り手振りを見ていると、そんな気がしたもので」


有人「どう言う事です?」


俺は少し怒り口調で聞いていた。


美香子「いえ、別に他意あっての事じゃありませんが、直感であなたがそう思われているような気がして、なんだかその患者さんの事をひどく気にかけていながら、実はどこかで彼のあとを追ってみたい…そんなふうに思われてるんじゃないかと、ちょっと思ったものですから…」


そう言ってフッと俺の顔をなにげに見てきたその彼女の表情は

冷静沈着そのもので、悪びれもせず、

「自分の言った事は本当だろう?」

と言う強い信念を見せていた。


そんな調子を見ていると、

何だか少し俺のほうにも自信がなくなり、

さっきまでのような姿勢はもう取れないでいた。


美香子「まぁそんな固くならずに、どうですか?こちらでも召し上がります?」


そう言って彼女は指をパチンと鳴らし、

そこのマスターに一杯のカクテルをオーダーした。

それを俺に勧めて…


美香子「どうぞ、気分が和らぎますよ?それは『Reveal True Nature』と言う特製のカクテルでして、私もここでよく飲んでいます」


そしてもう1つ不思議な事は、

彼女がそう言うとその気にさせられる…と言う事。


普通なら今の流れで怒って帰ってるところなのに

彼女は俺の心の裾を引くようにどうしても放してくれず、

寧ろ俺のほうが彼女に寄り付こうみたいなそんな形で、

これまでの自分を固めていた土台がなんだか

ガラガラ音を立てて崩れていくような気がした。


そして俺はそのカクテルを手に取り、

勧められるまま、その場で一気に飲み干していた。


有人「ふぅ、結構効くねぇ。それにしてもこの酒の名前、怖いもんだw」


ト書き〈殺人〉


そして、それから数日後。

俺が言ってた通り、第2、第3の悲劇がまた起きた。


小木野広務は自分が捕まったこの都内からまだ離れておらず、

町に潜伏したまま、次の計画を練っていたらしい。

殺人の計画。


有人「だから言ったんだ!あんな奴を退院させて世間に送り込むなど、子羊の囲いの中にジャックザリッパーを投げ入れるようなもんだぞ!くそう!」


俺はこれまでの彼への様々な治療を試みていた自分を思い出し、

その努力が全部水の泡になってしまった…

また元の木阿弥で、更なる悲劇を生んでしまった、

この事への悲哀がどうしても抜けきれず、

それからまた自暴自棄になりかけ、

医療の道からすっかり足を洗う事を決意していた。


有人「…俺はこの世界とも、この世間とも合わない人間だ。夢や理想なんて、この世界に入門しようとしていた時だけの幻だった。ハハw初めからそうだったのか。なら、こんな無駄な努力…徒労しかない世界になんか足を踏み入れなかったのに」


(逮捕劇)


警察1「小木野!神妙にしろ!」


広務「放せぇ!放せやぁゴラァ!!」


警察2「こいつ!暴れるな!」


小木野広務は結局逮捕され、また同じような過程を通り、

同じような精神病棟へ送られるのか。


あいつは何にも反省なんかしていない。

騙されちゃいけない。


あいつは狡猾な奴なんだ。

人が思ってる以上にその心の中では次の殺人計画を綿密に練っており、

人を欺きながら、精神鑑定に必要なテストなど

それぞれの項目において全部自分の都合の良い様(よう)

演じ尽くす事ができる。


正直に言うが、俺は生まれてこのかた、

あれ程の狡猾で、残忍で、自分の計画を…

人の根本的な土台を変えた上で達成する奴なんか見た事がない。


おそらく奴は、人格を変える天才だ。

常人では理解できないところだろうが、

少なくとも精神科をそれなりに長くやってきた奴なら解るだろうか。


対人により、二重人格を巧くコントロール出来る奴など

この世に存在しないと思われてきた。

でもあいつは、それを本当にやってのける奴なのだ。


でもあいつはこれで捕まった。

いっときの過ちを犯した後の2度目の逮捕。

これで世間の目が覚めて、奴を正しく裁いてくれたら

もう2度と同じような悲劇は起きまい。


ト書き〈その後〉


しかしその後。

小木野広務はまた同じようにして釈放された。


そしてまた精神病棟へ送られ、それから数年後。

また俺が見てきたのと同じようにして、世間に返され

かよわき子羊とも言える市民の中に野放しにされていた。


それから奴は姿を消して、

今どこで何をしているのか分からない。


ただこれまでの事で学習し、ヤツ持ち前の才能を発揮して、

今度は警察に捕まらないようにとそちらの算段もしっかり立てて、

今でも世間で起き続けている数々の殺人の

主犯になっているんじゃないか?

…と俺は思っている。


ト書き〈有人の自宅〉


美香子「そう、なるほど♪そこに隠していたのねぇ、彼の死体…」


俺がいつものように自宅でワインを飲んでいた時。

いきなり美香子が背後に現れ、そう言ってきた。


有人「うわっ!?あ、あんた…ど、どこから…」


俺の家は豪邸で、セキュリティもしっかりしている。

ドアは二重ロックにしてあり、部屋の窓も開いていない。

なのに、そうしていきなり俺の前に現れた彼女を見、

俺は不思議と言うか、恐怖のようなものを感じた。


有人「あ…あんた一体、何者なんだ…」


美香子「私はあなたの分身…とでも言えば分かるかしらね?なるほどねぇ。やっぱりあのとき私が言った事、当たってたんだ。あなたは小木野広務の様な人材に憧れ、それを真似して殺人を繰り返している」


美香子「彼が死んだのは数ヶ月前よね?」(クローゼットの中で横たわっている広務を指差しながら)


美香子「なのに、今でも似たような殺人事件が続いてる。あれ、全部あなたの仕業でしょ?彼を行方不明にして、全部その責任を彼になすりつけたままで…」


美香子「手口もすっかり真似して、残された現場の状況も同じようにしていたわよね?あなたの中にも、殺人鬼が住み着いていた…そうは思わなかった?」


ト書き〈逮捕される有人を見送りながら〉


美香子「私は有人の本能と欲望から生まれた生霊。その2つが作り上げた理性を活性化して、なんとか彼を犯罪の道から救おうと思って現れたけど、無理だったわね。彼の欲望は凄まじかった。病院を辞めた時、それが有人がその後歩む人生の転機となった」


美香子「有人、あなたは広務を治療しながら密かに彼に憧れていて、精神異常者なら何でもできる…なんて単純に曲解していた。犯罪は犯罪。つまり罪は罪。あなたへの裁きはこれからやってくるのよ。自分についても説明できないあなたが、解る筈がないかもしれないけれど…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=vrwnCazG0PQ

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