第17話 七緒少年、お尻に一撃する
屋根伝いに進み、とにかく巨大魚の落ちた現場を目指す、お師さま、フーリーさん、ぼくでした。
だけど行く先々の通りでは住民たちが襲われる「現場」だらけで、一向に先へ進むことが出来なかった。
「武器をとり戦え」と突っぱねるお師さまだったけれど、さすがに目の前で襲われていると、無視する事ができない。
ぼくは獣人とゾンビが入り乱れる現場に、ゾッとする。
そこは三方からの通りが合流する、小さな広場だった。
その広場が今や地獄絵図と化していた。
三方の通りから、それぞれ逃げ込んできた獣人たち。
押し合い
獣人の絶叫とゾンビの
「大きくフーリーンを振るなよ、住民に当たる」
「はい、フーリーさんっ」
剣の師匠はぼくの返事に軽く頷き、闇夜に刃をきらめかせてゾンビを小間切れにしていく。
フーリーさんなら上段からばっさりと切り伏せられるけれど、ぼくは背が低くかった。
大人の腰当たりまでしかない。
なので徹底的に足を狙っていく。
「ふー、ふー、ふーっ」
ぼくは呼吸を整え、獣人を襲うゾンビのお尻へまずは一撃。
初めに足を狙わないのは、いきなり足を断ち切ると、ゾンビに掴まれていた獣人ごと倒れてしまうから。
だからまず尻に一太刀。
何だこいつと振り向かせた所で、足を狙う。
「ふうふう、ふっ」
短く息を吐きながら、脇を締め、腰の動きで振り抜いた。
狙うのは膝か、
切断しなくても深々と切り込みを入れれば、自重でへし折れた。
ばたりと倒れて、なーぬーと言った顔を向けるゾンビに止めを刺す。
上段から愛刀を振り下ろし、横たわるゾンビの首を断つ。
転がる頭を見つめながら、ぼくは「できた」って小さく呟いた。
妖狐という力を持つぼくだけど、刀を使った動きはこの世界に来て一から教わったものだった。
フーリーさんから教わった通りに体が動く。
これが単純に嬉しかった。
一体きっちり仕留めた事により、周りの空気が変わる。
まずはこやつからと、ゾンビたちが先にぼくを襲い始めた。
「うん、それならそれで、やりやすい」
ぼくは息を整えひたすら足を狩り続ける。
ぼくが一体を仕留めている間に、お師さまとフーリーさんは密集した戦場を縫うように移動して、十数体をバラバラにしていた。
お師さまは鎖の長さを20㎝にして、ほとんどステゴロのようにゾンビを屠っている。
フーリーさんも刀ではなく短刀(2本持ち)に切り替え、ゾンビを解体していた。
2人が通り過ぎた後には、原型を留めない肉塊が石畳にごろごろ転がっていて壮絶だった。
広場のゾンビを一通り片付けて、残りはフーリーさんに任せつつ、お師さまは一息つく。
もう全身、腐肉まみれだった。
黒いローブはずっしりと血を吸って重くなり、もう要らないとばかりにそこら辺へ放り投げた。
「はあ……お気に入りだったのに……
おーいナナオー」
名前を呼ばれて、ぼくは子犬のようにお師さまの元へ駆ける。
ぼくも返り血を浴びて、全身が赤黒くまだら模様になっていた。
「はいお師さまっ、はあ、はあ、はあっ……」
「すっごく目が、キラキラしてるわね。
子供ならもっと、どうしてこんな事にーっとか、動揺しなさいよ。
まあ無理か、中身が中身だけに。
それよりナナオ、どこもゾンビに嚙まれてない? 大丈夫?」
「はい大丈夫ですっ」
ぼくはハキハキと答えて、腐肉で汚れた尻尾を振った。
「それならいいわ」
「でもお師さま……」
ぼくはここで初めて言いよどみ、ちらりと周りを見た。
「そうね……生き残った獣人たちの中に、かなり嚙まれた者がいるでしょうね。
でも私たちが、気にしてもしょうがない。
嚙まれた後、呪い(ゾンビ化)の症状が出るのはだいたい40分後。
それまでに、聖属性の浄化魔法をかければ大丈夫よ。
私たちに聖属性の魔法は使えない。
そこは教会の僧兵に頼るしかない。
発症初期でも、教会が何とかしてくれるわ。
その教会が、ちゃんと動いてくれればの話だけれど」
そこでお師さまが周りを見て、きりりと眉を上げる。
「あいつら僧兵を出し惜しみして。
今はちゃんと、出しているんでしょうねっ。
出してなかったら許さないんだからっ、まったくっ!」
ぷりぷりと怒るお師さまが、自分で言っておいてふと心配になった。
「……本当に大丈夫よね? 出しているわよね?
僧兵を出していなかったら、この街、積むわよ!?」
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