第39話 模擬戦

 シャナ姫一行の問題も一段落したと思えた頃、地下牢に閉じ込めていた内の一人が奥歯に仕込んでいた毒を飲んで自害した。

 それだけ用意周到だった者が、あんなに判り易い場所(下のクチなど)に『透視玉』と『盗聴玉』を仕込むだろうか?……という疑問は残った。

 更に、拘束後すぐに使わなかったのは救助の可能性があったと考えるなら、今後の防衛体制の再検討が必要だ、という事に他ならない。


 そして、もう一人は「殺せー!」「さっさと殺せー!」と叫び続けている。


 シャナ姫に陰から別れを告げさせてから死なせてやった方が良いような気がするが、エレジに相談してみるか。


          *


 元 メイド長の問題は棚上げしたままだが、全員検査の結果は二人を除いて(シャナ姫も含め)〝シロ〟となったので、後宮内(地下牢を除く)での行動を許可した(武器の携帯は許可できないが)。

 後宮の外は『タダノ・ヒメノ屋敷』の敷地内に限り少人数なら散策くらいは許そうかと思う。後宮の中だけでは息も詰まるだろうしね。

 と言うのも、『インノ・オラ王国』と魔族領との境界上の岩山の麓に発現した『2つ目の魔界ダンジョン』の探索が喫緊の課題だからだ。

 つまり、地元である『インノ・オラ王国』の戦士の参加は必要な事と思われた。

 まあ、その為のシャナ姫との『見合い』だったのだが……。些か向こうとこちらとの温度差があったのであるが。いや、もっと根本的な考え方に差異があったと言うべきだろう。


 一方で、魔族領に急ぎ戻ったポム・プラム(魔族)とロリババアからもと言ったアクションはないらしい。

 『1つ目の魔界ダンジョン』の入り口に交代で警備を置いているのだが、魔族側との人員の交代時にも特にコメントもないらしい。


 解せない(笑)。

 いや、まあ……『聖女』らしいオクノ・アイドスの存在が影響している可能性も拭い切れないのだが。



 先日まで攻略していた『1つ目の魔界ダンジョン』は、ここ『ウルヒ』の南にある『辺境都市クシャ』から魔族領に入って少し進んだ岩山の麓に発現したものだ。

 そして、今回発現した『2つ目の魔界ダンジョン』は魔族領を挟んで反対側、と言えそうな場所である。


 もう一度位置関係を確認しよう。

 アイントハルフ王国の東の外れにあるのが『ウルヒ』でその東は魔族領である。

 一方、『ウルヒ』の北に国境を挟んで『チン王国』がある。その『チン王国』の東に国境を挟んでいるのがシャナ姫の『インノ・オラ王国』という小国である。ここ『ウルヒ』から見ると魔族領を越えた北東になる。

 この『インノ・オラ王国』と魔族領との境界上の岩山の麓に発現したのが『2つ目の魔界ダンジョン』である。


 しかし、先方が仕掛けた愚かな行為に依って、計画は大きく変更を余儀なくされている。

 第一に、『2つ目の魔界ダンジョン』の攻略の為に『インノ・オラ王国』に正式な協力を求められない状況であるという事。

 第二に、『見合い』の為に遣ってきた106名(シャナ姫を含む)の里帰りは不可能な状況だという事だ。


 つまり、仮に今こちらに居るメンバーから『攻略組』を選抜しても、自国に戻らせる訳にはいかないので、見張り的な意味からも大変効率が悪いのだ。


 ただし、シャナ姫以外の105名は全員【真名呼び】の洗礼を受けているので、まずオレを裏切れない筈ではあるのだが。

 まあ、『インノ・オラ王国』に近づいて妙な里心(?)がついたら、その場で【真名呼び】してやれば良さそうな気もする(笑)。

 と言うか、さっさと全員〝お手付き〟して《とろっ、とろ》にしておけば何の問題も起きないにょ……とイクイクに責められているのだが(笑)。



 そんな訳で(どんな訳だよ)『インノ・オラ王国』のメンバーの戦闘の力量を見る為に『模擬戦』を行う事になったのだった。


 まず、腕自慢の者を5人x4組選抜した。これは向こうのメイド長(現在のトップ)エレジと参謀格の警護主任ポワンに選抜を任せた。

 その2組5人ずつで『模擬戦』を戦わせ、そこで勝った組同士で再度戦わせた。

 この10人の内、目立つ戦闘力を見せた5人が一応の選抜メンバーとなる(残った5人が『補欠』だが、定期的に再戦の機会は設ける旨、伝えている)。


 こうして選ばれた5人と、我が『タダノ・ヒメノ屋敷』の精鋭である『ダンジョン攻略組』との最終的な模擬戦となった。

 『タダノ・ヒメノ屋敷』からは、


  ピー・ピノ(竜騎士、竜騎隊一番隊隊長)

  アル・チチ(槍術士、鍛冶部門長)

  シルク・ラク(人族、ビキニアーマー)

  キクル・クル(人族、控えめなローブ)

  ポプルル(猫耳の獣人族、厨房主任)


 いや、ポプルルはでもでもないぞ(笑)。木剣を持たせたら結構強い。

 一方、『インノ・オラ王国』からは、


  ポワン(獣人族、警護主任)

  エレジ(獣人族、メイド長)

  ミニョロ(獣人族、シャナ姫のお付き&ご学友)

  メニーケ(獣人族、シャナ姫のお付き&ご学友)

  アウダーシア(獣人族、シャナ姫の神輿を担いでいた筋肉美女)


 ポワンとアウダーシアは納得だが、まさかのメイド長と、シャナ姫のお付き2人だった。まあ、『お付き』とは言え、イザという時は身体を張って姫を守る立場だと考えれば当然かも知れない。

 『模擬戦』を見守っていたシャナ姫が誇らしげだったのが、見ているオレの心も和ませてくれた。


 マータは審判、イクイクは最終選抜を担当する。



 ルールは基本的には木剣を使った戦闘だが魔法全般ありあり(攻撃魔法も防御魔法もOK)である。

 ただし、当然だが女性であるからして、頭部(いや、顔面)の防具はいつもの模擬戦同様最強度の防護魔法を附与されたフルフェイスの『兜』を用意されている。

 場所も、いつもの訓練場だ(と言っても、まあ竜騎隊の竜舎前の広場にそれっぽくオブジェというか弾除けの岩などを配置した相変わらずの間に合わせだが)。



 そして、最終的な模擬戦は熾烈を極めた。

 当然、どちらも負ける訳にはいかない……思いが重い(いや、駄洒落か(笑))。


 特に現在の『ダンジョン攻略組』のメンバーであるシルク・ラクとキクル・クルにとっては絶対に最後まで立っていなければならない使命感のようなモノが、ばち、ばち、と火花を散らしていた。


 それは、多分、シャナ姫のお付きであるミニョロとメニーケにも重い枷として填められていたのだが。昨日同じシャナ姫のお付きであった者の死を知らされた2人にとって、名誉挽回の機会でもあったのだろう。いや、シャナ姫にと知らしめたかったのかも……知れなかった。


 だから、最初に脱落したのはその4人だった。

 いや、戦闘力が10人の中で劣っていたとは見えなかった。しかし、力は〝無心〟でなければ100%ひゃくぱー発揮できないモノなのだ。


 次いで、筋肉美女のアウダーシアが竜騎士のピー・ピノに力勝負を挑んで破れた。まあ、竜騎士の〝硬さ〟は半端ないからなあ(笑)。

 アウダーシアの『胸に晒と腰に褌』という日本テイストな戦闘服(?)はもう少し見たかったトコロであるが。


 そのピー・ピノも、ポワン(棍棒)とエレジ(攻撃&防御魔法)の見事な連携に倒された。

 更に、ポワン(棍棒)とアル・チチ(槍)が相打ちになって……


 劃して最後に残ったのは、メイド長エレジ(攻撃&防御魔法)と、厨房主任ポプルル(木剣)との一騎打ちであった。



 結局、(多分)エレジが勝ちを譲ったように見えたが〝相打ち〟という審判マータの宣言で『最終的な模擬戦』は幕を閉じたのだった。


          *


 戦い済んで日が暮れて……

 その夜は後宮の大広間で大宴会と相成った。


 そんな中、最終勝者ポプルルだが、厨房主任として忙しく働いている。

 しかし、オレの側へ料理の皿を持ってきた時に(今夜はチンチンの位置に坐る)シャナ姫にポプルルの裸エプロンを、ぺろん、と捲って見せたのだった。

「お殿さま、悪ふざけは止めてください!」

「そう言うな、シャナ姫に見せてやれ♡」

「す、凄いですぅ♡……わたくしと同じくらいなのに、立派ですぅ♡」

 いや、まあ、ナニが『立派』かという話だが(笑)。


 そんなこんなで夜が更けて……

 今夜は後宮の(完成したばかりの)大浴場で『最終的な模擬戦』の参加者10人による〝裸エプロン〟タイムであった(笑)。


 特に、シャナ姫のお付きであるミニョロとメニーケは〇二歳にして《ぱっくん》だけでなく、《最終奥義》まで済ませてしまったのであるが……

 オレは知らんぞ(笑)。



            【つづく】

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