第35話 2つ目の『魔界ダンジョン』

 朝、久しぶりに爽快な目覚めだった。

 喩えるなら、ヒメの回復魔法をフルで貰ったみたいな感じだろうか。

 寝ぼけまなこだったオレの視界が映像を結ぶ。

 オレの腕を枕にしてアイドスが寝息を立てている。

 可愛い♡

 軽く、ちゅっ、と口付けると、アイドスが瞳をしばたかせて目覚めた。


「おはようございます、旦那さま♡」


(ヤバい……朝から『旦那さま』って、破壊力が凄過ぎ(笑))

「おはよう、アイドス」

 オレは腕枕ごとアイドスを抱き寄せてもう一度、ちゅー、しようとしたのだが……

 ―― 何故か、また空振った。

「だ、旦那さま……わ、わたくしを揶揄からかってお遊びになるなんて、酷いですぅ!」

「い、いや、アイドスからシテ欲しかった……からだよ」

「むぅうっ!」

 むくれたアイドスも可愛すぎ(笑)。

 しかし、なんとか誤魔化せた。

 良く判らないが、軽いキス以外はオレから行くとダメで、アイドスからきてくれたら何でもできる……っぽい。

 実際、昨夜もそれで滅されずに(笑)済んだ……っぽいのだが(笑)。


 恥ずかしそうに頬を染めて、ちゅー、してくれたアイドスが、更に真っ赤になって訴えてきた。

「でもぅ、昨夜の最後の……あ、アレは、とっても、とっても、と~っても、恥ずかしかったですぅ!」

「『最後のアレ』って、何だい?」

 オレが訊き返すとアイドスが更に、ぼっ、と耳まで真っ赤になった。

「で、でで、ですから……わ、わたくしから旦那さまに跨がって……い、いやあ、口にするのも恥ずかしいですぅ!」

「まあ、アレはアイドスだけの特別だからね♡」

 オレがそう言うとアイドスが不思議そうに訊いてきた。

「ど、どういう意味ですの?」

「まあ、なんと言うかヒメにはヒメのやり方あるように……チンチンならこれ、イクイクにはこう、みたいにそれぞれの特別があるのさ……」

 ちょっと(いや、だいぶ?)が満載だがオレはそれで押し通す。

「だから、アレはアイドスだけの仕方だからね♡……他の人には内緒だよ♡」

「つ、つ、つまり……こ、これからも……わ、わたくし、から……す、スルのでしょうか?」

「え~、嫌なの?」

「い、い、嫌というのじゃ…な、ないのですが……」

 アイドスが真っ赤になって視線を泳がせている。

 可愛い♡

 昨夜もそうだったが、恥ずかしがるアイドスは、マジ可愛い♡ これでオレより6、7歳上だというのが信じられない。

 もうずっとアイドスに上になって貰いたい。

 まあ、勿論、真相は半分くらいだけど……仕方ないよね。アイドスとは今の処それしか方法がないのだし。


 だから、今朝もアイドスをオレの上に抱きあげると、真っ赤になった彼女がオレの口腔を舌を絡ませて責めてくる。

 そんなアイドスが、唇を離して恥ずかしそうに言った。

「あ、あの……だ、旦那さま」

「どうしたの?」

「えっと……い、イクイクさまから……あ、朝のちゅーをしたら……その、えっと……ぱ、ぱ、ぱっくん、するように、と教わったのですが……」

「む、無理しなくても……い、いいよー」


 昨夜は、ぱっくん、はシテ貰ってない。

 ……多分。

 多分と言うのは、昨夜は、アイドスからのキスで始めたら無事に最後まで〝シタ〟といっても……実は途中からの記憶が曖昧なのだ。

 アイドスがスタンバっていた5回の『回復魔法』は、果たして使い切ったのか……その辺りの記憶もなかったりする。

 『朝チュン』というのは小説でスルーする場合の常套手段だが…………現実で起きると、些か怖い。


 そんなコトを考えているうちにアイドスが掛布の中で身体を沈めていった。

 そして、ぱっくん、し始めたタイミングで来訪者があった。

 一応、ノックはあった。

 しかし、ポプルルはいつも返事を待たずに入ってくる。

「あれ、お殿さま探しましたよぉ……でも、ご自分の部屋に居るなんて珍しいですね…」

 そこまで言ったポプルルが慌てて口を押さえた。

 掛布の下の方が膨らんでいるのに気がついたのだろう。

「アイドスさまですか?」

 小声で確認してきた。

「朝食は先に始めて良いから……」

 オレは頷いてからそう言った。

 休日の朝食は遅いし、(いつもは全員参加の食事も)参加者はまばらだ。


          *


 そんな訳で大分遅れて朝のブリーフィングに顔をだす。

「今朝は随分でしたね?」

 ヒメが、ちくり、と言ってくるが仕方ない(笑)。

「ヒメが附与してくれた加護が効いてぐっすり眠ったよ」

 しかし、この返しは自分でも拙かったと思った。

「お殿さま、そこはおひいさまのヤキモチですから、おた、おた、して差しあげるトコロかと」

 チンチンにも変な〝お叱り〟を戴いてしまった。

 仕方ないのでいつもの席に坐ってそのままヒメの唇を奪う。

 舌を絡ませてエロいキスをしてから解放すると、怒って言い募る。

「み、みんなの前で……こ、こういう事は……よ、宜しくありませんわよ!」

 そうは言ったが機嫌は直ったようだ。


「う、うん……そ、それじゃあ朝のブリーフィングだが…ここまでの話をざっとまとめるとだな……」

 マータの話では今朝早くにポム・プラム(魔族)が急用ができたと言って魔族領に戻ったそうである。

 しかも、何故かこの屋敷に馴染んでいたロリババアも同行したらしい。

 解せない(笑)。

 いや、まあ……やはり『聖女』らしいオクノ・アイドスの存在が影響しているのだろう、なあ?

 朝の早い時間だったがマータが気を利かせてプーに騎竜で送らせたそうだ(流石はマータだ)。

 しかも、ダンジョンの入り口に警備を置く話までつけてくれたらしい。

 こちらからも交代で人をだす事に決まったそうだ。

「そこで、今朝の議題だが……」

 マータがギルマスに頷いた。

「もう1つ『魔界ダンジョン』が見つかりました」


 先日まで攻略していた『魔界ダンジョン』はここ『ウルヒ』の南にある『辺境都市クシャ』から魔族領に入って少し進んだ岩山の麓に発現したものだ。

 そして、今回発現した『魔界ダンジョン』は魔族領を挟んで反対側、といえそうな場所である。

 アイントハルフ王国の東の外れにあるのが『ウルヒ』でその東は魔族領である。

 一方、『ウルヒ』の北に国境を挟んで『チン王国』がある。その『チン王国』の東に国境を挟んで『インノ・オラ王国』という小国がある。『ウルヒ』から見ると魔族領を越えた北東になる。

 この『インノ・オラ王国』という小国と魔族領との境界上の岩山の麓に2つ目の『魔界ダンジョン』が発現したらしい(ポム・プラムが急ぎ帰国したのもこれが原因だったかも知れない)。

 それにしても非常に微妙な場所である。

 魔族領『プルポプル』とヒト族の領地の国境は、実はかなり曖昧である。魔族領は基本的に山岳地帯である。為に、国境は『山の麓』的な取り決めになっている。

 『ウルヒ』も東部は山岳地帯だが(だからダンジョンが多数発現したのだが)魔族領との国境は山脈の切れ目に流れる川を目印にしている、らしい。


 魔族とはもう100年以上も友好な関係を続けていたし、ここ『ウルヒ』も『クシャ』も定期的に交易さえ結ばれている。

 しかし、『ウルヒ』と『インノ・オラ王国』とはあまり表立って関係性が作れていなかった。

 ダンジョンと言えば『ウルヒ』だが、(魔族領『プルポプル』からの依頼だとしても)いきなり他国のダンジョンに出掛けて行く訳にもいかない。


「そこで、お殿さまの出番です」


 チンチンが話を続けた。

 先日来あれこれ話がきているらしいオレの『側妻そばめ』候補に『インノ・オラ王国』の第九皇女が居るらしい。

「もう間もなく『後宮』が一部完成しますので、今週にでも〝お見合い〟をしたら宜しいかと」

 …………う~む(笑)。

 隣のヒメの様子を、ちら見た、が平然としていた。

 ギルマスやアイドスにはあからさまに嫉妬する癖に『側妻そばめ』は問題ないらしい。まあ、だったから、だろうか?

 ヒメだけでなくその場に居た全員が了承して来週早々〝見合い〟と相成った。

 しかし、詳しく話を聞いたら、その第九皇女シャナ姫は12歳だそうである。12歳といったら小学6年生だよ? どうしろ、と?

 まあ、政略結婚なんてこんなモノか(笑)。


 ただ、『クシャ』は有体に言えば〝『3』の関係者〟と近しい立ち位置なのだが、『インノ・オラ王国』は取り敢えず〝白〟らしい。


「そう言えば、地下牢に閉じ込めておいた金ちゃんと銀ちゃんは、何か吐いた?」

 思い出してイクイクに訊いたら、怯えているだけで役には立たないらしい。まあ、いきなりポム・プラムが〝首を刎ねろ〟とか言っていたし、仕方なかろう。

 目一杯脅してから解放してやる事にした。

「もう1人の『3』のメイド長はその後どうなった?」

 こっちも〝魔道具〟で脅して『透視玉*』と『盗聴玉*』を仕込んだ、という話は聞いたが、未だ進展はないらしい。

「あの女には〝魔道具トノの代わり〟でなくトノのアレで、ひい、ひい、言わせてやるべきにょ♡」


 変な〝オチ〟が付いたトコロで本日はお開きになった。

 しかし、12歳って……やれやれである。



            【つづく】

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