第32話 魔界ダンジョン 第1層2回目(2)ボス部屋

 『ジン』を一言で表わすならひげもじゃらな太ったオッサンだ。

 下半身が煙のようになっているのは、まんま、『アラジンと魔法のランプ』からでてきたヤツと思えば早いだろうか?(いや勿論、この世界の人間にはイミフだろうが(笑))。


 しかし、太い4本の腕を持ち、身の丈3メートルはありそうな巨体である。更にその2本の腕に巨大な湾刀を握っている。

 これが3体だ。レベル的には、中央のヤツが588、左が419、右が407だ。中央のヤツが『ラスボス』だろうがあまり差がないな。


「プラムとマータは少し距離を取ってくれ……それで、ロリバ…シクル先生、中央のヤツに火炎魔法を頼む!」

「任せよっ!」

 背後から嬉しそうな声と共に詠唱が始まる。

 その間に、プラムは右、マータが左、オレとチチで中央のヤツ、と目配せで配分する。

「中央のヤツが『ラスボス』だろう、左右を倒したら加勢を頼む……ギルマスは防御力アップを!」

 そこまで言った時、ロリババアの火炎魔法が中央のヤツに飛んだ。


 ―― が、思ったとおり殆ど効かない。

「な、何故じゃあっ!」

「まあ、ジンも炎属性みたいだしな……そんなモンだろう」

「むぅうっ!」

 悔しそうなロリババアの呻きを背に、オレは合図した。

「皆んな、行くぞっ!」

 一斉に4人で突撃する。まあ、ロリババアも一発撃てば気が済んだろう。


 オレとチチで中央のヤツの2本の巨大な湾刀をそれぞれ受け止める。

 ギン、と派手な音が響き、火花が散る。

 重い。

 押し込まれそうな身体をギルマスの『防御力アップ』の魔法に背を押される。


 右に、ちら、と視線を投げるとプラムが押している。正眼から振り降ろした幅広のロングソードをジンが両方の湾刀を交差させて受けた。つまり、プラムのロングソードを受けるのに2本の湾刀が必要だったという事だ。流石は魔族だ。


 いや、左のマータも負けてはいない。同じ幅広のロングソードを袈裟切りに振り降ろして湾刀を弾き、返す刀でもう1本の湾刀も弾き飛ばして胸元に突きを見舞う。オーガを一突きで屠ったマータの渾身の突きだ。しかし、巨体のクセに背後に飛んで避けた。

 飛んで避けた、というのは正しくないかも知れない。その巨体が、ゆらっ、と揺れて後ろへ流れたように見えた。


 厳しい戦いの予感の中、チチと2人で辛うじて押し返した中央のヤツの足元に魔法陣が構築されてゆく。


 ヤバいっ!

「ロリババア、【魔法陣解除キャンセラー】だあっ!」

「キサマっ!……あとで覚えておれぇ!」

(あ、いかん、素で『ロリババア』って呼んでた(笑))

 それでも、ロリババアは【魔法陣解除キャンセラー】の魔法を飛ばしてきた。


 突然消えた魔法陣に中央のヤツが怯む。

 そこをオレとチチとで押し込む。

 2本の湾刀をオレとチチで下から跳ねあげると、何故か受けた時より軽い。そのまま更に押し込む。

 その巨体がマータの時のように、ゆらっ、と揺れて後ろへ流れた。

 オレは、一歩踏み込んで右下から腹に向けて刀を振りあげた。


 奇妙な〝手応え〟があった。


 背後に逃げるように巨体がその場に沈み込む。

「足だーっ! いや、腹の下の煙が弱点だっ!」

 オレは叫びながら更に〝そこ〟に切りつける。チチも左から槍を突き通す。

 巨体の上半身もブレるように揺れ、どうっ、と背後に倒れ込んだ。

 空かさずオレは飛行魔法で飛びあがり、ジンの脳天から真一文字に切り降ろした。


 ―― ボシュっ!


 派手なエフェクトが発生してジン(ボス?)が煙になった。

 同時に右と左のジンも前衛の2人が倒していた。

 プラムもマータも流石である。


 煙が晴れると珍しくドロップアイテムが落ちていた。

 拾ってみると……赤い葉っぱだ。そこに緑の葉脈が通っている。

 鑑定してみると『ドラゴンハナミズキ』とでた。

 もしかしたら、魔族領にあるという〝例の【秘薬】の素材アイテム〟の一つかも知れない。



 そんなこんなで第1層を通過したオレたちは、ボス部屋の出口に例の魔道具を設置した。

 これは大魔導師さま発案の新しい〝魔導技術〟で最近ウルヒの冒険者ギルド管轄のダンジョンで導入された新システムである。

 冒険者ギルド管轄のギルドカードでボス部屋の出口に設置された魔道具に【マーキング*】すると、次回同じダンジョンに潜った時は次の階層の入り口に飛べるのだ。


 オレは自分の『ギルドカード』を魔道具に翳して【マーキング】すると、そのまま第2層の入り口まで行き、そこにも魔道具の『受け側』を設置した。

 まあ、この魔界ダンジョンでも同様に作動するかは次回確認する事とする。


 ただし、ここに設置した魔道具はオレのギルドカードにしか反応しない特別製である。

 この魔界ダンジョンに既に金銀が入ったという事は、『3の組織』第三皇女絡みの冒険者が遣ってくる可能性も高い。

 注意しておくに越した事はない。


 まあ、大魔導師さまの〝極秘の魔道技術〟を盗めるやからがおいそれと居るとも思えないのであるが。

 しかし、この魔界ダンジョンでも『3の組織』第三皇女絡みに対する注意は怠らぬようにしなければならない。


          *


   ■ヒメノ・ヒメ視点■


 わたくしは今、チンチンと一緒に辺境都市ウルヒの『魔法学園』に来ている。

 護衛はイクイクとシルク・ラクにキクル・クルだ。

 場所は辺境都市ウルヒのご領主さまのお屋敷の東の外れにある。わたくしたちに戴いたタダノ・ヒメノ屋敷の反対側だが、『転移魔法』を使えるので問題ない。


 少し前に『魔法学園』の理事長が屋敷に遣ってきて、わたくしとチンチンに魔法実技の講師になって貰いたいと懇願してきたのだ。


 その時、応対にでたモブがあっさり了承したのだが、本音を言うならわたくしの意見も聞いて欲しかった……んだけどぅ。

 『我々〝外様〟がこの街に根を張るにはとても良い機会』なので喜んでお受けした、とモブは言ったけどぅ……『魔法学園』の理事長ってすっごい美人だしぃ、まだ26歳だっていうのにあの色気、理不尽だわよぅっ!


 まあね、モブに色仕掛けする意味なんかないから、良いんだけどぅ……でも、なんでこんなにムカつくのかしらね?


 それにしても、この『魔法学園』は他国からも評判を聞きつけて入学希望が絶えないそうである。現理事長が就任してから急速に伸びているらしい。若いのに大したものである。


 それで、『魔法実技の講師』というのは何をするのかと言うと、1クラス30人くらいの前で実際に魔法を放って見せて、学生たちにもそれを実践させるのだ。

 『学校』などという処に通った事がないので『教える』というのは中々難しい。

 わたくしもチンチンもお抱えの家庭教師が居たので、座学も実技も1対1で教わってきた。それがいきなり30対1である。

 実技の場でも30人も居れば個人差もあるし、力量の差も垣間見える。かといって、一人一人に構っている訳にもいかない。

 初めはわたくしとチンチンとで別々のクラスを受け持ってくれという話だったが、慣れるまでは2人で見させて貰う事にしておいて良かった。

 わたくしが全体に目を配り、チンチンには個別の指導を任せている。


 今日で3回目だが、早くも男子学生の間にチンチンのファンクラブができたらしい。

 授業が終わった後の理事長とのお茶の席でそんな話がキクル・クルからもたらされた。彼女も魔法が使えるので授業の補佐もして貰っていたのだが、女子学生がそんな噂話をしていたらしい。

 ちょっと悔しい(笑)。まあ、良いけどね……。


 モブは元の世界で『学校』には子供の頃から10年以上も通っていたらしいので、ダンジョンから帰ってきたら色々教えて貰うつもりだ。早く帰ってきなさいよぅ!


 って、いうか……イクイクが理事長にタダノ・ヒメノ屋敷に来ないかと進めている。ちょっと待ちなさいよぅ!

 イクイク、あなたなのよぅ!



            【つづく】

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