第31話 魔界ダンジョン 第1層2回目

 食事も終わり寝るには早い時間なので、オレはマータに声を掛けた。

「ちょっとダンジョンの入り口にキズのような、紋章のようなモノがあるんだが、ちょっと見て貰いたい」

「判った」

 マータが立ちあがるとポム・プラムも腰を浮かせて言った。

わしも行こうか?」

「いや、取り敢えず2人で見てくるよ」

 オレは手を挙げてプラムを制してマータと歩き始めた。

 実は、2人だけで確認したい事があったからだ。


 オレは、ダンジョンの入り口に着くと、壁の辺りを漠然と指差してマータに言った。

「この辺りを見ながら話を聞いてくれ」

 マータは少し不審そうな顔をしたがオレを促すように軽く頷いた。

「これは、単なるオレの〝感〟みたいなモンだが、どうも魔族領の2人と『温度差』があるような気がするのだ」

「良く判らんがわたしに『探りを入れてくれ』というなら、無理だぞ……わたしはそういう腹芸は得意ではない」

「知ってる、大丈夫だそれは期待していない」

「そ、それはそれで腹立たしのだが?」

 マータが本気で不快感を顔にだした。

「まあ、オレも漠然とした〝感〟みたいなモンだし、何か確証がある訳ではない」

 オレは一旦言葉を切ってプラムたちの方を透かし見た。

 思ったよりも距離があって表情とかは読み取れなかった。

「さっき、ロリババアがいきなり火炎魔法を使っただろ?」

「『ロリババア』というのはナプ・シクル殿の事か?……確かにアレは少し変だったな」

「あの2人が事前に繋がっていた可能性は殆どないが、このダンジョンの『魔物』にも違和感があるし……少しだけ注意して貰えれば、今はそれで良い」

「判った」

「屋敷に戻ったら、また話そう」


 皆の元に戻るとプラムが『どうだった?』という顔をしてきたので『勘違いだった』と答えてその日は終わった。


 一方、その頃イクイクは ――



   ■イク・イクイク視点■


 あーしはトノに命じられた通り、第三皇女屋敷のメイド長を呼びだす事に成功した。


 場所は元・第七皇女殿下屋敷の地下牢である。『元』と呼んだが、実際には未だに『おひいさま』の所有である。いや、正確には『大奥さま(ご母堂さま)』に所有権が移譲されている。

 おひいさまは国王陛下からの勅書ちょくしょにより『辺境都市ウルヒを治める領主バクル・シグドラ辺境伯に下賜かし事になっているからだにょ(笑)。

 そして、大奥さまはここには居らずウルヒの『タダノ・ヒメノ屋敷』にお住まいなのだが、ここは今でも厳然と『大奥さま&おひいさま』の所有なのである。

 過去の密約に伴う事象であって、宰相や第三皇女が狙っているようだが、無理にょ(笑)。

 このお屋敷は未だに部外者が立ち入る事ができない鉄壁の『魔法結界』で守られているからだにょ!


「は、離してくだされ、イクイクさまっ!」


 地下牢の壁際の天井から裸に剥かれた第三皇女屋敷のメイド長が吊り下げられている。

 両手首には魔法の発動を阻害する魔法具が、両足首には重りに繋いだ鎖が填められ、爪先立った足指の先が辛うじて床についている状況だ。


「や、約束が違うのではございませんか?」


 勿論、トノから受けた命令は『第三皇女の【真名】を教える』見返りにメイド長から『3の組織』第三皇女絡みの情報を貰う事である。

 あーしはその耳元でトノから教えられた『第三皇女の【真名】の内、2文字』を教えた。


「3文字の内2文字でもお前の主人を脅す役に立つにょ」


 更にメイド長の耳を引っ張り彼女の【真名】の全ても口にした。

「な、な、何故それをっ!」

 メイド長の顔に恐怖が走る。

 【真名】を知られた女の末路は〝最底辺の奴隷堕ち〟だからにょ。

 何故なら殆どの奴隷商は【真名】を使って相手を奴隷に堕とす魔道具を所持しているからだ。

 更に、一部の奴隷商人は【真名】を使って女奴隷を性奴隷に堕とすスキルを持っている。

「お前が我々に協力するならお前の【真名】を奴隷商人に売る事はないにょ」

「も、もも、勿論、ご協力させて戴きますでございますっ!」

 恐怖に支配されたメイド長の敬語が可変おかしい(笑)。


 勿論、トノの約束に沿ってメイド長を呼びだしているが、しかし、トノに加えられた拷問の〝返礼〟をするコトは別腹である(笑)。

 当然、トノやおひいさまや第二夫人チンチンさまはあずかり知らぬ事ではあるが、マータ以下我らが〝忠臣〟の共通認識であるにょ。


「トノに貴様たちが何をしたか知らぬとでも思ったかにょ?」


「ひぃっ!?」

 メイド長が、びくっ、と震え視線を逸らす。

「…し、しかし、あれは第三皇女殿下のご命令で已む無く致しました事でございまして……」

「だから、なににょ?」

「わ、わたくしには……た、タダノさまに危害を加える意図はございませんでしたっ!」

 必死に言い募るメイド長の鼻を摘まんであーしは言ってやったにょ。

「まあ、口ではナンとでも言えるからにょ(笑)……だから、お前の身体に直に訊いてみるにょ(笑)」

 あーしはトノからお預かりした〝魔道具電マ〟に魔力を注入してボタンを『最強』にあげた。


 ―― ぶうぅうううううううううんっ!


 不気味な唸りをあげて〝魔道具電マ〟の先が回転を始める。

(最初から『最強』でイクにょ(笑)……死ぬほどの快感にょ(笑))


「本来ならトノの『お道具』でけしからんお前を、ひい、ひい、言わせたかったトコロにょ……しかし、今夜は〝魔道具これ〟で我慢するにょ♡」


 そして、あーしはメイド長の〝敏感な部位〟に〝魔道具トノの代わり〟を押しつけてやったのだった。

 メイド長の壮絶な悲鳴が地下牢に響き渡ったが、防音結界は完璧にょ♡


 何度も何度も気を失うメイド長に、そのたび〝魔道具電マ〟を押しつけて、朝まで眠らせなかったのだった。

 翌朝、トコトン気力を折ってやったメイド長の〝ナカ〟に金と銀から取りあげた『透視玉*』と『盗聴玉*』を仕込む。

 そして、『3の組織』第三皇女絡みの〝密会〟の現場で使用するように言い含めて、朝早くにメイド長を開放してやったのだった。


          *


 翌朝、オレたちは再び魔界ダンジョンの入り口まで遣ってきた。

 今日の目標は『できれば第1層をクリアしたい』……である。

 そして、ロリババアには攻撃魔法は使わないように念を押す。


 今日もギルマスに白魔法の火の玉を浮かべて貰って、チチが昨日マッピングしてくれた道なりに進む。

 昨日と同じ小部屋のような処で今日も最初のエンカウントだ。


 湧いてきたのは『ピグミー』2体と『ノーム』1体だった。

 問題なくクリアする。

 その先で道は2つに分かれる。チチのマッピングでは昨日は右に進んでいた。

 今日は左に進む事にした。

 昨日は右の道で『ニンフ』とその上位種である『ウンディーネ』とエンカウントした。

 今日はどうなるか。

 ……と、思ったが中々エンカウントしない。

 しかも、2差路、3差路、と分かれ道ばかりである。

 最初の分かれ道で今日は左へ入ったので、次からも左へ、左へ、と進んだ。


 そして、今日2回目のエンカウントだ。

 部屋の中央に生まれた煙の中から湧いてきたのは『ニンフ』2体と『ウンディーネ』2体だった。

 やはり『湧いてきた』という事は『魔物』という解釈で良かったのだろう……多分。

 しかし、昨日同様に『ニンフ』は裾まである長いドレスをまとっているし、『ウンディーネ』は、こちらもシルエット的には『水』でできた女神風である。

 そして、昨日と同じで攻撃してこない。

 ロリババアがまた攻撃魔法を放つ前に対処した方が良い……と思い、オレはマータに合図してから刀を抜いて前にでた。

 左のウンディーネはマータに、右のウンディーネはプラムに、と視線と指差しで合図を送ってからオレは右端のニンフに相対する。オレの動きに呼応してチチも左端のニンフを狙う。

 4人で一斉に切り掛かり、全て一太刀で倒していた。


 まるで抵抗がなかった事に強烈な違和感があった。


 だいぶ早いが今日も一旦退くか……と考えていると、少し先まで行っていたチチが大声で叫んだ。

「『待機部屋』みたいですよっ!」

 側まで行くと、通路を塞ぐように扉がある。

 確かにその作りは『ボス部屋前の待機部屋』に思えた。

「どうするね?」

 オレがマータを見ると横から声が掛かった。

「タイキ部屋、とは何じゃ?」

 オレはプラムに『ボス部屋』とその前にある『待機部屋』について説明した。

「なるほど、この先に居る相手は強い、という事じゃな?」

 そう言ってプラムが何か気合を入れるような動作をした。


「「「「なあっ!?」」」」


 オレたちは思わず息を呑んだ。

 プラムの姿が変わったからだった。

 それまではマータと同じ『褐色肌』だと思っていた。しかし、今は青黒い肌色をしていた。しかも、頭から二本の角が生えている。それは先端が内側に丸まった禍々しさを感じさせるシロモノだった。


「済まぬ、これがわしの本当の姿じゃ……人族の前では些か軋轢を生みかねないので隠して居った、他意はないので許されよ」


「いや、大丈夫ですよ……ここからは本気で行くという意味ですね?」

 オレの言葉にプラムが頷くと、マータが言った。

「ここまで来たのだし、入りましょう……まだ、第1層だし、苦戦させられるとも思えません」

「そうだね、充分に注意しながら行こうか……と言っても『ボス部屋』だったら倒す以外に逃げ道はないけどね」

 そして、オレはロリババアを振り返って念を押した。

「シクル先生、攻撃魔法はオレが頼んだ場合だけとしてください……良いですね? 勝手に打たない事」

「わ、判っとるよ……」

 かなり不満そうだ(笑)。


 オレは全員の顔を、ゆっくり、と見廻した。

 マータが、プラムが、チチが、ロリババアが、ギルマスが、力強く頷いた。


「それじゃあ、行こうっ!」


 オレたちは、待機部屋に入り、その場で抜刀してボス部屋の扉を開けたのだった。

 待つほどもなく、ボス部屋の中央に煙が生まれ、新たな魔物の姿を形作ってゆく。


「『ジン』じゃな」

 プラムが言い、ギルマスが頷く。

「『ジン』ですね」

 オレも直ぐにステータスウインドーを確認した。


  種族=精霊、ジン

  レベル=588

  ジョブ=魔人


 『ジン』を一言で表わすならひげもじゃらな太ったオッサンだろうか。『アラジンと魔法のランプ』にでてきたヤツと思えば早いだろうか?

 下半身が煙のようになっているのは、まんま、感満載だ(笑)(いや、この世界の人間にはイミフだろうが(笑))。

 しかし、太い4本の腕を持ち身の丈3メートルはありそうである。その2本の腕に巨大な湾刀を握っている。

 湾刀というのは、その湾曲した刀身が特徴で、刃が片側にあるため、切る用途に適している。湧いてきたジンが握っている湾刀は非常に切れ味が良さそうに煌めいていた。


 しかも、その後ろからあと2体のジンが湧いてきたのだった。

 身の丈3メートルの巨人が3体。レベルを確認すると残り2体とも400台である。

 かなり厳しい戦いになりそうな予感がした。



            【つづく】

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