第30話 魔界ダンジョン 第1層
朝一でダンジョンの入り口前で軽くブリーフィング。
最初に全員をパーティメンバーとして登録する。こうしておけば〝経験値〟が全員に配分されるのだ。
フォーメーションも再確認。
前衛に、マータ、ポム・プラム
中衛に、チチ、オレ
後衛に、ナプ・シクル(ロリババア)、プルポプル・クルル(ギルマス)
魔法に関しては、ロリババアは『攻撃力アップ』ギルマスが『防御力アップ』の魔法を担当、ギルマス(白魔法遣い)には『回復魔法』も担当して貰う事を再確認。
ロリババアは『攻撃魔法(炎系が得意らしい)』を使いたいようだが、前衛との連携を考えて次回送りにして貰った。
そして、絶対に無理はしない事を全員で確認して、
入って直ぐに感じた違和感は〝暗い〟という事だった。
人間界のダンジョンは壁からの自然発光があって、常に仄明るかった。
しかし、ここでは壁からの自然発光が殆ど感じられない。
ロリババアが火の玉を浮かべてくれたがヒメのそれと比べると……暑い(笑)。
……ので、ギルマスに白魔法の火の玉を浮かべて貰った。
チチにマッピングして貰いながら道なりに進んで小部屋のような処にでる。
小部屋の中央に煙が生まれ、最初のエンカウントだ。
皆に緊張が走る中、湧いてきたのは『ピグミー』3体と『ノーム』1体だった。
『ピグミー』というのは
共に〝土の精霊〟だそうな。見た目は人族の〝ジジイ〟だ。いや、エルフ程ではないが幾分耳が尖っているか?
人間界のダンジョンの下級魔物の『スライム』や『コボルト』や『ゴブリン』等に比べて人間に近い風貌だ。
見た目が魔物というより、我々に近いというのは些か遣り難い……と思ったのだが、それはこっち側だけだったようだ。
ピグミーがいきなり石を投げてきたし、ノームも槍で武装していた。
というか、こっち側でも魔族の2人は直ぐに剣を抜き、杖を構えていた。
ポム・プラムが幅広のロングソードを横薙ぎに一閃すると、その風圧でピグミー3体がすっ飛んだ。そのまま2体は霞となって消えた。
死体が残らない、という事は〝魔物〟である、という事だ。
僅かに遅れてマータがノームを切り捨て、倒れたピグミーの残り1体をチチが槍でトドメを差したのだった。
最初のエンカウントはあっけなく我々が勝利した。
この程度の相手に逃げだしたという金銀たちパーティは何だったのだ、という気がしたが……その理由は次のエンカウントで知れたのだった(いや、多分ではあるが)。
次のエンカウントは衝撃だった。
ギルマスの説明では『ニンフ』2体に『ウンディーネ』が1体だった。オレも咄嗟にステータスウインドーを確認したから間違いない。
『ノーム』たちが〝土の精霊〟だったのに対し、『ニンフ』とその上位種である『ウンディーネ』は〝水の精霊〟である。
『ニンフ』は自然を象徴した妖精、あるいは下級女神であるらしい。
そして、問題はまんま女性の姿なのだ。しかも裾まである長いドレスを
『下級女神』という位置づけであるから女性の姿なのかも知れない。
一方の『ウンディーネ』は、こちらもシルエット的には女神風である。ただ、ドレスも含め全て『水』でできている……ように見える。
これらの相手は、敵(魔物)なのか?……という大前提が揺らぐ。金銀たちのパーティが逃げだした理由の一つだったかも知れない。
しかも、彼女(?)たちは、魔物のように何もない空間から湧いてきたのではなかった。その小部屋の中に初めから居たのだ。いや、我々がその小部屋に辿り着く前に〝湧いていた〟のかも知れない、が。
流石に今回はマータだけでなくポム・プラムにも戸惑いが見え隠れした。
その隙をついて……かどうかは判らないが、後方からロリババアがファイアーボールを数発、彼女(?)たちに向けて放っていた。
止める間もなかった。
決まりを破ったロリババアには後で〝お仕置き〟だ。
2体のニンフがファイアーボールを受けて、まずドレスが蒸発した。裸の彼女(?)たちがのたうち回りながら消えてゆく姿は〝
一方、ウンディーネは炎と水の相性の悪さからか、燃える事はなかった。
しかし、それでも尚、人間界の4人には戸惑いがあった。
ピグミーやノームのように攻撃してきたら決断は早かったとも思う。
ウンディーネは立ち竦んで恨みがましい目でこちらを睨んでいる……ように見えた。いや、絶対そう見えただけだと思うが。
そして、ポム・プラムが剣を掲げた時、マータが静かに言った。
「わたしが行こう」
一歩、前にでて上段から袈裟切りでロングソードを振り抜くと、ウンディーネの姿が崩れ、足元に水溜まりができて、次の瞬間、魔物と同じように霞となって消えたのだった。
オレは皆を見廻して、今回はここで一旦野営地に戻る事を提案した。
我々に脅威となる相手ではなかったし、時間的にももう少し進む事は可能だったろう。
しかし、ここまでの状況の整理と今後の対策、そして、この魔界ダンジョンの解析を安全な場所で話し合うべきだと思ったのだ。
ロリババアはもう少し進みたそうだったが、何とか宥めて出口に戻ったのだった。
野営地に戻ると『
もう一方の竜騎士たちのテントからも気配を感じて3人がでてきたのを見ると1人(1匹?)でオレたちのテントに居たのか?
それを見たロリババアが喰って掛かってきた。
「お殿さま、コヤツは何処に隠して連れてきたのですかな?」
お前、今までタダノ・ヒメノ屋敷に居候していて知らなかったのかよっ!
ポム・プラムも些か
プーの口から元の姿に戻るように言って貰うと
ロリババアは開いた口が塞がらないようだったが、ポム・プラムは笑いながら詫びてきた。
「
「いや、あまりない事らしいしな(笑)」
それから、また車座になって早めの夕食(いや、遅めの昼食か)を摂りながら気楽に意見をだして貰った。
「以前も申しあげたが、この魔界に発現したダンジョンの魔物は『妖精系』らしいという事で間違いないだろう」
ギルマスが言い、マータが応じる。
「あの、ニンフやウンディーネを〝魔物〟と呼ぶのには少し抵抗があるが……」
「ピグミーやノームと違って攻撃してこなかったしなあ」
オレも同意を伝える。
しかし、それに対して魔族領の2人は違う意見のようだった。
「攻撃してこなかったのはワタシのファイアーボールに竦んだからだ!」
「先生の意見には賛同するが、今日は後方からの攻撃魔法は使わぬ約束だった筈……そこは守って戴きたい」
ポム・プラムが、ちくり、入れてくれた。ありがたい。
「まあ、死体が残らなかった点を考えても『魔物』という事で良かろうと思うが、あの姿には抵抗があるのも確かだ」
「今後、湧いてきそうな『魔物』はどんな感じだろう?」
マータやオレの意見にギルマスが答えた。
「〝土の精霊〟に〝水の精霊〟ときたら、次は〝風の精霊〟の『シルフ』やその上位種の『シルフィード』だろうか?」
「また女神さま風の姿だと嫌ですね」
チチの言葉にオレとマータが頷く。
「〝土の精霊〟に〝水の精霊〟に〝風の精霊〟とくれば……最後は〝火の精霊〟かね?」
「〝火の精霊〟はポム・プラム殿のご意見だと『サラマンダー』だろうとの事だったが?」
「うむ、サラマンダーというのは〝火の精霊〟、あるいは火炎ドラゴンと呼ばれて居った」
「ダンジョンが発現する前から魔族領には生息していたのか?」
「たまに目撃されていたが、〝神の使い〟のように考えられていたので討伐対象ではなかったな」
「今回のダンジョンのラスボスがそのサラマンダーかも知れないとの話だったが、討伐して〝神の祟り〟とかないだろうか?」
「判らぬ(笑)」
ポム・プラムは笑いながら答えた。
「もう1つの、『バイコーン』とかいう魔物(?)はどうなのだ?」
『バイコーン』というのは角が二つある黒いユニコーンらしい。
ユニコーンが〝純潔〟、バイコーンが〝不純〟を
言われた時は如何にも魔界ダンジョンらしいと思ったものだったが。
「バイコーンに就いては『伝承』しか残っていない……残念ながら実際に見たという話は聞いた事がないのだ」
もし、出会った時は、こちらの命が風前の灯火となりそうな……嫌な予感がするのだが。
この日の結論としては、明日もう1日、半日の行程で探索し、翌日にはタダノ・ヒメノ屋敷に戻る事で合意したのだった。
傍から見たら暢気過ぎると笑われそうだが、ここで急いだり焦ったりしても良い結果を生みはしないだろう。それだけは固く戒めたいものである。
【つづく】
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