第29話 いよいよ魔界ダンジョンへ

 翌日、下見を兼ねて一度魔界に発現したというダンジョンに入ってみる事になった。


 パーティメンバーは、ポム・プラムとナプ・シクル(ロリババア)、我々からは、オレ、マータ、チチに、プルポプル・クルル(ギルマス)、という豪華メンバーとなった。

 移動手段はヒメの転移魔法も考えたが、一度も行った事のない場所は誤作動が心配だという事で、騎竜3騎で運んで貰う事にした。

 ピー、プーと、プーの妹のプル(既に、見習いを卒業して竜騎隊のメンバーである)の3騎でそれぞれ2人ずつを載せて貰う。


 その前に前回の金銀たちの探索状況の確認をしたが、〝論外〟だった。

 入って直ぐにエンカウントした『ピグミー』2体と『ニンフ』1体に圧倒されて逃げ帰ってきたとの事。

 『ピグミー』というのは小人だ。『ニンフ』というのは自然を象徴した妖精、あるいは下級女神である。

 まあ、それで推測できた事もあった。つまり、魔界に発現したダンジョンの魔物は『妖精系』らしいという事である。『ピグミー』や『ニンフ』は、人間界のダンジョンでは『スライム』や『コボルト』に相当すると考えれば納得だ。

 闇の魔素が濃くて発現しないと考えられていた魔界に発現したダンジョンは妖精系の魔物が湧くと考えるのが良さそうである。

 という事は、ボスとしては『サラマンダー』とか『バイコーン』とかだろうか、とポム・プラムから意見がでた。

 『サラマンダー』というのは火の精霊、あるいは火炎ドラゴン、『バイコーン』というのは角が二つある黒いユニコーンらしい(オレも初めて知った)。ユニコーンが純潔、バイコーンが不純をつかさどるらしい。如何にも魔界ダンジョンらしいではないか。

 しかし、その低レベルの妖精3体に勝てない金銀(10人以上のパーティだったらしいが)って……何だかなあ、であるが。


 メンバーと移動手段は決まった。

 次は野営地の選定だ。

 魔界ダンジョンは辺境都市クシャに近いのでその街にある宿をという案もあった。しかし、クシャは同国内であっても他領地(しかも、有体に言えば〝『3』の関係者〟と近しい立ち位置)なので街には入らずダンジョンのそばの空き地を野営地とするのが良かろうという事になった。

 後は、今回はあくまで〝様子見〟であり、1日で一旦野営地に戻る事に決めた。つまり、半日の行程という事だ。

 まだ、無理をする必要はないのだから。



   ■イク・イクイク視点■


 今回の『魔界ダンジョン』のパーティに入れなかったのは残念だが、代わりにトノから大きな仕事を2つ預かった。


 なんでも第三皇女殿下の側近ともいえるメイド長の弱みを握っているので秘密裏に接触せよ、との密命である……にょ。

 もう一つは、里帰り(第七皇女殿下屋敷)にかこつけて王宮の後宮にある大奥さまの蔵書を(これまた内密に)運びだす事……にょ。

 まあ、蔵書に関してはあーしも興味津々、いや、今後のタダノ・ヒメノ屋敷に有用な情報も多々あろうと考えていたトコロでもあったし、渡りに船というヤツ……にょ。


 あと、あーしに任されている冒険者の拡充。他の部門に比べて遅れているのが気に掛かるにょ。


 竜騎隊は1小隊6騎の編成は完成。更にピーたちのむらからあと6騎見習いが加わっている。勿論、第三皇女の竜騎隊の3小隊18騎には及ばないが、王都でも噂になっていると聞く。

 チチが長を務める『武具・装具』関連の部門も、同様に彼女のさとから鍛冶スキルに秀でたスタッフが3人参加している。


 それに比べて冒険者は人数こそ20名を超えているが『新人の訓練』をみても、実際使えそうなのはシルク・ラク(ビキニアーマー)、キクル・クル(控えめなローブ)の2人だけという体たらくにょ。


 また、先日ギルマスさまと相談した折に『トノ』のギルドカードをどうするか、が問題になった。

 タダノ・ヒメノ屋敷でトノの力を疑う者など皆無だが、トノのギルドカードはFランクのままだ。何故かというと冒険者ギルドの『レベル判定機』はレベル1,000を超えると測定不能になるからである。測定不能=最低ランク(Fランク)なのである。

 大魔導師さまにお願いすれば改良は難しくないだろうが、実はここにも問題があったのだ……にょ(笑)。

 つまり、レベル1,000超えのトノが冒険者ギルドで目立ちすぎると女性冒険者が皆ここの住人になってしまうし、それでは、男性冒険者たちのモチベーションが下がってしまう……のではないか、という笑えない現実にょ(笑)。


 実際、有望な冒険者を〝見習い〟としてタダノ・ヒメノ屋敷に呼び、朝の『新人の訓練』に参加させたりしているのだが、いつの間にか〝夜の訓練〟にも参加していて、済し崩しにここの住人が増える結果となっているのだ…………にょ(笑)。


          *


 さて、いよいよ魔界ダンジョンへ向かって出発だ。

 3騎の騎竜ワイバーンに分乗し、国境を越えて魔族領に入る。途端に騎竜にも緊張が走っているようだが、ピーたちの力で飛行は安定していた。

 ポム・プラムの案内でまずは真っ直ぐダンジョンに向かった。

 上空から見る魔界ダンジョンの入り口からは、何やら禍々しい瘴気が漏れでているように見えた。

 まるで、魔の者以外を寄せ付けぬおぞましさが感じられた。

 我々に馴染みの人間界のダンジョンとは明らかに雰囲気が違っている。


 これは、いつも以上に慎重に掛からねばならないとパーティメンバー全員で気を引き締めたのだった。


 それから上空を旋回して良さそうな空き地を見つけた。

 ダンジョンの入り口に近過ぎず、遠からず、背後に岩山を擁する空き地である。3騎の騎竜ワイバーンが休めるスペースも確保できそうだった。

 早速、大きめのテントを2つ設営した。1つにパーティメンバー5人、もう1つにチチとピーたち竜騎士3人で休む仕様と相成った。

 まだ日没まではかなり時間が余ったが、ここで無理をする必要はない。

 早めの夕食に軽く酒なども用意して親睦を図る事となった。

 ついでに翌日のフォーメーションも決めておく。


  前衛に、マータ、ポム・プラム

  中衛に、チチ、オレ

  後衛に、ナプ・シクル(ロリババア)、プルポプル・クルル(ギルマス)


 が良かろうと、直ぐに決まった。

 前衛の2人がアタッカー、中衛のチチとオレがアタッカーの補助、後衛のロリババアは『攻撃力アップ』ギルマスが『防御力アップ』の魔法を担当する。

 ギルマス(白魔法遣い)には『回復魔法』も担当して貰う。



 酒が入って少し饒舌になったポム・プラムがロリババアに詫びを入れた。

「先生を守れなかった事、未だに申し訳なく思っている」

「プラム殿下、それは済んだ話だ」

 昔話としてプラムが語った処のよると ――


 昔、魔王の末の妹にたいそう美しい姫がいたそうな。

 以前より人間界の文化に興味を持っていた姫は、ある時、国境を挟んだ異国の祭りをお忍びで見物に出掛けた。

 美しい魔界の姫はそこで凛々しいエルフの王太子と出会い、2人は一瞬で恋に落ちた。

 その夜、しとねを共にした2人は激しく愛し合い、翌日再会を約束して別れた……のだったが。

 魔界に戻った姫はその夜の出来事が真実の恋であったのか迷い始める。

 何故なら、姫はサキュバスだったからだ。

 己の〝種族〟としての血が、彼の男を引き寄せたのではなかったのか?


 そして、定期的に多少の交易はあったが特段の連絡手段などなかった時代の事。商人に託したエルフの王太子からの『ふみ』は姫に届く事はなかったのだった。

 互いに相手の心変わりをなじる日々の末に、姫の妊娠が発覚する。


 こうして、望まれぬ形でこの世に生を受けたのが、ロリババアであった。

 母親から引き離された彼女は魔王の末の娘の嫁ぎ先に預けられる事になった。

 彼女は魔法の才には恵まれていた為、その家に生まれたばかりの娘の教育係を仰せつかったのであった。その娘がプラムであった。

 しかし、プラムは魔法の才には恵まれず、武人としての成長を遂げた為、結果的に教育係であったロリババアは〝無能〟の烙印を押され魔族領を出奔するに至ったのだった。


 何処までが真実で、どの程度創作が交じっているかは、判らない。

 プラムがほろ酔い口調で語る話を、ロリババアは言葉を差し挟む事もなく、ただ、ただ、杯を重ねながら聞いていただけだった。



 こうして、魔族領での夜は更けていったのだった。

 その夜、床についたオレの掛布に『人化変化じんかへんげ』した騎竜のプー´プーダッシュが潜り込んできたのは……ご愛敬、だった……のか?



            【つづく】

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