第20話 新しい生活

 新しい生活、新しい屋敷にも大分慣れてきた。

 まあ、屋敷に住まうメンバーは ―― マータ、イクイク、チンチン、チチ、ピー、プーに、ポプルル、ナコチが加わった ―― いつものメンツだから違和感はまるでないのだが。


 オレの朝の日常は、中華鍋とお玉(に似た料理道具)で、がん、がん、音を立てて起こされるのが定番である。

 『猫耳』の元 酒場の看板娘ウエイトレス、現タダノ・ヒメノ屋敷(通称モブ屋敷 ←『モブって呼んで良いのはわたくしだけなのにぃ』と、ヒメは不満らしい)の厨房担当のポプルルの役目らしい(このポプルル、イクイクの評価は〝エロいハンサム少女〟だそうな。中々言い得て妙だ)。

 一方のもう1人の『猫耳』の元 酒場の看板娘ウエイトレスナコチは、モブ屋敷の掃除&洗濯担当である(同じくイクイクの評価は〝ウブなエロ担当〟だそうである。うん、ほぼ正しい)。


「昨夜はおひいさまと第二夫人チンチンさまの最強タッグだから、こりゃあ昼迄起きないな(笑)」

 ポプルルの声が半覚醒のオレの耳に届く。

「起こせば良いの?」

 丁度そこへ洗濯物を回収に来たナコチが訊いている。

「できるのか?」

「うん、おひいさまに教わった♡」

「……って、何処を起こすのさっ?」

「だから、させるんでしょ?」

「その『起こす』じゃないけどぉ(笑)」

「ポプルル、毎朝、ぱっくん、してるんじゃん!」

「な、なんで知ってる!」

「わたしだっておトノさまのお道具、ぱっくん、したいのに、いっつもポプルルがしてるんだもん!」

「ご、ごめん…今日は2人でするか?」

「うん♡」

 そのままオレは『猫耳』美少女2人に、ぱっくん、されたのだった。


 斯くしてモブ屋敷の朝は、並べてコトも無し(笑)。



 そして、その日の午後のコト ――

 第七皇女屋敷より、ご母堂さまとメイド長が遣ってきた。お供はあちらのお屋敷のメイド5人。

 厨房もそうだが掃除&洗濯が2人では大変そうなのでヘルプをお願いしていた。

 しかし、ご母堂さままでいらっしゃるとは想定外だった。メイド長もだが。

 ご母堂さまは急遽出迎えた我々を、ぐるり、見廻してヒメより先にオレにハグしてきた。

 あ、ヤバい……久しぶりのご母堂さまの香りに ――


「今日のトノも大層ですわ♡」


「お、おひゃひゃうえしゃま?」

 オレは舌が廻らない。

「ちょ、お母さま?…な、長いですわよ?」

 ヒメが『早く代われ』アピールである。

 しかし、ご母堂さまからトンデモ発言が ――


「だってえ、こうしてるとぅ、モブさまのが、なるのぅ♡」


「モブぅ?」

(いや…お、オレが悪いのか?)

 更にメイド長までアジってくる。

「大奥さま(ご母堂さまのお屋敷での呼び名)、わたくしにもお流れ頂戴しとうございます♡」

「め、メイド長までぇ!?」

 しかし、ご母堂さまのトンデモ発言は止まらない。


「ね、モブさまご存知かしら?……わたくしたち『チン王国』の女人にょにんはね、スッゴく〝良い〟らしいのよぅ♡」


「そ、そそ、そうなんですね?」

(な、なにが〝良い〟のでございましょう?)

「ヒメはどうだったのぅ?」

「ひゃい、しょれはみょう……」

(あ、やっぱり〝そっち〟方面ですね)

 ヒメが真っ赤になって顔を逸らす。何故かチンチンの顔も赤い。

(ああ、そうだったチンチンも『チン王国』の第一皇女だった。)

 何か話題を変える事を考えていたオレに、ご母堂さまのトンデモ発言は斜め上をゆく。


「ね、今夜、お渡りしても宜しいかしら?」


(『お渡り』というのは普通は男性のトップが大奥の女人の元に〝お渡り〟するコトだったような?)


「だって、このお屋敷の女の人って、すべてトノのお手付きなんでしょう?……わたくしも今日から、ここに住むから、権利は有るわよね♡」


(い、いや、いや、いや……あ、ああ、あるのか?)

「し、しかし、ご母堂さまは国王陛下の第三お妃さま(国王陛下の場合は『第三夫人』とは呼ばないらしい)であられますので……」

 オレは敬語の使い方が判らない。

「良いのよ、アレは……だって、もう10年も手も握って貰ってないものっ!」

(『アレ』ですか?)

「それよりぃ……わたくしではモブさまの〝守備範囲〟を外れてしまいましたかしらぁ?」

(いえ、そのようなコトは決して、ごごごじゃいましぇん……)


「あら、嬉しい……大丈夫、なのね♡」


(い、いや、いや、いや……なにを持って『ご判断』くださったのか……ひ、ヒメのジト目が怖いんですが?)

 結局、〝お渡り〟の真相は闇の彼方に葬るとして(笑)……ご母堂さまとメイド長&助っ人の5人はモブ屋敷の住人となったのだった。



 斯くしてモブ屋敷の日常も、並べてコトも無し(笑)……いや、ホントか?


          *


 最近、朝食後の日課は今後の『タダノ・ヒメノ屋敷』の方向性についてのブリーフィングだ。

 参加者は、基本的にオレとヒメと近衛のマータとイクイクだ。

 たまにチンチンが加わる。何しろ彼女は今では『タダノ・ヒメノ屋敷』の序列3位(1位がオレ、2位がヒメ)だ。(夜の方もヒメに次ぐ2位である(笑))

 『闇魔法』関連というか、『裏仕事』に関わる場合に参加して貰っている。普段は『精力剤』の開発に傾注している(あの純情で素朴だったチンチンも一皮剥けたか?(笑))。

 チチは鍛冶スキルを活かして『武具・装具』関連の責任者だ。毎日手入れに余念がない。

 ピーとプーは彼女たちの生まれ育ったむらから遣って来た竜騎士見習いの訓練だ。現在4人。1小隊6騎分に後2人だが、候補は絞っているそうだ。騎竜ワイバーンの〝躾け〟ができたら合流するらしい。


 これからの方針にも関わるが適度な戦闘力(軍備と呼ぶべきかも知れない)は必要だ。


 しかし、ここは辺境ではあるが他国と国境が近接している訳ではない。国境沿いの山脈の向こうは魔族領である(だからダンジョンが多数生まれているのだが)。

 魔族とはもう100年以上も友好な関係を続けていた。この地ウルヒとは定期的に交易さえ結ばれている。

 戦闘力(あるいは軍備)が必要なのは、実は内にある。潰し易いと判れば難癖を付けて攻め込んできそうなやからが存在する。まあ、有体に言えば『3』の関係者だ(笑)。

 強くなり過ぎてもいけないが、弱いのは大変拙い。


 第三皇女の『竜騎隊』以上にするのはまだまだ先になりそうだが、手をこまねいている訳にはいかない。

 何しろあちらは3小隊18騎だ(ピーとプーが抜けた分の補充に関しては不明だがから、あるいは16騎かも知れないが)。

 数だけ揃えても仕方ないのでじっくり育てるしかない。

 上官の能力(あるいは信頼度)には差がある筈なので、いつかは対等になれるだろう。


 後はダンジョンだ。

 この都市の重要な資金源だが、たまに新たなダンジョンが発現する。

 その討伐は今まではバクル・シグドラ辺境伯家の騎士団が当たっていたが、先日の難攻不落なダンジョンの討伐で我々に期待が寄せられている。

 まあ、現在我々が為すべき喫緊きっきんの課題は、有るようで無いのであるからして、ダンジョンに潜るのも悪くはないのだが。

 緊張感のある実践の場だしね。

 ダンジョンで思うのは、6人パーティx2、つまり騎士でなく冒険者をもう少し配下に加えたい。いざ、と言う時に〝臨機応変〟に動けるのは『騎士』よりも『冒険者』だと思っているからだ。

 少し冒険者ギルドに通ってみるのも手かも知れない。



 最後にオレの個人的な問題だが……

 大魔導師さまに会って転移者についての話を訊きたい。

 まあ、もう元の世界に戻りたいなどという気持ちは100%ひゃくぱーないが。

 ヒメを置いて何処へ行くかって話だ。

 『戻る為の話』ではなく『戻らない為の話』だ。あの日チンチンの解呪の後感じた〝嫌な予感〟が現実のモノとならないように対策する為である。

 その為には、チンチンの祖国『チン王国』に行く必要があるかも知れない。大魔導師さまは未だ彼の地で復興に当たっておられるそうだから。



            【つづく】

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