第18話 隠栖(いんせい)

   ■ヒメノ・ヒメ視点■


 モブの行方が判った。

 『魔法研究所』ではなく、第三皇女の屋敷の地下牢に監禁されているらしい。

 わたくしはマータとイクイクが止めるのを振り切って第三皇女の屋敷に遣ってきた(マータとイクイクも付いてきてくれたが)。


 第三皇女にお目通りを申しでると、随分待たされた挙句に酷く汚い小部屋に通された。

 そこには1脚のみ場違いに華美な椅子が置かれていた。

 勿論、わたくしが坐る為の筈はなかった。

 床に跪いて待て、という事だろう。

 第三皇女とわたくし第七皇女とでそこまで身分差がある筈もないが、仕方なく床に膝をついた。

 それを見ていたかのように第三皇女がメイドを10人あまり連れて入ってきた。メイドたちは全員帯剣していた(当然、わたくしたちの武器は取りあげられている)。

 わたくしの前で椅子に腰を降ろした第三皇女が優雅に足を組んで面倒そうに言った。

わらわに何か用かえ?」

「わたくしの処のタダノ・モブをお返し戴きたく、参上いたしました」


「はて、メイド長……何か手土産でも貰ったかの?」


「いえ、一切ございません」

 その返事に頷いた第三皇女が、しら~っ、と話題を逸らせた。

「ああ、そうそう……お前の飼っているブタじゃが、もう抱いてやったのかえ?」

「な、なんの事でございますか?」

 わたくしの僅かな動揺を目敏く認めた第三皇女が嗤いながら言った。

「やはりのぉ、わらわのメイド長に跨がられて、ヒイ、ヒイ、言っておったわなあ」

「中々太く大きく、、愉しめましてございました」

 メイド長がわざとらしく答えた。

「何でもぉ、童貞だったそうじゃのぉ?……お前よりも先にブタの初めてを貰ってしまったようじゃが……まあ、成り行きじゃて許せよ(笑)」


 わたくしは目の前が真っ赤になって立ちあがっていた。


 左右からマータとイクイクに引き留められた。

 再び膝をついたわたくしに第三皇女が言った。

「ブタを返して欲しいのなら、わらわから、竜騎士を奪った詫びが先ではないかえ?」

「奪ったとは、心外な……あの両名は陛下から下賜かしされた…」

 わたくしの反論を遮ってあの女第三皇女が言った。


「ふん、裏切りモノなど、くれてやるわ!……しかし、ブタを返して欲しくば、わらわの靴でも舐めるのじゃな?」


 わたくしがあの女第三皇女の言葉を実行しようと一歩を踏みだした時、左右からマータとイクイクが引き留めた。

「成りません、ヒメさまっ!」

「止めるにょ!」


 わたくしは小さく首を左右に振ってあの女第三皇女の足元に跪いた。

 そして、わたくしはその靴先に口付けた。


「そんなもの、舐めたとは言わないわのぉ?……そう、そう、さっきトイレに行ってきたから、靴裏も汚れたかも知れぬ……綺麗に舐めとるが良いぞっ(笑)」


 あの女第三皇女は靴裏をわたくしの顔の前に突きだしたのだった。

 わたくしは丁寧に時間を掛けて第三皇女の靴裏を舐めたのだった。

「これで宜しいでしょうか?」

「全く、恥という言葉を知らないらしいのう」

「それでは、モブを……いえ、タダノを返してください!」

「メイド長、あのブタは何処かの?」

「昨晩、翼を生やして窓から逃亡したようでしたが?」


「「「なあっ!?」」」


「だ、騙したなあっ!!」

 わたくしはあの女第三皇女に掴み掛ろうとしたが、またしてもマータとイクイクに身体を張って止められた。

 気づけばメイドたちが抜刀していた。

 わたくしたちは、第三皇女の屋敷から去るしか道はなかったのだ。



 しかし、この後、更なる試練が……いや、更なる悪意がわたくしを待っていたのだった。


          *


 その頃、オレはあの酒場の二階でヘタっていた。

 あの夜、第三皇女の屋敷から逃げだしたオレは夜通し飛び続け、MPを枯渇させてウルヒの城門の近くに墜落したのだった。

 運良く城門の衛兵が気づいてあの酒場まで運んで貰ったのだった。

 MPは完全に枯渇してしまうと『青色ポーション』では大して量を補填できないらしい。

 かと言って、ここにはMPを注入してくれる、ヒメも、プーも、イクイクも、居ない。

 それから3日あまり、オレはベッドにヘタって自然回復を待っていたのだった。


「タダノさま、入りますよ~」

 ノックと共に女将おかみさんの声がした。

 そして、入室した女将さんの後ろから、若い女性の声が聞こえる。

「女将さん、これ恥ずかしいですぅ」

「…………ですぅ」

「何言ってるの、タダノさまを元気づけたいって言ったの、あなたたちでしょ?」

「そうだけどぅ」

 そして、

 酒場の看板娘ウエイトレスの1、2位を争う『猫耳』のポプルルとナコチが〝あの裸エプロン〟で現れたのだった。


「な、な、なあっ!?」


「皆さまがお帰りになる時、イクイクさまが店の余興に使って……と置いていかれたのですけど……」

「でもぅ、あんな酔っ払いたちに見せるのは勿体ないのでぇ、今日がこのエプロンのぅ、ですぅ♡」

「あ、あのぅ…イクイクさまから、、とかぁ♡」

 ナコチが言えば、ポプルルが続けた。

とか、教わってますぅ♡」

 そして、

「湯殿にいらしてくださいませぇ♡」

 ポプルルが誘い、ナコチが唱和した。

「…ませ~~~っ♡」


「いや、ホント気持ちだけ戴いておくから」


 オレは床に頭を擦りつけ涙を呑んで固辞したのだった。

 こんな事が知られたら、二度と酒場を通れない(笑)。

「え~、ざ・ん・ね・ん~」

「なんだい、最初は恥ずかしいとか言ってたクセに、ノリノリじゃないか?」

「だってぇ、タダノさまのアソコぉ♡」

「お、おっきくなってるしぃ♡」

「〝ガチ勃起〟って言うんだって♡」

「やあん、ポプルルのえっちぃ♡」


「全く、の癖して、何処で覚えてくるのやら」

 女将さんの言葉を受けて2人の美少女は、もぎたての桃のような真っ白な柔尻をこっちに向けると、


   ズンチャチャ、ズンチャ、

          えいっ、えいっ、

   ズンチャチャ、ズンチャ、

          はいっ、はいっ、


 口で拍子を取りながらノリノリで、ぷりん、ぷりりん、その美尻を振ってみせたのだった。


 お陰で元気がでた。

 直ぐにはMPは回復しないが、できるコトから始めよう。そう心に誓った。



   ■ヒメノ・ヒメ視点■


 あの屈辱の日から数日後 ――


 わたくしは国王陛下からの勅書ちょくしょを受け取った。

 そこには、先日のウルヒでの不手際の謝罪の為、辺境都市ウルヒを治める領主バクル・シグドラ辺境伯に下賜かしされる事が決まったとの旨がしたためられていた。


「なっ!?」


 バクル・シグドラ辺境伯は本妻は勿論だが側妻そばめも多数いたように記憶する。いや、それよりよわい80歳を超えるご老体だった筈だ。

 これは、あの女第三皇女の差し金に違いない。

 そもそも、第七皇女など所詮は唯の捨て駒だ。それは判っていた事だ。

 長年勤めあげた文官や、戦場で功をあげた騎士、あるいは国境沿いの守りの要衝の貴族……それらに下賜かしされるのがほぼ決められた定めだ。

 しかし、だからこそ『モブに男爵位を』取らせて、数年後しょう爵したら婚礼をと考えていたのだが、全て空回りで終わった。


 こうなれば残された道は一つ。さっさとモブに抱かれよう(笑)。


 わたくしは固く決心したのだった、が ――



   ■イク・イクイク視点■


 あーしたちが国王陛下からヒメに下された決定を知り、するべき事は一つ。

 いつものメンバーで思いは一つだった。


 早く、一刻も早く『トノ』を捜しだし、ヒメとしとねを共にして戴く。


 ―― これしかあるまい。

 80歳を過ぎ、本妻も側妻そばめも多数いる〝ジジイ〟に18歳の、ぴち、ぴち、✕✕✕を差しだす必要が何処にあるかっ!

 チンチンがあの日『トノ』の体内に流し込んだ『闇魔法』が頼りだ。

 きっと、『トノ』は城内の何処かに潜伏してヒメとの邂逅の時を画策している筈だ。

 あーしたちは手分けして『闇魔法』の反応を探っていた。

 のだが ――


「ヒメがさらわれた?」


 どうやら第三皇女の屋敷の座敷牢に囚われているらしい、との報が入った。

 〝お輿入れまで間違いがあってはならない〟から、と?

 いや、正にその間違いを起こさせようとしていたのだが……。

 時間ばかりが無意味に過ぎてゆく。


 そして、お輿入れまで3日となり、ヒメがウルヒに向け出立する日になって、八方塞がりのあーしたちに何とそのウルヒの城下町から遠距離捻話が届いたのだった。



            【つづく】

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