第16話 拝謁

   ■ヒメノ・ヒメ視点■


 わたくしはお父さま…いえ、国王陛下に拝謁する為、『控えの間』にて待機していた。

 マータとイクイクがモブとチンチンを連れてきてくれる手筈になっていたが、遅い。あまりにも、遅い。

 何だか嫌な胸騒ぎがする。何もなければ良いが。


 あ、マータとイクイクが来た。

 えっ? モブとチンチンが居ない。

「後で説明する、今は拝謁の時間だ」

 マータに言われてわたくしたちは『謁見の間』に入った。


 国王陛下の左隣の列にお母さまが居ない。

 何故?

 右隣の列の第三皇女が、にや、ついている。

 嫌な胸騒ぎが現実味を帯びる。


 直ぐに『謁見の儀』が始まった。

 わたくしたちが用意したのはチンチンの、いえ、「パイ・ビジュラ・【※※※(真名)】・チン」の解呪の成功とそれに多くを寄与したタダノ・モブへの男爵位の授与を願い出る事だった。

 しかし、それについては一切語られる事はなかった。


 あの宰相の糞忌々しい話を纏めると、こうだ。

 辺境都市ウルヒにある未踏破のダンジョンの攻略は喜ばしい。しかし、その折第七皇女がトラップを踏み抜きウルヒの冒険者ギルドに多大な迷惑を掛け、更に第三皇女所属の竜騎士2名を救助の目的で無断で呼びつけるなど、あまりにお粗末な対応であった。

 つまり、凡てわたくしの一存で仕出かした『お遊び』の結果である……と。

 更に身元も不確かで面妖な魔法を使う男を城内に引き入れた事、皇女殿下に有るまじき振る舞いであった……とも。

 そして、モブは『魔法研究所』の預かりとなったらしい。『魔法研究所』とは第三皇女の息が掛かった組織である。心配が増した。


 いや、それよりも何よりも、わたくしははらわたが煮えくり返る思いだった。


 あんな男(宰相)の娘など嫁に貰うから、こんな事になる。

 そもそも母上は(今でこそ我が国の『預かり』となっているが)チン王国(過ってはこの大陸の3番手の大国であった)の第一皇女だったお方だ。それを差し置いて後宮序列二位などと、ふざけた話だ。

 序列一位の王妃さまがご病気で伏せっておいでだから、あんな女が我が物顔で後宮も政治までも口をだす。

 そこに結託した第三皇女が好き勝手に王室を陰で操る。

 最悪の状況だ。

 それを諫められぬ国王陛下も情けない。


 その国王陛下が宰相に何か言葉を掛けた。

「あれは……第七皇女が申しでておった竜騎士2名の配置換えの件は…どうかの?」

「そうでございますなあ……確かに竜騎隊の拡張は急務であります故、第七皇女殿下に新たな竜騎隊の設立を任せるのも良いかと存じます……何しろ、無駄に潤沢な資金をお持ちですのでなあ、はっはっはっ」


 何という事か。これが、せめてものお父さまからのご褒美だったのだ。


          *


 時は小一時間ほど前に遡る ――

 処は王宮の『謁見の間』に続く『控えの間』への回廊。

 オレはマータ、イクイク、チンチンの3人と一緒にヒメの待つ『控えの間』へと急いでいた。

 そのオレたちの前を塞ぐように完全武装した騎士が現れた。1小隊30騎ほどだ。直ぐに背後も10騎ほどで塞がれた。

「何用かっ!、我々は第七皇女殿下の配下であるぞ!」

 マータが声をあげる。

 イクイクとオレとでチンチンを守るように位置どる。もしや、例の王太子の横槍かと思ったのだ。

 マータの誰何すいかに反応したように騎士たちが抜刀した。

 いや、ここ王宮内だよね。

 当然、我々は城の入り口で武器は預かりとなっていた。

 マータが懐から苦無くないを抜いた。長さ10センチほどの両刃の忍者道具だ。

 何故持っているかは、今は良かろう。

 イクイクも騎士の頭上に無詠唱で魔法陣を展開した。

 あれ、確か氷の礫が飛ぶヤツだ。

 騎士たちに動揺が走る。

 その時だった ――

「双方武器を収めよっ!……ここは城内であるぞっ!」

 りん、とした良く通る声だった。

 30騎ほどの騎士を分けて華美ないでたちの女が現れた。その背後に寄り添う文官のような男が言った。

「第三皇女殿下の御前である!、控えよっ!」

 しかし、マータもイクイクも動かない。

「控えと言うに、この無礼者どもがっ!」

 いや、無礼はどっちだという話だが。

「まあ、良い……田舎者じゃ、捨て置け!」

「し、しかし…」

「良い、と言うに……それより、その平たい顔の男をさっさと捕らえよっ!」

(「誰が『平たい顔』だ!、失礼な女だっ!)

 マータとイクイクがオレを守るように位置どる。背後はチンチンが振り向いて魔法発動の準備だ。

 良い仲間に恵まれたが流石に分が悪い。

「抵抗すれば第七皇女の身に害が及ぶぞ!」

「くっ!」

 マータが唇を噛み、イクイクが耳元で囁いた。

「必ず助けに行くにょ!」

「ああ、信じている……おひいさまに『心配するな』と伝えてくれ」

「判った」

 マータの返事を聞いてオレが出頭しようと一歩踏みだした時、チンチンがオレの袖を引いた。

 振り返ったオレに、チンチンがキスをしてきた。

「この魔法がお殿さまを守ってくれますように♡」

 何かオレの中に入ってきたのを感じた。

 チンチンが離れるとイクイクも抱きついてきた。

「あーしも別れの、ちゅー、にょ♡」

 イクイクからも魔力の注入を感じた。

(イクイクもできたのか、MPの補填!)

「トノ、今とっても失礼なコト、考えなかったかにょ?」

(何故判った(笑))

 更に一歩を踏みだすとマータも恥ずかしそうに口付けてきた。

(…………単に、ちゅー、だけだったようだが(笑))

「ええい、何をイチャコラしてるか!……さっさと拘束しろっ!」

 第三皇女の背後に隠れるようにしていた文官が前にでてオレに手錠を掛けた。

 いや、『手錠』と言うより何かの『魔道具』だろうか。

「ふはははっ!……それは魔法の発動を阻害する『魔道具』じゃ、これでキサマも何もできまい!」

「何しろ『面妖な魔法』使うようですからな」

 しかし、魔法……というかオレのは『※ スキル』だし(笑)、『阻害』されてる感、ないんだが?

 まあ、ここで第三皇女の鼻を明かすより、今は敵の懐に入るのが良かろう、と思った。チンチンのくれた魔法も効きそうだし。


 こうしてオレは第三皇女に囚われの身となったのだった。



   ■ヒメノ・ヒメ視点■


 国王陛下との『謁見の儀』が終わりお屋敷に戻ったわたくしはモブが第三皇女に囚われた事を知ったのだった。

 やはり、との思いが強い。『魔法研究所』とはタテマエで、第三皇女の屋敷に囚われているに違いない。

 しかし、マータとイクイクから今は動かぬようにと釘を刺された。

(わ、判っているわよ……そんなコトっ!)


 一方で、ピーとプーがお屋敷に戻ってきた。良かった、無事で。

 いえ、無事じゃない。顔にアザがあった。

 何か感じるものがあってピーの袖を捲るとアザだらけだった。プーの腕も同様だ。確認するまでもない。全身アザだらけに違いない。

「酷いっ!」

「へ、平気でございます」

「……ます」

 2人とも気丈に振舞っているが尋常でないアザだ。

 わたくしは直ぐに最上級の回復魔法を掛けた。

 見る見るアザが消えていく。しかし、心のキズを癒す『回復魔法』をわたくしは知らない。

「「ありがとうございます、おひいさま!」」

「結婚前の女の子が身体にキズとか残ったら一大事よ!」

「いえ、あたしらは結婚などしません……一生をお殿さまとおひいさまにお捧げいたします」

「……ます」

 2人がいじらしい事を言ってくる。

 でもね、

「な、何言ってるの、モブはわたくしのものですぅ!」

 こればかりは譲れない。

「いえ、おひいさまやお付きの皆さまがたの最後の方の、残りでお情けを頂戴できれば……」

「……できれば」

「もぅ、えっちな娘たちね」

 わたくしは目尻を指で拭って2人に訊いた。

「わたくしは国王陛下の命を受け、『竜騎隊』を持つことになったの……力をかして、ね♡」

「おおぉ、素晴らしいっ!」

「力の限り、お尽くし致します!」

 2人が半泣きで抱き合って喜んでくれる。

「それで、当座ピーが隊長、プーが副隊長、として……他に竜騎士になれそうな人材はいるかしら?」

「それなら、あたしらの生まれ育ったむらに声を掛けてみます……なりたい者は大勢居るかと」

「わたしの妹も実力はあります……ただ、には呼びたくなかったので……」

 それはそうだ。新入隊員にトンデモない仕打ちをする隊だと聞いた。

「それでは、先ずは1小隊6騎分、人を集めて頂戴……騎竜ワイバーンも持っているなら尚良いわね……予算に糸目は付けないわよ、実力のある人たちをお願いね!」

 これから忙しくなるわね。第三皇女の『竜騎隊』以上の物にして見せるわっ!

 モブの行方も気になるけど、先ずは足場から固めよう。モブはイクイクたちがきっと見つけてくれる。


 わたしくしは大地に足を踏み締め、明日を見詰めたのだった。



            【つづく】

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