第7話 穴の外へ!

 食事が終わり雑談をしながらもオレは先ほどの、ちゅ~、の衝撃から抜けだせずにいた。

 一方、ヒメはように振る舞っている。

 今も食べ終わったゴミを(オレの分と合わせて)回収用の袋に詰めている。

「ダンジョンをゴミ捨て場と勘違いしてる冒険者が居るけれど、困ったモノね」

 オレが曖昧に頷くとヒメが続けた。

「人間や魔物は死ねばダンジョンに吸収されるけれど、服や装備は吐きだされるモノね(笑)」

「えっ?……そうだったんだ」

 オレの返事にヒメが小首を傾げた。

「モブってを知ってる癖に、当たり前なコト知らないよね?」

「あ、えっとぉ……」

 オレは少し迷ってから打ち明けた。

「これはまだ誰にも話してないのですが、オレは別の世界からこの世界に飛ばされたんです……まあ、こんな話、信じられないでしょうが(笑)」

「え? モブって『転生者』…ん?…『転移者』?……だったの?」

 ヒメの返事はオレに衝撃を与えた。


「『転移者』……まさか、他にも?」


「いいえ、他の『転移者』あるいは『転生者』は、実際には知らない……でも、大魔導師さまから『そういう人たち』が居るという話は伺ったわ」

「そう、なんだ……」

 もしかしたら、還る方策が見つかるかも知れない、と思った。

「と、取り敢えず、今の話は暫く内密に……」

「良くってよ、二人だけの〝秘密〟ねっ♡」

(女子って〝秘密〟って言葉が好きだよな(笑))

 ヒメはオレの含み笑いをスルーして言った。

「それであんな不思議な魔法が使えたのね……」

「ああ、『※ スキル【かばう】』ですね(笑)」

「『※ スキル【かばう】』……モブらしい魔法ねっ♡」

「えっ? そうですか?」

「ええ、だって……モブって、優しいモノね?」

 ヒメが何か言い方をした。

「いえ、ヒメのようなです(笑)」

 オレの言い訳フォローにヒメは、ふんっ、と鼻を鳴らしただけだったが。


「その『※ スキル【かばう】』で考えていた事があるのですが……」

 オレは思いついたアイデアを確認する。

「オレには自分の背後なので良く見えないのですが、あの時って、翼を広げたような形ですかね?」

「そうね……白く光った大きな翼を広げたような形だった……かしら?」

「やっぱりそうなんだ……ちょっと見ていて貰えますか?」

 オレはそう言ってから広い場所に移動してから念じた。


  『※ スキル【かばう】』


 しかし、一瞬だけ背後が光ったような気がしただけでスキルは『発動』しなかった。

「やはり、枯渇したMPが戻っていないか」

「……えむぴー、というのは魔力の事かしら?」

「ああ、そうですね、多分…」

 オレの返事にヒメが頷く。

「だったら補填するのは可能よ!」

「えっ? ホントに?」

 何故だか、わく、わく、した顔のヒメが、広げたままだった敷物(代わりの夜具)を、ぽん、ぽん、と叩いた。

「ここへいらっしゃい」

 オレが言われた場所(ヒメの直ぐ前)に坐ると ――


 オレは、ヒメに押し倒されていた(笑)。そのまま、顔が近づいてくる。


「魔力は、手と手を合わせても交換できるけど、口と口を合わせて注入するのが、一番効率が良いの…」

 そこまで、普通に話していたヒメが、何故か急に、おた、おた、しながら言った。


「だ、だ、だから、これは……き、ききき、きちゅ、じゃにゃい…にょ、よ……か、勘違いしない、でよ、ね…」


 言い終わって直ぐに(決心が鈍らない内に?)ヒメがオレに口付けてきた。

 少し前にされた冗談交じりのキスではなく、ヒメがいきなり舌を挿入れてきた。

 オレの舌を探り当てヒメの口腔に誘い込まれる。

 卑猥な水音が辺りに響く。

 一心不乱にオレの舌をなぶっていたヒメがオレの口腔に唾液を流し込んできた。


 ―― と、同時にヒメの周りが白い光に包まれた。


 そしてオレは魔力が流れ込んでくるのを感じたのだった。

 それからどれくらい舌を絡め合い、唾液を流し込まれただろう。

 やがて、力尽きたように唇を離したヒメがオレの肩口に顔を埋めた。

 息が荒い。

 オレの胸板で潰れたヒメのふたつの膨らみが激しく上下している。

 全ての魔力をオレに与えてくれたのだろう。

「ありがとうございました」

「ん♡」

 辛うじて頷くのがやっとのようだ。

 オレは思い出して『収納袋』から『青色ポーション』を取りだしてヒメに渡した。まあ、気休め程度にしかならないだろうが。

 しかし、ヒメがそれを取り落とす。

 そこまで衰弱させてしまったのだと思い知らされた。

 オレは体勢を入れ替えて『青色ポーション』を開けて口に含み、ヒメに口移しで流し込んだ。


 人生三度目のキス……いや、これは『医療行為』だ(笑)。


 唇を離すと、ヒメが顔を持ちあげてオレの顔を掴んで口周りを舐め廻した。

「残したら勿体ないでしょ?」

 ヒメがながら笑った。

「はい、それも『医療行為』ですね(笑)」

 オレの指摘にヒメは怒ったように言ったのだった。

「莫迦っ!」


 それからオレは自分のステータスウインドーを開く。


  名前=タダノ・モブ(本名=※※※※・真名【※※※※※※】)

  性別=男(経験値=童貞)

  年齢=18歳

  種族=ヒューマン

  レベル=2038

  ジョブ=転移者

  HP=189103/189119

  MP=285605/285605

  STR=9978

  VIT=12457

  DEX=228

  AGI=1753

  INT=1875

  LUC=18467


 スゲーっ!?

 MPが一桁増えてる(笑)。

 まあ、一時的なものだろうが。

 『本名』と【真名】は未だに非表示だ。本人なのに(笑)。あと『童貞』は非表示にしたいぞ(笑)。

 レベルが倍近く一気にあがったのも、やはり穴に落ちた時『※ スキル【かばう】』を使ったからだろうか。

 さて、『LUC』も大幅に増えているし、やってみようかねっ!

 オレはまたさっきの場所に立ちイメージした。


 『※ スキル【かばう】』を念じるのではなく、その時生まれた白い翼だけを思い描く。更に大きく、更に力強い、イメージで。


  ※ スキル【飛行魔法】を獲得しました。


 また、頭の中にあの声が聞こえた。

 同時に背中から二つの光輝く大きな翼が左右に広がるのが判った。

 多分、この翼は羽ばたかせる必要はない。

 オレは浮きあがるイメージを念じた。

 瞬間、視線が下へ流れた。いや、オレが数メートルのだ。

 ヒメが息を吞む気配を感じた。

 オレは、ぐるり、と壁沿いに遊泳してからヒメの前に音もなく着地した。


「もうっ!…あなたって、何でもありねっ♡」


 ヒメがオレに抱きついて、うる、うる、顔で見あげてくる。

(そういう顔、男が一番弱いって知ってます?)

 しかし、素知らぬ顔で言ってみる。

「惚れ直しました?」

「えー、ないわーっ!」

「言い方~~っ!」

 まあ、良いけどね。


(もう、お莫迦さんね(笑)…ぱんつを見られたいのちをすくわれた時からあなたに夢中よっ♡ ……パイ・チンにも、譲れないわ……わたくしは、本気でを取りにいくわよっ♡)


 それから急ぎ片付けをして、残したものがないか確認も済ませて、オレはヒメとさっき浮きあがった場所に立った。

「ええと、どうやって運びましょ…」

「お姫さま抱っこっ♡」

 オレが言い終わる前に答えが返ってきた。この世界に〝お姫さま抱っこ〟という言葉や概念があるかは判らないが、ご希望にはお答えしましょう(笑)。


 オレはヒメの背と膝裏に腕を宛がい、軽々と持ちあげた。

 直ぐにヒメの両腕がオレの首に捲きついて抱きついてくる。顔が近い。片乳がオレの胸板で、むにょん、と潰れた。


「では、参りましょう、おひいさまっ♡」

 お道化て言うとヒメも、ノリ、ノリ、で答えた。

「うむ、良きに計らえっ!」


 穴の上端には1分も掛からなかった。

 いきなり飛びだしてきたオレたちを、4人の仲間が唖然として見詰めていた。



            【つづく】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る