第5話 いよいよダンジョンへ!

 異世界も3日目ともなれば、だいぶ余裕が生まれた。

 筈だった、のだが ――

 朝の着替えでパンツを脱がしたチンチンが、はふ~ぅ、とか溜め息を吐いてオレの腰廻りに抱きついたのだ。

(ち、チンチンちゃん……そ、そこに顔を埋めるのは…や、やめて貰って良いでしょうか?)

 昨夜のヒメといい、今朝のチンチンといい、この国の王室の『危機管理』は、大丈夫ですか?

 そんなこんなで着替えも終わったのだが、何故かまたパンツを穿き替えさせられたのだった。

 一晩穿いていれば汗も掻くから……という指摘には同意するが(自慢じゃないが元の世界では、3日くらいザラだった)、折角ヒメが『加護』を附与してくれたのに。

 いや、ヒメが昨夜附与してくれたのは、パンツでなく『中身』だったか?



 さて、愈々いよいよダンジョンだ。

 と、気分もあがったのだが ――

 ダンジョンまでは『転移門ポータル』を使うそうだ。

 ヒメの『転移魔法』は魔力を大きく消費するからだそう。うん、納得である。


 そして、『転移門ポータル』から出ると、背後から呼び留められた。

「おい、そこの『平たい顔』!」

 オレの事らしい(笑)ので振り返ると、の女子2人が睨んで居た。

「オレか?」

 見覚えがない(いや、『異世界転移』して間がないオレに〝見覚えのある〟相手は少ないが)ので自分を指差して訊いた。

「そうだ!……しかし『不細工』な男だな!」

 失礼なである。

「あら、ラザール(?)姉妹ね、どうしたの?」

「これはおひいさま、ご機嫌麗しく……わたくし共はでございます」

「そ、そうだったかしら……あ、今はなので『ヒメ』と呼んでね」

「畏まりました、『ヒメさま』」


(う~ん、『おひいさま』と『ヒメさま』……違いが判らん(笑))


「それで、金ちゃん、銀ちゃん……ウチのモ…タダノさんが何か?」

 ヒメがオレの前にかばうように立って訊いた。

「ひ、ヒメさま…その呼び名は勘弁して欲しいでありんす」

「ええっ? 可愛いのにぃ!」

「いや、ワチキらヒメさまより大分年上でありんすから」

「そうにょ!……こいつら見掛けはロリってるが、実際はにょ(笑)」

(『ロリってる』というのは多分それに類する蔑称が変換されたモノだろう(笑))

「ば、とは聞き捨てならんでありんす!」

 顔は、そっくり、だが銀髪のが言うと、もう一方の金髪のが続けた。

「近衛魔術師風情が貴族のワチキらに失礼だなしっ!」

「貴族と言っても序列最下層が何を言うかっ!」

 マータが、ずずいっ、と間に入って言った。

「むぐぐぅ……だ、だいたいそこの『平たい顔』の話でありんす!」

「そうでありんす、そこの『不細工な男』はヒメさまのパーティとは関係ないのでありんしょう?」


「あらあ、が何かあ?」


 ヒメがまなじりを吊りあげ、大きな胸を持ちあげるように両腕を組んでオレの前に立った。オレをバカにした女たちから守ってくれるみたいでスゲー嬉しい。

 しかし、


「『わたくしのモブ』とな?」


 それにマータとイクイクが反応した。


「おお、ヒメさまが本気でをとりにいったにょ♡」


「が、外野…う、うるしゃい!」


 ヒメが赤くなった隙に(?)銀髪が言った。

「そ、そいつが『転移門ポータル』でワチキの荷物を盗んだのでありんす!」

「えっ?…何かの間違いでは?」

 ヒメがオレを振り返って確認する。

「そうにょ!…タダっちは、スケベだが盗みなどしないにょ!」

(良いフォローありがとう、犬耳狼娘イクイク

「……そう言えば、『転移門ポータル』から出る時に何か声が聞こえたなあ……『この荷物をどうなさいますか?』…その後、2択の選択肢がでて『持ち帰る/廃棄する』とあったから、一応『持ち帰る』を選んだんだが……あれ、何処に入ってるんだろう?」

「ここにょ♡」

 背後から犬耳狼娘イクイクが抱きついてきてオレの股間をまさぐった。

「いや、そんなトコに……」

 逃げようと藻掻もがくオレの肩から下げた『収納袋』( ← 出立前にイクイクから渡されていた)から、イクイクが何か取りだした。

「ああ――っ! それじゃ、ワチキの『ボディスーツ(装備)』でありんすっ!」

 手を伸ばして引っ手繰ろうとする銀髪から、するり、とかわしてイクイクが訊いた。

「お前が置く場所を間違えたのではないかにょ?」

「そんなハズ、は…………な、なな、ないでありんす」

 視線を泳がせる銀髪にイクイクが『装備』の袋を放った。

「ほれ、置き場所を間違えるにゃ!」

 受け取った銀髪が中を改める。取りだしたのは銀色の『ボディスーツ(装備)』だった。

「ま、まさか、お前……お、お股の辺りを、くん、くん、とか、ぺろ、ぺろ、とかしてないだろうな?」

「し、失礼な…」

 反論しようとしたオレの言葉を遮ってマータが言った。

「ポータルの案内所で『出入しゅつにゅうログ』を確認すれば『置き場所を間違えた』か『盗んだ』か直ぐに判る」

 そのままマータが手首に巻いた何かの『装備』を開いて何やら確認している。

(この異世界って、何でもありだな(笑)……あれって、SFとかにでてくる『携帯型情報端末』だよね?)

 1、2分何やら操作していたマータが表示された画面を銀髪に見せた。

「うっ!」

 どうやら動かぬ証拠が見つかったらしい。

「タダノうじが持ち帰ってくれなかったら、それは『廃棄処分』だった訳だ!」

「おい、銀髪……ウチ等のメンバーにを掛けて、間違いでしたで済むと思うなにょ!」

「ひいっ!」

「今夜、あーしらの宿まで必ず来るにょ!」

 そしてイクイクは銀髪の耳元で何か小声で囁いた。

「来なかったら、生のお股を、くん、くん、ぺろ、ぺろ、するからにょ!」

「わひぃいいっ! わ、判ったでありんすっ!」


          *


 変な邪魔が入ったが、愈々いよいよダンジョンである。

 と言っても、只の洞窟の入り口だ(笑)。

 パーティの配置はこうだ。


 先頭にオ・マータとアル・チチ

 次にヒメノ・ヒメ

 すぐ後ろにオレ(タダノ・モブ)

 最後列にパイ・チンチンとイク・イクイク


 入り口を潜ると薄暗い(いや、仄明るいというくらいだろうか)回廊が奥に向かって伸びている。

 ダンジョンは壁からの自然発光で常に仄明るいのだそうだが、それでもヒメが魔法で頭上に灯りを浮かべた。

 火の玉が普通に浮かんで道なりにのが、異世界人のオレには不思議でならない(笑)。

 前衛の二人が辺りに気を配りながら進む。

 道順のナビゲートはイクイクの担当である(『冒険者ギルド』でマップを購入していた ← 無料ではない(笑))。

 また、入り口でヒメから『大いなる加護』を貰ったチンチンも今日は顔色も良い。ステータスを見るとパラメーターも高い位置で安定しているようだ。


 道なりに進み小部屋にでた時、最初のエンカウントだ。

 ゴブリン3体だ。

 ゴブリンには鎧や剣などを装備する個体もあるようだが、現れた3体は裸に棍棒を担いでいた。

 マータが高く飛んで一瞬で距離を詰めると袈裟切りで仕留め、返す刀(いや、『幅広のロングソード』だが(笑))で2体目も切り捨てた。その間にチチが3体目に槍を突き通して倒していた。

 オレが刀を抜いた時には全てが終わっていた(笑)。

 苦笑して刀を鞘に戻すと、イクイクも笑いながら言った。

「タダっちの仕事はヒメを守る事にょ♡」

「はい、お任せください!」

 オレが意気込んで答えるとヒメが、ちらっ、と振り返って頬を染めた。

(いや、可愛すぎる~~~っ♡)


 しかし、それは突然起こった。

 湿り気のある床の石畳みに足を取られたヒメがよろけて壁に手をついた。

 瞬間 ――

 ヒメの足元が消え、彼女はできた穴に落下していった。


 オレは追い掛けて穴に飛び込んだ。


 迷いは微塵もなかった。

 まだ距離があるが、オレの方が重い。

 絶対間に合う。

 いや、間に合わせる!

 しかし、ドンだけ深い穴だ!


「届け、届け、届け――――――――っ!」


 や、やった!

 ヒメの『白い防具(笑)』が目の前だ♡

 絶対、助けるっ!

 そして、ヒメと等距離になった。

「ヒメさま、ヒメさまーっ!」

 オレの叫びにヒメは気付かない。

 いや、気絶していた。

 当然だし、その方が良かった。なまじ恐怖を感じずにすむ。

 オレは両手をヒメの身体に廻し、壊れ物を扱うように、そっと、抱き締めた。

 そして、腹の底から念じた。


  ※ スキル【かばう】!!!!!


 瞬間、オレの背後に白い光の翼が広がったのが判る。

 同時に急制動が掛かった。

 オレはヒメが上になるように体勢を入れ替え、、した。

 そして、オレは頭の中が真っ白になってゆくのを感じた。

 多分、MPを使い切ったのだろう。

 オレはそのまま意識を失ったのだった。



   ■ヒメノ・ヒメ視点■


 わたくしは、次第に意識が戻るのを感じた。

 辺りはダンジョンにしては薄暗い。

 視線を巡らすと洞窟内部のような壁が周囲を囲んでいる。

「はっ!?」

 突然思い出した。

 わたくしは穴に落ちたのだ。

 そして、今わたくしは誰かに抱きかかえられている。

 誰か、ではない。

 暗がりでハッキリしないが、タダノさん……い、いえ、(ぽっ♡)に間違いない。

 わたくしは、彼に命を救われたのだ。

 これが二度目だ。

 どうやって、その恩に報えば良いだろう。


 いえ、一先ず彼の上から降りよう(笑)。


 降りてから、彼の胸に耳を当て、呼吸を確認した。

(大丈夫、呼吸は安定している…)

 思ったより胸板が厚く少し、どき、どき、したのはナイショだ。

 それから、立ちあがって辺りを再度確認する。

 石造りの壁が四方を囲んでいる。

 壁に手を当てると、人工物のようにも思えた。

 見あげると遥かな高みに(点にしか見えない)落ちてきた穴があった。

 その距離を落ちて命があった事に、ぶるっ、と震えがきた。

 次に『装備』の確認だ。

 身に着けていた防具類には破損は見られない。『王錫おうしゃく(我が王家の秘宝である)』も無事だ。

 念の為『王錫』を手にとって彼と自分に最大級の『回復魔法』を掛けた。

 後は出口の捜索だ。

 ベルトに差した『ショートソード』を鞘ごと抜いて、壁を廻りながら柄で叩いてゆく。音に違いがないか聞き耳を立てて一周した。マータから教わった確認方法だ。

 徒労に終わったが必要な作業だ。

 最後に、可能性はないが『転移魔法』を唱えてみた。

 ダンジョンの中では発動しないと教わった通り、魔法陣は構築される前に霧散した。

 気持ちが落ち込んでも空腹を訴える身体に嫌気が差したが(命の恩人を差し置いて)自分だけ先に食事をとる訳にはいかない(笑)。


 今ここで為すべき事がなくなり、空腹以上に疲労を感じた。

 背に背負っていた『収納袋』を降ろし、彼の横に身体を横たえた。

 かなり迷ってから、覆い被さるように彼に抱きついた。

 大きな安心感が身体を包み、わたくしはそのまま眠りに落ちていったのだった。



            【つづく】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る