第3話 夜伽か?、お浄めの儀式か?

 チンチンが言った言葉をオレはもう一度反芻してみた。


「ご、ご主人さま……今宵のは、わたくしが参りますが……な、なにぶんの〝おボコ〟でございますので、ご配慮戴きたく……はううぅ!」


(な、なんですと~~~っ?……よ、夜伽ぃ!?……〝おボコ〟おぉ!?)


 しかもヒメまでそれを既定路線としているらしいのが訳が判らない。

「だ、大丈夫ですよ…(う、羨ましい)…た、タダノさまに凡てを委ねれば良いのです…(わたくしが…か、代わりたいのにぃ!)…」

 何やら、含むトコロがありそうなヒメだったが(笑) ……何故だ?

 実は、さっきの『高名な呪い師による解呪の方法』には、まだ続きがあって ――


 ダンジョンに向かう前夜(つまり今夜だ)、『東方から来た異邦人』(つまりオレだ)に〝捧げ物〟をする必要がある……と。

 のが目的だが、処女おとめを捧げるのが最も好ましい……と。

 しかも、捧げられた処女おとめにもが約束されているそうで、実は5人で奪い合いになりかけた……そうな?

(いや、1人処女じゃなかったが?(笑))


 ―― マジか !?


 オレのなんだが?

 大丈夫なのか?……大丈夫だよな?


「ええっと、折角のお申しでなのですが……ご辞退…」

 オレの言葉が終わらぬ内にチンチンの目に大粒の涙が浮かんだ。

「やはり、奴隷に堕とされた女では……お嫌でございますよね…」

「い、いや、ちが…」

 すると、オレの言葉を遮ってヒメが血相を変えて怒りだした。

「わ、わ、わたくしの大切な友人のチンチンを辱める言葉、許しません事よっ!」

「だ、だから、ちょ、待ってっ!」

 オレは必死に言葉を絞りだし、その場に平伏した(まあ〝土下座〟とも言う)。

 流石に〝土下座〟は万国(異世界も含む)共通だったようだ。

 ヒメは一先ず怒りを収め(ソッポを向いていたが)、オレの言葉を聞いてくれるようだった。

 実はこの時、チンチンを守るように横に膝を着いたヒメの短めの装備の間から、あの【防御率がMAXになる純白パンティ】が垣間見えたのは、内緒だ(笑)……これって、何でも高貴な身分の乙女しか装備できないとか、さっきイクイクが耳打ちしてきたのだが。

「オレはチンチンさんが嫌だなんて全く思っていません。むしろ、こんな不細工なオレにに感謝しかありません…」

「それなら、何も問題は…」

 勢い込んで言ってくるヒメを遮り、オレは続けた。

「オレは元の世界に……す、好きな女の子が…い、居ます」

(あれ?……彼女の名前……ひめ?、ひめ…の、とか言わなかったか?)

 オレは何故か曖昧になった記憶を辿ろうと必死になっていた。

「そんなの、問題ないにょ!……二人ともめとれば良いにょ♡……この国では〝英雄〟には、二人も三人も奥さんが居るにょ♡」

 突然の(笑)にオレが途惑っていると〝犬耳の獣人美少女〟が更にトンデモない事を言った。


「今回のミッションが成功すれば国王から望みの褒美が貰えるにょ♡……何なら、ヒメも第一夫人として迎えて貰っても構わないにょ♡」


「「「な、な、な~~~~~っ!?」」」

 オレたちが異口同音で呆れ果てている横でヒメが何やら俯いて、もじ、もじ、していた。

(いや、いや、いや……こんなブサメンの『第一夫人』とか、間違ってもなりたい訳がない!)

 そんな空気を感じたのか、ただ単にニブニブさんなのか、アル・チチが改まった口調で言った。

「あたしに名案がございます……呪い師さまのお言葉では『のが目的』との事でございました。でしたら、この宿の湯殿ゆどのをお借りして皆で閣下のお身体を宜しいのでは、と愚考致します……そうすれば、皆にもが分配されるのではないでしょうか?」

 もしかしたら、最後の一言が皆の心を動かしたのかも知れなかった。


 あれよ、あれよ、という間に宿の湯殿が貸切られ、オレは逃げる間もなく拘束されて身ぐるみはがされ……気づけばで湯殿に放り込まれていた。

 更にオレを追い掛けるように同じくの美少女5人が乱入してきたから堪らない。

 オレは逃げ場もなく追い詰められ、悪い事に足元に転がっていた石鹼に足を滑らせそのまま背後に倒れ込み、頭を強く打って昏倒したのだった。



   ■パイ・チンチン視点■


 タダノさまが仰向けに倒れられて、わたくしたちは大層焦りました。

 ヒメさまが最上級の回復魔法を何度も掛けられましたが意識が戻られません。

 更にヒメさまが人工呼吸を試みられようとなさったのですが ―― 何と呼び名を変えようと、それは殿方との接吻マウスツーマウスでございます。

 幾分、躊躇ためらいもございましたのでしょう……唇同士が重なろうとした瞬間でした……

「呼気があるわ」

 ヒメさまがそう仰いました。

 しかも、存外呼吸は安定しておりましたので、このまま『お浄めの儀式』を遂行してしまう事と相成りました。

 各自、タダノさまに駆け寄った立ち位置のまま目の前の『そこ』を各自石鹸を泡立てたタオルで『お浄め』するのが宜しかろうとなったのですが……

 わたくしの前はタオルを巻かれたでございます。

 ヒメさまに、ちらり、視線を投げて暗に交代をお願いしてみたのですが、あっさり、視線を外されてしまいました。

 困り果ててイクイクさまに縋るような視線を投げましたトコロ、こう仰ってくださいました。

「やっぱり、その……そこは、殿方の一番大事なトコロ……のヒメが為さるのが適任だと思うにょ♡」

「ま、ま、ま、待っ…」

 焦るヒメさまの言葉に被せるようにマータさまが追撃でございます。

「ヒメがお小さいころ、国王陛下と入浴した事もおありでしょう?……それと大差ござらぬ!…心を込めて『お浄め』為さるのが宜しかろう!」

 ここぞとばかり、わたくしは立ちあがってヒメさまに場所を明け渡したのは言うまでもありません。

 チチさまだけが幾分不満気にお見受け致しましたが、多分、わたくしの気のせいに違いありません。


 ヒメさまが渋々わたくしが居た場所に腰を降ろされたのを見て、わたくしも慌ててヒメさまがいらしたトコロに移動しました。

 わたくしの場所はタダノさまの右上半身、向かい側の左上半身をマータさまがご担当なさいます。一方、右下半身はイクイクさまが、左下半身はチチさまがご担当でございます。

 そして、タダノさまのお身体の中心部分をヒメさまがお浄めくださる配置となりました。因みに、ヒメさまの位置取りは右半身側、つまりイクイクさまとわたくしの間になります。

「えっとぅ……こ、この掛けられた布の上から石鹸の泡を垂らしてそのまま浄めれば……い、良いの…かし…ら?」

 ヒメさまが緊張した面持ちでイクイクさまにお尋ねになられました。

「なに言ってるにょ?……ヒメは自分の大事な絹のおパンツをそこらの衣類と一緒に洗うのかにょ?」

「そ、そんなコト……あ、ありませんことよ……し、下着だけは自分で手洗いするよう……は、母上さまから、きつく教えられてきましたわ」

 ヒメさまがご自分でお洗いになっていらっしゃるというのも驚きでしたが、流石はヒメさまのご母堂さま……い、いえ、第三王妃さまでございます。

「だったら、殿方の大切なも、当然手洗いに決まってるにょ♡」

「あぅううっ!」

 泣きそうな声をあげられたヒメさまでしたが、覚悟を決められたのでしょう。躊躇ためらわずに、しゅぱっ、と布をめくられました。

「ひぃんっ!」

 それでも声が洩れたのは致し方ありますまい。わたくしも両手で口を押えておりました。

 しかし ――


「う、うそぅ!?……ち、父上のモノは……こ、こんなに…お、大きく…ありません……でした…わ…」


 多分、思わず、ぽろり、と零されたのだと思いますが、マータさまが困ったお顔で仰いました。

「ヒメ、それは『国家機密』に類する内容だ……無暗に言葉にするでない」

 ヒメさまが焦って両手で口を覆うと、半分笑いながらマータさまがフォローなさいました。

「まあ、なんだ……タダノうじは、多分だが、かなり規格外の大きさだと思われる……故に、が特段……その、なんだ……そ、そういうコトだ……」

「それよりぃ、石鹸の泡で隠さないと、皆の手が止まってるにょ♡」

 イクイクさまが、ご自分の手元の泡を掛けながら仰いました。ヒメさまの近衛のお二人の連携は流石でございます。

 ヒメさまもご自分でも泡を掛けられてから、両のお手を使いお浄め始められました。

 タダノさまの全身がほぼ泡に包まれるようになり、皆もお喋りする事もなくそれぞれの担当部位を心を込めてお浄めさせて戴きました。

 時々、ちら、ちら、とヒメさまのお手元を拝見しますに、とても丁寧に、一心籠めて、僅かな〝穢れ〟も残すまい、との思いで『お浄めの儀式』を遂行なさっておられるご様子でございました。

 そろそろ宜しいのでは……と、皆が思い始めた頃でございました。

 ヒメさまが、不意に、仰いました。


「なんだか……か、硬く……なって、きた…よう…な?」


 こういう時に真っ先に反応なさるのは、やはりイクイクさまでございました。

「確認してみるにょ?」

 そう仰るが早いか、手元の桶のお湯を、ざっぱ~~んっ、とお掛けになりました。

 一気に泡が取り除かれて我々の目の前にさらされたのは、先ほどとはあまりに違うタダノさまののお姿でございました。

 何か、さえ感じて、わたくしなど些か震えがきたほどでした。

 ヒメさまのお手も、退き気味でございます。

「なぜだろう?……先ほどと、向きが違う?」

 マータさまの指摘に皆の視線が集まります。

 確かに、泡を掛ける前は足の方を向いていたように思われます。しかし、現在、タダノさまのはお腹に貼りついて、お顔の方を向いているようにお見受けされます。


「まあ、これが正しい姿だと、思うにょ♡」


 笑いながらイクイクさまが仰ると、ヒメさまが胡乱気うろんげなお顔で反論なさいました。

「イクイクも未経験と言っていたのに、随分と詳しそうね?」

「まあ、確かにあーしは経験はないにょ!……でも、『夜伽の作法』とか、『秘儀 四十八手』とか、『正しい女官の手遊てすさびの手引き』とか、後宮の第三王妃さまの書庫で勉強したにょ♡」

「は、は、母上のご本……でっ!?」

「なんでお前だけ後宮の書庫に入れたのだっ!」

 マータさまが些か憮然としたお顔でイクイクさまにお尋ねです。

「去年の夏に蔵書の『虫干し』を手伝ったにょ!……丁度、あーしの担当が〝その手のご本〟だったので、第三王妃さまにお願いして虫干しの後でお借りしたにょ♡」

「むむむ、ぅ、!」

 マータさまが悔しそうにうなられて視線を逸らされました。

「それよりぃ……『お浄めの儀式』を終える前にぃ、あーしもを体験しておきたいにょ♡」

 イクイクさまのご提案に、皆さまも大きく頷いておられました。


 結局、夜が更けるまで『お浄めの儀式』が延長されたのでございました。

 ……あ、えっと……わたくしも、末席で少しばかり……た、体験させて戴きました、です。はい。



            【つづく】

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