第7話 ザイルデム・キルシュバル1
「魔王の末路じゃと? 勇者に討伐されたんじゃないのか?」
辺境伯の問いにヴァイオレットは答える事が出来なかった。
ドゴォォオオオオオオオオオオオオオン!!!!
轟音が突如響く。
「奴らの仲間か!?」
「無関係ではないかと存じます。」
「ワシが行く。お前はアルを頼む。」
「はっ。」
くノ一よろしく、ヴァイオレットが音もなく姿を消す。
「やれやれ。狙いはワシじゃろうな。全く、陛下も面倒ごとを押し付けてくれたもんだ。
愛息子を可愛がる暇もくれんとはの。」
大きく溜息を一つつくと、表情を引き締め、バーンと勢いよく扉を開き、部屋を出ていく辺境伯だった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ザイルデム・キルシュバル辺境伯は何も考えていなかった。
貧乏男爵家の三男坊として生まれたから、家計を助けるため、幼い頃から雑用仕事を手伝い、空いた時間にチャンバラごっこの相手を森の中に探しに行っていた。
ザイルの言う遊び相手がゴブリンやコボルドだと言う事に家族が気付いた時には、中級冒険者くらいの戦闘力を身につけていた。5歳の時である。
いつものように森へ行った帰り道、川の対岸で馬車が襲われているのを見つけた。
何も考えず助けに行くと、馬車の中で膝を抱えてうずくまる少女の姿があった。
馬車を襲っていたのは盗賊だったが、後に対立する貴族が差し向けた刺客だった事がわかる。
少女はソニア・カイレニウス伯爵令嬢だった。対立する派閥から依頼を受けた冒険者崩れに攫われるところだったのだ。
当時7歳だったザイルに、5歳のソニアが一目惚れすると、たちまち婚約が成立した。ザイルも満更ではなく、まして、格上の伯爵家からの縁談に異を唱える家族はいなかった。
かくして、ソニアが奥となることが決まった。
ザイルは3男、ソニアは3女。継げる爵位は無かったが、ザイルは何も考えていなかった。いや、冒険者が楽しそうだなくらいに、漠然と考えていた。
しかしカイレニウス家は誤解をしていたのだった。ソニアを助けにザイルが川を渡る時、水面を走っていたのを護衛達が見ていたのだ。つまり、ザイルには魔法の才能があると。
だが、ザイルに魔法の才能は壊滅的に無かった。水面を走るくらい、頑張れば誰でも出来ると思っていたのだ。
カイレニウス家は高度な教育を受ければ、ザイルは大成し、自力で騎士爵程度なら獲得出来る器と信じた。だから、王立学院へ推薦したのだが、これが、良い方に見当違いだった。
入学式当日、正門の手前で上級生に絡まれている奴がいた。どちらにも取り巻きが5、6人ずついるのに、上級生側が一方的に言いがかりをつけているようだったので、
「おい、お前ら邪魔だぞ。今日は俺たち新入生の為の入学式だろうが。在校生が邪魔だてするのがこの学院の流儀なのか?」
偉そうな奴らのボスに言ったのだが、それがまさかの、この国の第1王子だったのだ。絡まれていたのは第4王子。
教師たちがおっとり刀で駆けつけて来たので、その場はお開きとなったのだが、案の定、俺は呼び出されることになる。
8歳の俺1人を15、16歳が10人がかりで取り囲み、その後ろに第1王子様がお控えになっていた。
と言っても、こいつらがコボルドより強いとも思えない。コボルド相手なら30匹に囲まれたって平気だったので、10人で現れた時は舐められてるんだと思ったくらいだった。
取り巻きたちがほうほうの体で逃げ出す中、第1王子様ときっちり話をつけるべく、胸ぐらを掴んで引き起こしたところに第4王子様が現れて、その場はお開きとなった。
股間を濡らした第1王子を見送る第4王子こと、エルビディス・ユグラニアの顔色は真っ青だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます