第6話 呪言師

「じゅ、、呪言師だと? (ゴクリ)、、、

 ・

 ・

 ・


 なんだ? それは。」


 ずっこけそうになるヴァイオレットだが、無理も無かった。


「ご存知ないのは当然です。私も祖父から聞いただけですので。」


 紛らわしい態度を取らないで欲しいと言いそうになって、言葉を飲み込むヴァイオレット。


「お前の爺さんって、伝説のハイエルフ『ミーレネシス』じゃないか。3000歳とか言ってなかったか? まだ生きてるのか?」


「はい。ミー爺ちゃんです。最近は4年に1回しか起きないのですが存命です。

 私が幼い頃、寝かしつけの際に色々な昔話をしてくれたのですが、魔王に関わる話がとても怖くて、記憶に残っております。

 中でも、魔王『グウェッジ』は、恐ろしいジョブを持っていたそうです。」


「ふむ。それが『呪言師』と言うわけじゃな。」


「はい。その通りです。」


「だが、耄碌した爺さんの戯言って事は無いのか?」


 祖父を馬鹿にされてわずかにむくれるヴァイオレット。


「あ、いや、、そうではなくて、、何千年も前の事を正確に覚えているのかなあ、なんてな!

 ワシらにはわからん感覚だからのう。そうじゃろう?」


 しどろもどろの辺境伯を見て、こんなんでも主君なのだと自分に言い聞かせるヴァイオレット。しかし、主君に選ぶほどには信頼しているのだった。


「ミー爺ちゃんの記憶は確かです。それよりも、子供だった私に合わせて、内容を子供向けに変えていた可能性は否定できません。」


「なるほどなあ。あんまり子供に刺激の強い事は言えないか。」


と、納得しかける辺境伯だったが、


「なんだと!

 なら、アルはそんな過激な事を起こしかねない能力を持っているって事か?!」


 慌て始める辺境伯に、


「その可能性に思い至りましたので、内密にお話し申し上げております。

 できましたら、お声を小さく。」


「そうだった。」


 声は落としたが、明らかに動揺している辺境伯を落ち着かせるつもりで、呪言師について説明する。


「あくまでもミー爺ちゃんから聞いた話しですが、呪言師は呪言を使う者。呪言とは特別な力の込められた言葉です。

 魔法であればマギッシュと言う言語で作られた呪文を唱える事で様々な力を発揮しますが、呪言は言葉そのものが力を持ちます。」


「脳筋のワシにはよくわからんな。」


 『それ自分で言っちゃうんだ』と思いつつ、自覚があるのは良い事だとも思う。


「じいちゃんは『コンパイラとアセンブラみたいなもんじゃ』と言っておりました。これは私も意味がわかりません。」


「なら、ワシのかわいいアルは、そのアブラゼミとやらを使えると言う事なのか?」


「アセンブラですが、そのように見えました。

 アル様が何事かをあの男に向けて言った途端に、顔を抑えて悲鳴を上げたのです。

 後で確認しましたが、男の顔は無数の針に刺されたような小さな傷で埋め尽くされておりました。」


「そのような魔法は聞いた事がないのう。物理攻撃にしろ、無数の針を一瞬で大量に突き刺すなど、人間業とも思えん。」


「はい。それに針はどこにも残っておりません。」


「物理でも魔法でもない。だから呪言と言うわけか。」


 考え込む辺境伯。


「カクタサンと言うサボテンのような魔物が持つスキルに非常に似たものがあります。」


「トンズオブニードルズじゃな。」


「ご存知でしたか。」


 荒地などの限られた環境にのみ出現する逃げ足の早い魔物の固有スキルで、耐性を無視して1ポイントのダメージを与える針を1000本撃ち込むと言うものだ。

 「トンズ」と言う名前だが、なぜか毎回1000本きっかりで、初級冒険者や非戦闘職にとっては致命的なダメージを被るものの、ある程度鍛えた者にとってはたいしたダメージにはならない。


「では、たまたま激レアスキルに目覚めたと言う可能性はどうなんだ?」


「完全に否定は致しませんが、外に出たこともない、箱入り息子のアル坊ちゃんが、魔物の固有スキルを獲得する可能性は極めて低いかと。それに、トンズオブニードルズをあの男が喰らったのなら、顔面は針まみれだったはずです。」


「やはり呪言師なのか。だが、だからと言って、誰にも言ってはならないほどの事なのか?」


「理由は2つあります。」


「聞こう。」


 ヴァイオレットは大きく息を吐いて一段落つけてから話し出す。


「一つ目は、呪言師のジョブは、魔王以外に目覚めた者がいない事です。」


 辺境伯が慌てる。


「なんだと! アルが魔王だと言うのか?

 ワシも奥も貴族の端くれ、魔王の血なぞ何世代遡ろうが入っておらぬ!!」


「私もそう思います。アル坊ちゃんは、我々エルフでさえも確認していない人類初の呪言師なのではないかと考えます。

 しかし、他人から見ればどうでしょう? 本当は魔王の先祖がいる事を隠しているのではないかと邪推されかねません。」


「確かにな。魔王の血は大覚醒遺伝するとも聞く。遠い先祖から魔王の血を受け継いでいないと、ワシですら確信は持てん。」


 脳筋だが馬鹿ではないのだと、失礼な褒め方を脳内でするヴァイオレットが、


「もう一つが、魔王グゥェッジの辿った末路です。」


 より深刻な表情を浮かべるのだった。


 

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