第3話 覚醒初日
「テメェら。このガキ、ぶっころされてえか!!」
私は意識を失って命が尽きたはず。なのに、随分と賑やかな所で目を覚ましたみたいです。
「さっさと武器を捨てて、壁に向かって跪くんだ!」
私を小脇に抱えた男がダミ声を飛ばしています。周りがよく見えないのですが、たくさんの人がいるらしい気配です。
「待て! 待ってくれ!!
その子はまだ2歳だ。何も出来はしない。
だから、人質には私がなる!!」
「いけません! 旦那様!」
「辺境伯を人質になど!!」
口々に少し離れた位置の人々が叫んでいますと、
「いいねえ。そういうガキだからこそ、人質にしがいがあるってモンよう。」
私を抱えた男が嘘ぶきます。男に余裕などなく、体が震え、大量の汗をかいていました。
しかし、私は別の事を考えていました。
『ガキ』? 『ぶっころす』?
生まれて初めて聞いた言葉なので、意味がわかりません。でも、頭の中でそれらの言葉を反芻すると、なんだか嫌な感じが体の中から生じ、そのモヤモヤが体の中を右回りに一巡して左の胸に集まって行きました。
「で? 武器を捨てるのか捨てねえのか?」
私の顔に刃物のような物が突きつけられます。
「ま、待てっ!!
お前たち、武器を捨てなさい。」
男性の声がすると、ガシャリ、ガシャンと金属が地面に落ちる音が何度も響きます。
「よおーーし、いい子だあ。
次は伯爵様よう。一人でこっちに来な。」
「貴様! 辺境伯様に向かって、」
「かまわぬ!!!」
部下らしき人物を制して辺境伯様がこちらに歩いて来るのです。
「よおーーし、そこで止まれ。
自決用の小刀は持ってんだろう?
出して見せろ。」
少し離れた所で立ち止まった辺境伯様は、小さな刃物をどこからか取り出したようです。物凄く細かくて綺麗な細工が施してあり、キラキラと輝いています。恐らく、家宝なのでしょう。『じけつよう』という意味はわかりません。
それを、私を抱える男の方に投げる素振りをしたところ、
「おおーーっと。そいつはあんたが使うんだ。投げんじゃねえよ。」
それを聞いた辺境伯様の顔が厳しくなります。
「どういう意味だ。」
低い声で問いますと、
「テメェでテメェの首を掻っ切るんだよ!!
ちゃんと『ジケツヨウ』に使って見せろって言ってるんだ!!」
大変です。あの刃物は自分で自分を傷つける為のものだったのです。
なぜ、そんな恐ろしい物を辺境伯様がお持ちなのかは分かりませんが、そんな事をさせてはいけません。
「なんと、卑劣な、、、」
「クソ野郎が、、、」
部下の方々から声が上がります。その中に聞き覚えのある言葉が。
『クソ野郎』
クソは排泄物の事。小さな頃に読み聞かせてもらった絵本で、いろんな動物のう◯ちが出てくるお話があって、はしたないけれどとっても面白かったのを思い出しました。う◯ちの別称がクソだったはず。
野郎は男の人の事。つまり、私を抱えている男性はう◯ちさんって事でしょう!
これも絵本の読み聞かせのお話の中でずっと気になっていた事なのですが、日本神話の『国産み』の中で、イザナミ神は火の神であるカグツチをお産みになる際、火傷を負ってしまい、それが原因で病気になってしまうのですが、その時の吐瀉物、つまりゲロや、漏らしてしまったうんちも神様になるのだけれど、それらの神様は二度と登場しません。その後、どうなってしまったのか、とても気になっていたのです。
もしかして、クソ野郎さんは、その時のう◯ちさんなのかも!
私はとても興奮していました。
辺境伯様は悩んでいるようです。でも、う◯ちさんは、なぜ、辺境伯様に自分で自分を傷つけるようにおっしゃるんでしょう?
もしかして、瀉血をするようにおすすめしているのでしょうか。でも、瀉血で健康になるなんていうのは迷信だと、お父様が仰っていました。う◯ちさんは、まだ、信じている人なのかもしれません。
辺境伯様は半信半疑なのかしら。それならお止めしないと!
『おやめ下さい。』
と言おうとしたのですが、その時、気付きます。この人たちが話しているのが日本語では無い事に。
言葉の意味は分かっています。自動的に日本語の意味に頭の中で変換されているようです。
自分から言葉を発するとどうなってしまうのでしょう。すでに喉まで出てしまっていた言葉を止める事はできませんでした。
「やめろ!!!!」
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