第5話 お誘い

1日、また1日って日が過ぎていく。


「そろそろ、かな。」


「え?」


調査も依頼もどっちも順調に進んでるから今のところ何も心配はない。


ただ1つ、心配なのはマーレだ。


ここに来てから部屋から出ないようにって言う言いつけをちゃんと守ってるから1度も部屋を出ていない。


そろそろストレス溜まるんじゃない?


逃げられても嫌だからね、買い物くらい一緒に行こうと思うんだ。


「ねぇ、マーレ。買い物に行かない?君の服とか揃えたいんだ。」


「か、買い物…?私と?」


「はは!やだなぁ、この部屋には僕と君しかいないよ?もちろん君とだマーレ。」


「ぅ…ゥん」


椅子の背もたれに肘をついて頬杖をしながら彼女の様子を見てみる。


モジモジして何かな?


言いたいことがあるみたいだ。


「希望があるなら聞くよ。死にたい以外でね。」


「あ、えっと…わ、私その…お金なくて…」


「え?そんな事?ははは!やだなぁ、全部僕が出すに決まってるでしょ?」


「わ、悪いよ…それに見合った事だって何も出来てないし。むしろその、、お荷物になってるし…」


「ん?」


「普段の仕事と彼の調査と…大変な思いばかりさせてしまって…その」


あぁ、なんだ。そんな事?


こんなの大変でもなんでもないのに本当に心の優し子だ。


だって僕が進んでやってる事だよ?しかも愛するマーレの為に。


これ程嬉しい事ってある?


「マーレ、僕を見て。」


「?」


「僕、辛そうに見える?」


「…え?」


「見合った事をしていないって、もう十分してるじゃないか。」


「そんな…してないよ」


してるさ。


君がここに来てからこんなにも心が穏やかなんだから。


申し訳なさそうにしてる顔ばかり見てるけど、それでも君がいるだけで頬が緩んでしまう。


あぁ、本当に君はどんな麻薬より僕を狂わせるよ。


「してるよ。君の顔を見れる。声を聞ける。本当は笑顔を見せて欲しいけどね、それでも生きてるだけで僕には十分すぎる対価だ。」


「ーっ。」


「はは!顔赤いよ?」


嬉しいのかな?頬を染めて目線を下に落としてしまった。


あぁ、狂おしい。抱きしめたい。


その唇を奪って一生この部屋に監禁して誰の目にも触れさせたくないな。


未来永劫、ずーっと僕だけのマーレにしたいよ。


「っ。(落ち着け、落ち着け僕)っふぅー。ね?いいでしょ。僕と買い物に行こう。」


「は、はぃ」


「ふふ。なにが欲しい?ブランドかい?高級デザート?それとも化粧品…は必要なさそうだ。」


「そんな高い物は…ふ、普通のがいいな…」


「そうなの?まぁ君ならなんでも似合うだろうけどね。さぁ行こう。」


「うん…」


扉の前に立ってマーレに手を差し出せば少しオズオズして僕の手を取ってくれた。


とても小さくて柔らかくて。何も飾ってないけど色白で僕好みの質素さだ。


さて、彼女は喜んでくれるかな?


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