第9話
第9話
肌寒い朝、小林直哉は休日の日課である”ちょっと豪華な朝ごはん作り”に取り掛かっていた。
朝にめっぽう弱い妹のために、朝食はいつも彼が作っているが、”兄妹”らしいということなのか、直哉自身も決して朝に強いわけではない。それ故、休日の様に余裕のある時を見つけては、味とタイムパフォーマンスの両立ができる料理を研究、模索しているのだ。
「よーし、完成っと!」
(んー、いいんじゃなぁい...?)
菜箸でプレートの料理をつまみ食いしながら、自己評価を下してみる。
2人分の箸を並べ、ルーティン的に右側の席に座る。
数秒の静かな時間を置いて、サッと席を立つ。
「さあ遅いな...。」
普段と違って一向に目覚めて来ない妹を心配した直哉は、彼女の部屋がある2階へ向けて階段を登っていた。
紗綾の部屋の前まで到着し、数回のノックと共に声をかけてみる。
「おーい、さあー?...おーい?」
返答はなかった。
「さあ?入るぞ...?」
再度扉を叩き、ドアノブを握る。
その先には、妹の姿はなかった。
「えっ?!」
これまでこのようなことはなかったので無意識に後退りする程度には驚いたが、すぐにいくつかの考えにたどり着いた。
(あっ!普通に出掛けてるのか...あと、トイレとか?他あるか?と...とりあえず、携帯で連絡とってみるか!!)
思いついてから間も無く、1階リビングのテーブルにあったスマホを手に取った。
小林直哉『おでかけ?』
チャットアプリのダイレクトメッセージを通してそう送ると、思っていたよりすぐに返信が来た。
Saa8『そう』
(はぁあぁー、よかったぁー!!)
安堵の気持ちに溢れ、その後は流れる様に会話が進んだ。
小林直哉『一言言ってね。起きたら居なくて心配しちゃった。^^;』
Saa8『ごめん、次はちゃんと言う。』
小林直哉『^-^』
普段よく使う顔文字で締めくくり、スマホの画面を閉じる。急な脱力感で倒れる様に木製の椅子に座る。
10分ほど経ったか。体重を預けていた背もたれから背を離し、状況の整理をする。
(さあがいなかった...スマホで連絡...朝から出掛けてる...1人......冷めてる...)
気付くと、本能的に感じていた食欲によって無意識に箸を進めていた。
「よし、皿洗い完了っと...。」
1人分の料理の乗った皿にラップをかけて冷蔵庫へ納め、洗い終えたもう一方の皿を水切りラックに載せる。
「あっ...。」
気を抜くと妹のことが心配でぼーっとしてしまう。
(流石に心配しすぎだよなぁー、あー、いやでもまだ中1だぜ?)
「んーーー...。」
(どっちにしてもこのままじゃ俺の気が持たない...。)
数秒悩み込んだ後、顔を上げる。
「よし、決めた!今日一日はぶらぶら散歩でもして気を紛らわせよう。」
その宣言を皮切りとして、早速と言わんばかりに準備を始めた。
それからはすぐで、玄関口の鍵を締め終えた直哉は、車通りが少ない休日の物静かな道へ歩を踏み出した。
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