ヘーガサー(民話)

むかしむかし、浦添のある村にチルー小と名の娘がいたそうだ。

チルー小は浦添で1番美人だと評判だった。

また、チルー小は心優しく親想いの娘だった。


ある日、チルー小が村の中を歩いていると首里のお侍さんが前からやって来た。

チルー小を見るとお侍さんは

「とても美しい娘だ」

「俺の嫁になれ首里の屋敷に連れて行ってやる」

と言った。

心優しいチルー小は年老いた親を置いて首里には行けないと断ったが

「知った事ではない」

「1週間後に迎えに来るぞ」

と聞く耳をもたず、去っていった。

困ったチルー小が家に帰り親に話すと

「山の上にいらっしゃるシキタリ様に祈っておいで」

と言った。


チルー小が山の上に着くと、そこにはシキタリ様(※1)が座っていた。

シキタリ様にチルー小が困っている事を話すと、シキタリ様は

「ヨシ、助けてやるからワシの嫁になれ」

と言った。

チルー小は

「どうにかしてくれたら嫁になってやる」

と言った。

それを聞いたシキタリ様はニコニコ笑い

「ヨシ、約束だぞ」

そう言うと消えてしまった。


その日の夜、チルー小の顔に小さなヘーガサーができた。

そのヘーガサーはどんどん大きくなり、1週間後顔の半分を覆う程大きくなった。

約束通りチルー小の家に来たお侍さんはチルー小の顔を見ると

「こんな女は嫁にもらわん」

と言って帰って行った。

さて困ってしまったのはチルー小だ。

首里には行かなくてよくなったが、こんな顔では外も歩けない。

チルー小は顔を治してもらいに山の上に行くことにした。


山の上に着くとシキタリ様が前の所に座っていた。

「ヨシ、約束通り俺の嫁になれ」

と言った。

顔を治してくれと言ってもシキタリ様は

「ヨシ、治したらお前は他の男の嫁になるだろう」

と言って治してくれないので、チルー小は泣きながら山を降りた。


チルー小は家に閉じこもり、毎日泣いて過ごしていた。

そんなある日、チルー小の家にお坊さんが来た。

お坊さんはチルー小を聞くと

「自分がどうにかしましょう」

と山の上に向かって行った。

チルー小はしばらく家で待っていたのですがお坊さんが心配になり、自分も山の上に行く事にした。


チルー小が山の上に着くと、シキタリ様が座っていた所に大きな岩があった。

その大きな岩の前でお経を唱えていた。

チルー小に気づいたお坊さんは

「妖怪は岩の下に経典と一緒に閉じ込めたよ」

「こっちへおいでヘーガサーを治してあげようと言った」

チルー小が近づくとお坊さんは火打ち石で火を起こすと、草鞋に火をつけた。

火のついた草鞋でチルー小の顔をなでると、たちまち元の綺麗な顔に戻った。


顔が治ったチルー小はお坊さんと一緒に山を降り、大喜びで家に帰った。

家に着くとナビー小の親が

「シキタリ様はどうなりましたか?」

と聞いた。

すると、お坊さんは

「あれは妖怪だ」

「もうシキタリという名で呼んではいけないよ」

と言って、その妖怪に「チョンチョンビラ※2」と言う名前をつけた。

「また悪さをするようならこの名前を3度唱えなさい」

と教えてくれた。


それからその村ではヘーガサーがてきたら

「チョンチョンビラ」と3度言い、火をつけた草鞋でなでる風習が生まれた。

この村の名前は山の上の岩にちなんで(大岩)(※3)と言われる様になったそうだ。



(子どもに伝えたい沖縄県のシキタリ民話)

から抜粋

※1 挿絵では手足の長い猿の姿が描かれている

※2 本来の名称と変更、理由は考察に示す 

※3 本来の名称と変更、理由は考察に示す

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