チミ

久高さんが同じ会社の従業員の母の葬式に出た夜の事だった。

葬式といっても久高さんにとっては面識も無く、焼香をしてすぐ出て来たので故人の顔もろくに覚えていない。


葬儀から自宅に帰った久高さんはソファに腰掛けた。

(今日は月末の金曜日か)

そう気づいた久高さんは爪切りを取り出すと、爪を切り始めた。

久高さんは月末の金曜日に爪を切る事をルーティンを決めていて、爪が長くても短くても切る事にしていた。

一人暮らしでズボラだった久高さんは玄関で爪を切り落とし、そのまま爪を放置したままソファでスマホをいじり始めた。

しばらくすると久高さんはそのまま眠ってしまった。


久高さんが奇妙な音で夜中目を覚ますと、玄関の所に何かいた。

(ボリボリ)

と音がする。

その何かは玄関に落ちている物を拾って食べている様だった。

その何かを見つめていると、その何かが顔を上げ久高さんの方を見た。

見た事も無い中年の女性だった。

その女性はニコニコ笑いながら何かを食べていた。

女性が食べていたのは久高さんの爪だった。

その女性の笑顔を見ていると何故か心が安らぎ、眠気が襲って来た。

(あれはヤナムンだ)

頭ではそう思っても、その女性の笑顔に母性の様な安らぎを感じた。

久高さんは気づくとソファで朝を迎えていた。


「夜に爪を切手はいけない、親の死目に会えなくなる」

「親にそう言われたのを思い出しました」

自分の両手の爪を見ながら久高さんはそう言った。

久高さんはあの日以来、夜に爪を切るのを辞めたらしい。

「あれが何だったのか葬式からヤナムンを連れて来たのかは分からないですけど」

「自分がシキタリを守らなかったので仕方ないです」

「でも親の死目に会えなくなるってどういう意味なんでしょうね」

久高さんの両親は今でも健在だ。

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