ヘーガサー

似たような話をもう一つ。

大嶺さんが小学生の頃だった。

誰にでも経験があるのと思うのだが、小学生の下校時みんながそれぞれの近道を探していた。

大嶺さんの近道は小学生が身体を横にしてやっと通れる家の塀に挟まれた道だった。


そんなある日、大嶺さんがいつものように近道を使っていると家の方が騒がしい。

塀の高さは小学生の身長では家の方を覗けないほど高かったが、どうやら人がたくさんいる様子だった。

大嶺さんがその道を通り抜けると視線を感じた。

振り向くと自分がさっき通ってきた道に身体のふくよかな男性身体を横向きに塀に挟まるように立っていた。

男性はニコニコ笑いながら大嶺さんの膝を指差していた。

膝を見ると学校で昼休みにサッカーをして転んだ時の傷が開いたのか、新しい血が流れていた。

(なんであの人はあんな所にいるんだろう)

大嶺さんは得体の知れない恐怖を感じて、自宅に向かってかけだした。


家に着くと、膝の血は止まっていたのだが傷の周りに湿疹が出ていた。

あまりの痒さに傷の上からも構わず爪で湿疹をかいていると

「あんた何をしてるの!?」

と大声がした。

横を見ると母が立っていた。

「ぶつぶつが痒い、痒い、痒いよう」

大嶺さんがかきむしりながら言うと

「何言ってるの!そんな血も出して!」

母にそう言われた大嶺さんが膝を見ると湿疹はどこにもなく、かきむしった爪の傷と開いた傷から血が流れているだけだった。

母は不思議そうに膝を見つめている大嶺さんに聞いた

「あんた葬式にでも行ったの?」

大嶺さんが首を降ると

「一応シキタリだからと」

と言うと母はどこかに行った。

母が戻ってくると、ゴム製の草履とライターを持ってきた。

母は草履をライターで少し炙ると、大嶺さんの膝を軽く叩いた。

「怪我した時は葬式に行ったらダメだよ」

「シキタリだからね」

付け加える様にそう言った。


「もしかしたらあの時塀の向こうでは葬式をしていたのかもしれませんね」

「でも怪我をしている時って新しい怪我なのか、治りかけでも怪我なのか曖昧ですよね」

「去年母がなくなったのでもう分からないですね」

そう答えた大嶺さんは今では立派な2人の子を待つ父親である。

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