第3話

「もっと強くあってくれよ」

 まさかのあっさりとした結末にそんな弱いのコイツとガッカリしていると、燃え広がる何かが塊へ到達しとうとしていて。

「ぁああああああ!!やばいやばい!!」

 全力で駆け出しながら手刀で斬撃を飛ばし、簀巻きになっている3名を巣から救出する。

「なんだよこれ!誰なんだよお前!」

 持っている剣を杖替わりにしながら生まれたての小鹿のように立ち上がるそいつは救ってやったのに悪意を向けてきている気がする。

 恩知らずはほっておいて俺は3名を救出する。

 素手で蜘蛛の糸をはがしていくと最初に出てきたのが西園寺だった。

「ん…え?ホノカくん?」

 顔や身体のあちこちに傷があるが大怪我と呼べるようなものはなく、エロく見える服の破け方をしてるのは蜘蛛のフェチだったのだろうか。

「掴んで」

 手を差し伸ばし中から引っ張り出そうと考えたが。

「毒らしきもので身体が麻痺して…て?」

 ならばと俺は繭の糸を足と膝で押さえながら彼女の上に膝立ちをして、まずは両腕を繭から出して俺の肩にかけこちらの腕を西園寺の背中まで回してゆっくりと引っ張る。

 上半身が外に出たところで、肩に担ぐようにしながら足も繭から出す。

「ひゃっ」

「どうした?」

「む、肩に担がれるとは思ってなかったもので…」

「次はお姫様抱っこするから待ってな」

 言いながら彼女をゆっくりと地べたに寝かす。

「えっとそういう意味じゃなかったんですけど」

 じゃあどういう意味だったんだろうと考えながら他も救出する。

 1人目は短髪で明るい髪色をした男で。

「っぷはっ!ありがとう!…知らない人!」

 西園寺の横に並べる。

「西園寺さんも彼に助けてもらったんですね!」

「はい、えぇ」

 ハキハキと元気よく喋り、体が動かないのに顔だけで煩い奴だ。

 悪い奴ではないんだろうけど。

 2人目は。

「倉橋大丈夫か!」

「ありがとうレオ、あの蜘蛛は…倒したのね!」

「あ、いや…」

 盛大な勘違いをしたツインテールの女の子の言葉にたじろぐイケメン日野。

 

 あちらは楽しそうにしているし放置しておくとして。

「で?これってどういう状況なの?」

「どうって?」「どうとは?」

 2人には自分がここに来た理由を話した、自分の生活圏内(ナワバリ)で怪しい雰囲気を感じたから処理しに来たら西園寺達が居たんだと。

「え?」

「てことは君は学校や魔術教会とはまったく無関係でここに来たのかい?」

「そのどちらも知らないな」

「そうか、あとこんな状況ですまないが自己紹介だ僕は相葉俊あいばしゅんよろしく!」

「黒木仄だ」

「黒木?ってことは君は黒木飛鳥さんの家族かい?」

「そうだが俺の義母ははは有名なのか?」

「有名?そんなんじゃないよ、知らない人が居ないくらい超有名だ」

「待ってください!、え?でも…だってホノカ君は…」

 西園寺早苗は戸惑いから会話を遮ったが驚いた顔からすぐに何か納得がいったような目になりこちらを見る。

 その瞳に俺はどう返せばいいのか分からなく。

大滝たいろうは道を描き不浄を劫火で清め大地に祝福を、四聖結界」

 対象の地点から四方を青龍、白虎、朱雀、玄武を据えその力で結界を張る魔術。

 これで4人がまともに動けなくても何者かに襲われる心配はない、結界には内から外に出る分には条件を付けていないので入りは難しいが出るのはフリーパスにしてある。

「それじゃ」

「ホノカ君!待ってください!」

 西園寺の言葉も無視してゆっくり帰る。

 真面目に学校に通うためにも今日はさっさと寝て明日に疲れを持ち越したくない、疲れるようなことは無かったかもしれないけども。

 

 

 

 朝。

 町の喧騒、座れない電車、なにやら揉めている教師と生徒。

 それらを流し見しながら自分は秋桜しゅうおう高校3Bの教室の席にたどり着く。

 朝のこの学校中の皆が好き勝手動いている時間が好きだ、遅刻ギリギリで間に合うかどうか賭けて駆けているやつを見るのも面白い、どこかで楽器の練習をしている音を聞くのも和む、教室内で誰かどうしが駄弁っている空気も居心地が良い。

 これらすべてを台無しにしてしまいたいくらい好きだな。

「おはよう黒木」

「はよう」

 声をかけてきたのは1番窓側の列後ろから2番目という好立地な俺の席の隣席である、空橋亜美。

 青っぽい髪色に長めのウルフカットが似合う女の子、身長は平均くらい学力も平均くらい運動神経も平均くらいだが胸だけ平均以下な女の子。

「何見てんの?」

 ずっと外を見ているがこれといって何も見てない。

「雲」

「ふ~ん」

 なんの生産性の無い会話もこの時間ならではな気がする。

「黒木って休みの日ってなにしてんの?昨日とか」

 なんか珍しくいろいろ聞いてくるな、こんなに話する奴だったかな。

「ん~山登りかな」

 標高めっちゃ低いけど。

「山登り?1人で?」

「いや他校の友達と5人でかな」

 昨日の蜘蛛退治のことを山登りとして伝える。

「男だけ?」

「普通に女子もいたよ」

「え…その女の子ってさ」

「全員席付けーそろそろチャイムが」

 キーンコーン。

「鳴ったぞー」

 担任が席につくようにいいながら教室に入ってくるとジャストタイミングで鐘がなる。

 1限目が始まり黒板に書かれていることをノートに写す。

 教師が書いたことをノートに写すだけでは勉強の意味が無い事は理解しているがテストで点を取るには十分である。

 魔術の研究以外に覚えることも学ぶ気もない。

 たとえそれが数学であろうと、公式を暗記し解き方を覚えていればあとは数字を当てはめていくだけなのだから。

 

 そうして意味のない時間が過ぎた後、空橋に山登りのメンツをまた聞かれたが1人を除いてあとは全員初対面だと説明したら興味が失せたようだ。

 

 昼休みには購買に行ってコロッケパンを買い中庭で食べる。

 自販機とゴミ箱があるのでここが便利だ。

 恥ずかしげもなくカップルで手作りの弁当を食べてる奴がいたり、友人と食べている連中がいる中で俺はただ突っ立ってパンを食べ、ジュースを買い、食事を終えるとすぐに移動する。

 うちの学校は珍しく屋上が開放されているのでそこに向かう、をこは3mはあるフェンスに囲われたスペースでここにもカップルや友人で食事を取ってる人であふれている。

 だがここにはゴミ箱が無いので俺は食べ終わってからここにくる。

 心地よい風にあたりながらスマホで研究中の術式のメモを確認しながら帰ってからなにを試そうか考える。

 

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