第4話

 結局いい案は浮かばないまま学校が終わる。

 部活もやってないので真っすぐ帰ったが。

「黒木仄さんですね」

 揃った黒髪、ピッシリとしたスーツが女性らしさのボディラインをクッキリと表し、短めのスカートからは綺麗なタイツが伸びている、それと残念ながらサングラスをしているため目が見えない。

 学校の校門前に止められた黒塗りのセダン。

「どちらさまで?」

 これに乗っていったら怪しい組織の一員かなんかだと勘違いされそうだ。

「私は貴方を保護するために教会から派遣されました、ですので大人しく車に乗ってください」

 教会?

 前に魔術教会って魔術師をまとめている組織があるって聞いたことがあるけどそのことだろうか。

 少し考えたがなにも判断材料が無かったし、自分ならあるていどの問題なら対処できる自信があったので。

「いいですよ」

 二つ返事で車に乗り込むと声をかけてきた女性が隣に座る。

 運転席と助手席のも男性が乗っていて豪華なお出迎えだなと思う。

「従ってくれてありがとう、私はハンナ・ヒュプラーよろしくね黒木君」

「はい、・・・で俺はどこに連れてかれるんですか?」

 静かに動き出した車。

「近くに魔術教会が運営する学校があるのでそこでいくつかお話があります」

 へ~と思いながら外を眺めていると30分かからないくらいで見たことのある制服を着た男女が知らない学校の前で駄弁っているのが見えた。

 その横を通り校門とは別の出入り口から敷地内に入る。

 車を降りて案内されるがまま来賓用の入り口から入り目の前にあるなにかの術式が描かれた扉を通ると空気が変わる。

 外から見た構造ではありえない廊下が目の前に現れそれを進む、学校の校舎を丸々通り過ぎたくらいで現れた扉に入ると偉そうに座り心地の良さそうな椅子に座った人物が睨みつけてくる。

「ようこそ黒木君、私は冴島、ここの学園長をしている者だ、君がここに呼ばれたのは聞いていると思うが教会で君の身柄を保護するためだ」

 短い白髪と四角い眼鏡をかけた優男風の男性は敵意があるような無いような微妙な視線をこちらに向けながら話は続く。

「そのために君には今月からうちに転入してほしい」

「嫌ですね」

「・・・なんだって?」

「高3で転校するってことですよね、普通に嫌でしょ」

「魔術は好きじゃないのかな?」

「好きどころか大好きですよ」

「魔術を学ぶ気はないのかな?」

「学ぶというか研究はしたいですけど」

 こちらの言葉を聞くたびに眉間に皺がより、笑顔だが視線はより鋭くなっていく。

「もしここで学んだ結果がこの前の蜘蛛なら必要ないでしょここでの学びは」

 と強気に出る。

 その一言に驚いたような怒ったような感情を一瞬見せた冴島は。

「なるほど、じゃあ君の身を拘束させて貰おう」

「急ですね?」

「許可のない術師の魔術行使はこちらでは犯罪なんだよ?」

 なるほどね。

 そっちのほうが分かりやすいじゃん。

 少しばかり考えるそぶりを見せながら俺はここから出る方法を考える。

 この空間の術式とにらめっこするが、逃げ道は解らない。

 だが変な気配を空間の外に感じる。

「そうですか、じゃあ勝手に帰ることにします」

 回れ右して道を戻ろうとするがハンナさんが目の前に立ちふさがる。

「どいてくれません?」

 外の存在が少しずつ強くなる。

「できないわ、拘束となれば私は君を捕まえるし冴島も貴方を逃がさないわよ」

「・・・あぁなるほど」

 やっとこの空間がどんなものか解ってきた。

「「?」」

「この空間は俺だけをこの空間内に入れて他はすべて排除する効果がありますよね?」

「よくわかったね?」

「俺は俺を解ってるので」

「自分を理解するのはいいことだけど、それが何か何か関係あるか・・・なんだこれは」

 気づいた時には遅く俺達の足元は黒い影で覆いつくされていた。

 飢えた獣による術式の浸食、魔術を解析しなくとも、理解できていなくともコイツはあらゆる法則を喰らってやってくる。

 俺を見つけると影は俺の影と同化しそこに収まる。

 

 頭の中で2人の動きを2分間禁止すると唱える。

「では」

 歩き始める俺の前にまた立ちはだかろうとしたハンナは動かない体に驚き、その間に自信の体も動かないことに気づいた冴島が拘束術式を使おうとするが何も起きない。

 術式の浸食、空間の把握、この空間を喰らったためここは俺の胃の中である。

 であればその中にいる人物の行動を制限するくらいは簡単だ。

 来た道を戻り扉を抜ける。

 普通の空気感になった校舎から外に出たところで声をかけられる。

「ホノカくん!」

 俺をそう呼ぶのは1人だけだった。

「西園寺このまえぶりだね」

 この前会った時(蜘蛛にグルグル巻きにされていた)よりも元気に見える。

「助けてくれてありがとう」

「ん?」

「この前は言いそびれちゃいましたからね」

 えへへと笑う顔に『惚れてまうやろー』と叫びたくなるくらいには可愛い。

 自分が童貞のコミュ障ボッチなら惚れていたところだ、・・・あれ?じゃあ惚れてもいいのか。

「それでですね」

「黒木仄!」

 後ろの扉から出てきた2人に肩を掴まれる。

「もう少しこちらの話を聞いてくれ・・・西園寺早苗か、彼と知り合いか?」

「こんにちは学園長、はい黒木君とは小学校が一緒だったので」

「そうか丁度いい、彼と一緒に来てくれ」

 何か言いかけたぽかった西園寺の言葉を聞けないまま、さっきとは違う場所の学園長室に案内された。

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