斬神


通常に市販されている『緋緋刃金ひひはがね』は、その構造上、闘火を刀身に流し込む事は出来る。

だが、斬神を宿す事は出来ない。

ならば、この男は何故、斬神の名を口にしたのか。

ただの虚勢、ハッタリであるのか。

否。

男の肉体から流れる膨大な闘火の熱量が、緋緋刃金へと流れ込む。

刀身は熱を帯び、力を放とうとしていた。

その昂りの余波こそが、斬神の構築を行っていると、使用者自ら理解に至る。


「(炎命炉刃金を、何故…ッ、いや)」


第二次世界大戦終戦後、そして祅霊を討伐する機関、『皇國主おおくにぬし』の設立。

其処から五十年の歴史の中、組織が襲撃に遭った事が何度かある。

賊は約三百以上の『炎命炉刃金』を掠奪し、裏市場で売買された。

その価値は、裏市場のレート史上でも上位に位置し続ける極上の品物であった。

斬神が発現された炎命炉刃金であれば一千万を超える値段。

新品であるのならば億を超える。

稀に試刀院に入門し、刀を売買する輩も居る為に、定期的に新品が賊の手に渡る事も多々あった。


「(こいつが…売人じゃない、転がっている方が売人なんだろう、だったらこいつらは…いや)」


奈流芳一以は、この男が何らかの方法で斬人の魂である『炎命炉刃金』を入手したのだと察した。

そして、人を殺したにしては冷静過ぎる姿から、中々の手練れであり、炎命炉刃金を簡単に操れる程に技量があるのだと悟る。


「(そんな事を考える暇は無い…武力制圧を執行、だッ)」


既に敵と認識。

対象を討伐するべく、奈流芳一以は叫ぶ。


「斬神ッ!!」


闘火を烈しく刀身へ流し込んだが故に、余りあって肉体から熱が漏れ出した。

周囲を歪ます陽炎の如く、そして相手も同様に、半透明な炎の熱を周囲へ散らしていた。

熱と熱の狭間。

間を潰す様に接近する二人。

そして、熱と熱が擦れ、混ざり、融け合った時。


襲玄しゅうげんッ!!」

叫哭きょうこく!!」


互いの斬神が姿を現した。


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