路地裏

石動京繁華街。

尤も人々が賑わう場所。

人込みも多いので、スリが常習的に行っている。

当然ながら、賑わう場所があれば静かな場所もある。

裏路地を歩けば、同系列の店舗同士の競争に敗北し、閉店となった店舗があれば、建設途中で工事中止になり、鉄骨が剥き出しになったままの建物もある。

そういう人を寄せ付けない場所に、悪は多く蔓延っていた。


「気配がします」


白檮山雪月花は感覚を鋭敏にさせて言った。


「そうか、さっき言った様に、今回はお前が主導するんだ、いいな?」


奈流芳一以の言葉に分かったと言いたげに彼女は首を縦に振った。

斃す事は簡単だが、確保するのは難しい事だと、彼女は思っている。

人を斬った事は、数年振りの事だが、しかし剣筋が鈍る事は無いだろうと、彼女はそう思っていた。


「…?」


ふと。

白檮山雪月花は首を傾げた。

何か、変な空気を感じていた。


「奈流芳師」


奈流芳一以の名を口にする。

路地裏を突き進んでいくと、少し広い場が見える。

其処は工事途中で作業中止となったビルだった。

何か物音が聞こえたので、奈流芳一以は物陰からそれを見た。


血が流れていた。

地面に覆う大量の血液。

その赤色の水溜まりで泳いでいるのは、腹を抑えながら悶えているニット帽を被った男性。

そして、その周囲には、二人の男が居た。


「(売人?刀を売ってる最中に、襲われた?)」


何にせよ、怪我人が出ている。

そして刀を所持して被害を出した。

その時点で、討伐対象として断定して良い。

故に、奈流芳一以は前に出る。

姿を現すと同時に、炎命炉刃金に手を添えた。


それを見兼ねた男の一人が、初めて面白そうに笑った。

奈流芳一以を見ながら、刀に闘火を流し込んだかと思えば。



奈流芳一以の脳裏に過る忌避感。

何故、一般人がその名を口にする事が出来るのか。

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