売人
「して、今回の仕事は?」
白檮山雪月花の言葉に、奈流芳一以は考える。
「うーん…そうだな」
今回、完全に彼女には補助に徹して貰う気だった。
だが、戦闘の経験が欲しいと言うのならば、役割も考え直さなければならない。
なので、奈流芳一以は彼女に一つ質問を行った。
「白檮山、人を斬った事はあるか?」
奈流芳一以は彼女の目を見て言う。
彼の言葉に、白檮山雪月花は狼狽する様子も無く。
彼の視線を受け、その瞳に自分の姿を映しながら言う。
「勿論です」
その言葉を聞いて、彼女の表情を見て。
奈流芳一以は安堵の息を吐く。
斬人は、祅霊の討伐だけが仕事では無い。
時に、人を斬らなければならない事態も発生する。
「今回の仕事は、売人を捕らえる事だ」
裏市場と呼ばれる違法売買。
阿片や殺人依頼などあるが。
その中でも取り締まっているのが、刀だ。
基本的に、刀は市販で売られている。
その刀は、幾ら祅霊を斬っても斬神が宿らない、量産品だ。
あくまでも護衛用であり、斬術戦法を扱う為に必要な力だ。
しかし過去に斬人しか帯刀を許されない『炎命炉刃金』が流出した。
数ある事件の内の一つを挙げれば、内部犯行だろう。
犯人は、武御雷に努めるベテランの斬人だった。
裏組織に加入する為、百振りの炎命炉刃金を手土産に脱退。
以降、その斬人は妖刀師として登録され、それ以降は存在を確認出来なくなった。
なので、裏市場には炎命炉刃金が出回っている。
しかし、奈流芳一以は、危険視はしなかった。
当然ながら炎命炉刃金の製造工程は皇國主が保護する『緋弥呼』のみ。
斬神は特殊な術によって生み出されるものであり、市販品では出す事は出来ないし、素人が多少齧った所で、炎命炉刃金と同等の作品は造れない。
なので、売人の持つ炎命炉刃金は偽物だと報告書に記載されていた。
「じゃあ、行こうか」
今回は垂れ込みがあった。
刀の売買をする売人が現れる、と聞いている。
「流石に情報を聞く為に、殺傷はしない様にと言われているから、何とか穏便に済ませば良いなとは思ってる」
尤も、タレコミで教えられる程度の売人だ。
大した情報など持っていないだろうと、奈流芳一以は思っていた。
だからと言って、無暗矢鱈に命を奪う真似は出来ない。
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