後輩
それでも、奈流芳一以は斬人としての仕事をしなければならない。
後継の育成は、奈流芳一以にとっては重要な仕事だった。
近年では、斬人の育ちが悪い。
祅霊退治の討伐率が年々に上昇しているのは、斬人が多く誕生し、祅霊を討伐しているワケではなく、祅霊が多く誕生し、数少ない斬人が一日数件以上の仕事に就いているからである。
だから、早々に後継を作らなければ、この仕事は何時か破綻してしまう。
その為に、十年以上のベテランは複数の試刀生を連れて仕事を行う。
新人である白檮山雪月花を成長させる事が、奈流芳一以の仕事であった。
「…」
そんな大層な使命を抱く奈流芳一以だが。
今では彼女との仕事は少し気後れに思っていた。
「(他の女と逢うなとは言うけど)」
宝蔵院珠瑜の事を考えると、白檮山雪月花を、他の担当に変えて欲しいと思うが、一個人の個人的理由で担当を変える事など出来ない。
「(それでも、仕事として行動を共にしないとな…)」
なので、奈流芳一以は仕方ないと思いながら彼女を連れて仕事を行う。
「白檮山、行くぞ」
奈流芳一以は彼女に言う。
当然、喋り掛けて来る事は無いと思っていた。
「…はい」
だから、彼女が頷いて喋ってくれた事に、一瞬だけ、途惑ってしまう。
「…」
彼女の言葉をスルーしそうになって、足を止める。
「(…?)」
そして、奈流芳一以は後ろの方を見る。
彼女の顔を見ながら、間違いでは無いかと思いながら彼女に再び声を掛けた。
「白檮山?」
名前を口にする。
すると、きょとん、とした彼女は首を傾げながら答える。
「…? はい」
始めて、会話が成立した。
いや、これが会話であるかどうかは別であるが。
それでも、奈流芳一以は、少なからず感動を覚えた。
「(…始めて、会話をしてくれたな)」
ようやく、先輩として認められたのだと、そう思った。
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