噛みあと

そして。

奈流芳一以は彼女と寝た。

烈しい運動を兼ねて、仕事による祅霊退治よりも疲弊する。

ようやく、精魂果て、精力も搾り取られた後に、宝蔵院珠瑜の暴走が止まった。


「…いてて」


気絶する様に眠っていた奈流芳一以は、全身の気怠さと、痛みによって目覚める。

隣で、寝息を立てる彼女の顔を見て、奈流芳一以は彼女の髪に触れていた。


「(今日の、珠瑜は…)」


発情している様子は無かった。

それでも、乱れ狂う程に、愛し合った。

それは、何時もとは違う、接し方に思えた。


「(とても激しかった、と言うか)」


これは、彼女の意思で抱いて欲しいと思ったのだろうか。

何故、その様な真似をしたのか。


「(何か、恐れている…のか?)」


奈流芳一以には分からない。

彼女との関係はあくまでも肉体だけだ。

其処に愛があるのかは別の問題だろう。

そもそも、己が、誰かを愛せる筈が無い。

愛せる資格がないのだ。

だから、彼女の感情には、常に気が付かないふりをしていた。


だが、彼女は違うのだろう。

ここまで、他の女性と共にして乱れる事は無かった。

心境の変化があった、と思うべきなのだろう。


「あーあ…体中、傷だらけだ」


奈流芳一以は、胸元は腕、首に触れる。

彼女に引っかき傷や、噛まれた痕が残っていた。

暫く、外に出るのは控えたい程に、痴情の痕が残っている。


「ん…ふぅ…」


そんな事を知ってか知らずか、可愛らしい寝顔と吐息をたてる宝蔵院珠瑜。

ここだけ見れば、凶暴な側面など見られない美少女だろう。


「お前は、俺しかいない、か」


奈流芳一以は、そんな彼女を見ながら、彼女の頬に触れる。


「…俺だって、そうだよ」


祅霊との事件で生き残った片割れ。

彼女が生きているから、奈流芳一以も生きる事が出来る。


「お前が居てくれる事で…」


だから、彼女を喪う事なんて考えられない。

もしも、彼女に何らかの目に遭ったとすれば。


「俺は…生きているんだ」


奈流芳一以は、自ら命を落とすだろう。

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