第4話   襲われそうになってます!




「さて、と······」




大室さんを見送った後、溜め息混じりで部屋に残る俺以外のもう一人の人物に目を向ける。

俺の隣に立つスーツ姿の女性、矢伏未海さん。

彼女には、色々と聞かなくてはならないことがある。桧




「えっと······矢伏さん、ちょっと聞きたいことが······」

「未海」

「······はい?」

「未海って呼んで。それ以外の呼び方は認めないわ」




なんという自分勝手な暴論。

いきなり呼び捨ては、ちょっとハードルが高い。

なにしろ、俺は生まれてこのかた異性とあまり仲良くなったことがない。

そう、いわゆる童貞君だ。

だから、さっきの彼女の行為が俺にとってはあまりにも刺激が強すぎたのだ。

というか、何故あんなことをしたのかを追及しなくてはならない。

しかし、呼び捨てはさすがに恥ずかしいな。




「えーっと······み、未海さん?」

「未海」

「未海ちゃん?」

「未海」

「未海様?」

「未海」

「未海殿?」

「未海」

「未海たん?」

「未海」




くっ、全然折れるどころか全くめげない。

というか、段々と無表情になっていくの止めてほしい。

心なしか、目のハイライトが消えているように見える気がする。

声色も、ちょっと怖い。

仕方ない、話が進まないから観念しよう。




「未海、ちょっと聞きたいことがあるんですけど······」

「敬語も止めてちょうだい。私、あまり敬語で話されるの好きじゃないの」




なんというわがまま!

まあ、これくらいは普通なのかもしれないが······。




「未海、聞きたいことがある」

「あら、何かしら?」

「なんで、あんなことを?」

「あんなこと?何のこと?ちゃんと言ってくれないと分からないわよ?」




ここに来て、まさかの羞恥プレイだとぅ!?

もしかしなくても、この人はSなのか?あ、ニヤニヤしてるから確定っぽい。

痴女でSとか何の冗談だ?本当にありがとうございます!




「だ、だから······その、さっき、俺の手を触ったり、その他にも······」




俺は変態ではないので、自ら下品なことは話せない。

だから、言葉を選ぶ必要がある。

間違ってもアソコなんて言った日には、セクハラ男として周知されてしまうかもしれない。

そんな不名誉、絶対に嫌だ。




「あぁ、あなたのおち○んちんを触ったこと?」

「ジーザス!!」




天を仰ぎながら叫んでしまう。

せっかくの配慮が無駄になってしまった。

なに、この人?恥ずかしげもなく淡々と卑猥なことを話しているんですが、本当に痴女なんですか!?

それとも、大人な女性は皆こんなもんなの?

大人って、怖いね!




「なあに?もしかして、あれくらいで気持ち良くなっちゃったの?ふふっ、可愛い」




クスクス笑いながら余裕ぶる未海。

だが、ここで負ける訳にはいかない。

痴女に主導権を渡したら、今後逆らえる気がしないからだ。




「べ、別に······あ、あれくらい余裕だし?」

「キョドってるわよ?」

「さ、触られたくらいで······こ、興奮なんか······」

「あら、そう?なら、もっと気持ち良いことしてあげようか?例えば······口でとか」

「すいません、もう勘弁してください」




さすがに思春期の男の子に、そんな爆弾発言は効果抜群だ!

ドキドキし過ぎて、もはや心配停止にすらなってしまう勢いである。




「ふふっ、本当に可愛い。食べちゃいたいくらいだわ」




舌なめずりしながら、獰猛な獣のような視線を俺に送る未海。

やだ、ぼくは美味しくないよ?がたがたぶるぶる。

俺氏、痴女に食べられてしまうの巻。




「冗談よ、今はね」

「今は!?」

「それより、さっきの質問に答えてあげる。あなたのことが好きだからよ」

「······why?」




あまりに突拍子もない言葉に、俺は理解出来ず外国人になってしまった。




「Because I fell in love at first sight」

「なんて?」




俺が外国人になったせいなのか、未海は流暢な英語を返してきた。

しかし俺は生粋の日本人。英語は、YESとwhyしか言えないのだ。いや、それはさすがにないけど。




「一目惚れしたからよ」

「ひとめぼれ?米?」

「宮城県産の品種ね。最近では、岩手県産もあるみたいだわ。艶があって、粘りがあるけどさっぱりした口当たりみたい。さすが特Aの最高ランクを誇るお米ね。今度買ってみようかしら」




ボケたのに、凄いうんちくを聞かされてしまった。

しかし、岩手県産もあるのか。宮城県のは知っているが、さすがにそれは知らなかった。

いやあ、無知って怖い。いや、そうじゃなく!




「すみません、ちょっとボケたんです」

「大丈夫よ、私もボケただけから」



分かりづらいわ!というか、あれってボケなの!?

凄い真面目な顔をしていた気がするが······。




「あなたに一目惚れしたのよ、市原優真君」

「な、なんで······?」




言っておくが、俺は一目惚れされるほど超絶イケメンではない。

限りなく普通寄りであり、どこにでもいるような顔立ちだ。

だから、こんな美女(痴女)に好かれる理由も道理も無いと思う。

初めて好きと言われて動揺した俺に、未海は「ふふっ」と笑った。




「なんでって、一目惚れに理由は無いわよ。好きになっちゃったんだから仕方ないじゃない」

「そうか、仕方ないのか」

「ええ、仕方ないの」




言われてみれば確かにと思い、つい納得してしまう俺。

いやいやいや、簡単に納得するなよ。




「でも、いくら好きだからって簡単に人の手とか······その······」

「お○んちん?」

「オブラートに包んで!?」




この人に羞恥心とか無いのだろうか?

いや、あったらいきなり触ろうとはしないか。

痴女、恐るべし!




「と、とにかく!触るなんて、貞操観念が低すぎじゃありません?」

「そう?女の子だって、好きな人の身体には触りたいって思うものよ?それが自然じゃない?」

「んん?あれれ?俺がおかしいの?」




俺の考えが古いのだろうか?

なんだか未海の言うことがもっともなような気がする。

彼女の言うことに、反論する言葉が見付からない。

うんうん唸る俺に、未海は再びニヤニヤした表情で追い討ちをかけてきた。




「でも、正直気持ち良かったでしょう?」

「そ、それはまあ······初めての経験だし······って、なに言わせてるんだよ!?」

「私とエッチなことしたい?」

「ぶはっ!?」

「ちなみに、私はしたいわ。今すぐにでも」

「童貞にはキツい会話です!」

「大丈夫よ、私も処女だから」

「何が大丈夫なの!?」




ダメだ、完全に主導権を握られている。

だが、俺は硬派な男である。簡単に雰囲気に流されないのだ。えっへん。




「おっぱい触る?」

「わーい」

「あんっ、あなたもやる気じゃない」

「ハッ······!?」




しまった、完全に雰囲気に流された。

だって、美女から「おっぱい触る?」なんて言われたら、断れないだろ!?

彼女いない歴イコール童貞からしたら!

俺、悪くない!




「ふふっ、嬉しいわ。じゃあ、早速ベッドに行きましょうか?」

「why!?」

「I want to make love with you」




またも外国人になってしまったせいか、未海は再び流暢な英語で返してきた。

だが、英語が出来ない俺にもこの流れからして意味はなんとなく分かる。




「ちょっ、待って!付き合ってもないのに······!」

「意外に硬いのね?でも、とりあえずセックスしてから考えてみるのもありじゃない?今の時代、それも普通のことよ?」

「処女が何か言ってる!いや、痴女か!」

「こら、女の子に痴女なんて言っちゃダメよ?」

「女の子なら、もうちょっと節度と上品さを持ってくれません!?」

「大丈夫よ。私はMだから最初が痛くても全然平気だし、むしろウェルカムよ」

「俺が大丈夫じゃなーい!!」




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