第3話 あなたは痴女ですか!?
雄星学園。
俺が住む市に存在する私立校で、スポーツ全般に関して言えば県大会には必ずその名を残す強豪校。
そんな学園に通うという俺のそっくりさん、立原優理という男は病欠でしばらく休んでいるという。
そんな彼が事情があるとのことで学校に復学しなくてはならないが、手術を控えているためそれは困難。
とのことで、そっくりな俺が影武者としてその学園に通うことを契約したその翌日。
俺は、大室さんにある場所へ案内されていた。
「ここがあなたが今日から住む場所です」
目の前には、比較的建築年数が新しいであろう小綺麗なアパート。
大室さんが手配したのは分かるが、いきなり過ぎてびっくりである。
だってアパートを契約するにもまず審査が必要で、敷金礼金のみならず電気ガス水道も契約しなくてはならない。
それだけじゃない、家具家電も揃えなくてはならない。
だが、それをたった一日で済ませるなんていくらなんでも非現実的過ぎる。
まあ、俺が影武者生活をする時点でもう非現実的なのだが······。
「あの、どうやってこんな短時間に······?」
「あら、そのくらいは容易いことよ?」
あっけらかんと答える大室さんだが、今一つ納得がいかない。
もしかして、大室さんは理事長だけではない何かもっと大きな権力があるのだろうか?
今更だが、本当に契約してよかったのかと不安な気持ちが押し寄せてきた。
「さて、立ち話もなんだから中で話しましょうか」
そう言って大室さんは俺を連れ、部屋に入って真ん中にあるダイニングチェアに腰をかけた。
そのテーブルを挟んで、向かい側の椅子に俺は座る。
「まず、あなたが雄星学園に通うのは一週間後。その間に必要な知識をあなたに教えます。あなたは、雄星学園のことを何も知らないのだから」
「まあ、それはそうですね」
「それと、優理の性格や口調、仕草を似せるために矯正させてもらいます」
それは、なんだか面倒くさそうだ。
確かに顔がそっくりとはいえ、性格も口調も仕草も何もかも本人とは違うだろう。
そう考えれば矯正は仕方ないとは思うが、それを一週間の間でやるというにはちょっと面倒だ。
だが、契約した以上従わなければならないだろう。
何よりもお金のためだ、うん。
だが、問題はもちろんある。
「それはいいんですが、一週間で仕込めるものなんですか?大体、万が一バレたりしたらどうするんです?」
「あぁ、それも当然対策済みよ。······もうそろそろ来る頃合いなのだけれど」
そう言って、大室さんは腕時計に目を落とす。
うん······?もしかして誰か来るのか?
そう思っていると、部屋のインターフォンが鳴った。
それにすぐ反応した大室さんは、玄関先へ向かって扉を開けた。
「いらっしゃい、時間ぴったりね」
「それが契約ですので」
何やら会話を交わした後、大室さんの背後から一人のスーツ姿の女性が姿を現した。
ウェーブのかかった茶髪に猫の髪飾りをしており、切れ長の瞳をした美女。
その美女はこちらを一瞬だけ一瞥した後、靴を脱いで大室さんと椅子に座る。
「ん······?」
だが、俺はつい首を傾げてしまった。
何故なら、その美女はてっきり大室さんと並んで俺の目の前に座るのだと思ったのだが、何故か俺の隣に腰掛けたのだ。
驚いて隣を見るが、その美女はこちらに目もくれずにその切れ長の瞳を大室さんに向けていた。
何故隣に座るのかと問おうとしたところで、大室さんが先に口を開いた。
「さっきの優真君の質問に答えるわね?矯正役はこの人、『
「えぇ······?」
それってアリなのだろうか?
いや、確かに身の回りの世話とサポートをしてくれるのは非常に嬉しいのだが、この人は大人ではないのか?
そんな人が入学?雄星学園に?
困惑している俺に、『矢伏未海』と紹介された女性はようやくこちらに顔を向けた。
「こんにちは。紹介された通り、私があなたの世話をします。よろしくね」
「あ、はい······」
淡々と言葉を放った矢伏さんは、再び大室さんに視線を向けた。
と同時に、俺の手が温かい何かに触れた。
「ひぅっ······!?」
驚いて自分の手を見ると、なんと矢伏さんが俺の手を握っていたのだ。
なんで?どうして?
変な声を上げた俺に驚いたのか、大室さんは目を大きく見開いた。
「どうしたの?」
「あ、いえ······な、なんでもないです」
テーブルに隠れていたおかげか、大室さんには今の状況が理解出来なかっただろう。
だから、なんとか誤魔化せた。
だが、その間にもずっと矢伏さんが俺の手を握っていた。
だけじゃなく、矢伏さんの手は俺の手をすりすりと擦り触ったり、優しく恋人繋ぎのように絡めてきた。
「っ······」
大室さんにバレたら面倒なことになると思い、抵抗せずにそのまま出来るだけ表情を崩さずにいたが、その手がようやく離れたと思ったら違う場所に触れた。
「っ······!?」
身体がビクッと反応する。無理もない。
何故なら触れた場所というのが俺の下半身、つまり俺のアソコだからだ。
びっくりして矢伏さんに再び視線を向けるが、彼女は無表情で大室さんに目を向けている。
だが、その手はやらしい手つきでズボンの上から俺のアソコを触り続けていた。
「っ······、っ······」
何を考えているんだ、この女は!?
何が目的で、俺のを触っているんだ!?
考えがまとまらず困惑いっぱいの頭だが、この状況は非常にまずいだろう。
なんとか止めさせようと視線を向けるが、矢伏さんは変わらずだった。
仕方なく俺は自身の手で彼女の手を掴んだが、再び彼女は俺の手に指を絡めてきた。
アソコを触られるよりはまだマシだが、本当に何を考えているんだ?
危うく勃起してしまうところだったではないか。
「というわけで、契約内容は以上よ。何か分からなかったところはあるかしら?」
そんなこんなしている間に、いつの間にか大室さんは説明を終えていた。
しまった、まったく話を聞いてなかった。
だが、それは俺のせいではないだろう。
まず間違いなく、この女のせいだ。
恨みのこもった視線を向けるが、矢伏さんは変わらず無表情で「いえ、ありません」と答えていた。
「優真君はある?」
「っ······い、いえ、ないです」
正直疑問はいっぱいあるが、頭の中が真っ白で何も思い浮かばなかった。
というか、今の状況を大室さんに聞けるはずがない。
だって、なんて聞けるよ?
痴女が俺の手を握った挙げ句にアソコまで触ってきたんですが、どういうことですか?って?
いやいや、それこそ冗談じゃない。
セクハラされた立場の俺だが、何も知らないであろう大室さんに聞いたらそれこそセクハラだ。
ここは耐えるしかないだろう。
「そう。なら後はお願いね、矢伏さん。分からないところがあれば、私に連絡をちょうだい」
「ええ、分かりました」
「それじゃあ、私は忙しいからこの辺で失礼するわ。一週間後に、また会いましょう。それじゃあね」
俺は結局何も言えずに、矢伏さんと共に大室さんを見送った。
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