第1話   おぱんちゅ様との出会い?




俺は今、非常に困っている。

それは――




「か、金が無い······」




そう、今の所持金は2500円程度。

ネットカフェも一晩いけるかどうかの金しか無い。

何故、これだけしかないのか。

それは、ほんの数時間前程になる。




「はぁ······!?い、一体どういうことだよ!?」




電話口から伝えられたのは、俺の人生を大きく変えてしまうことになる現実だけだった。

電話の相手は、父親。

曰く、『父さんの勤めている会社、倒産しちゃって新しい職を探さなきゃならなくなった。それと金が無いから家も売却するから、その家出て一人で頑張ってくれ!』とのこと。

いや、いやいやいや!どういうことやねん!?

倒産して職を探す、これは分かる。

金が無いから家も売却する、これもまあ分かる。

だが、まだ高校生である俺に一人で頑張れとはどういうことだよ!?

いきなり一人で頑張れと言われても、社会に出たこともない高校生に向かってそれはないんじゃないだろうか?

もし目の前に父親が居たら、間違いなくぶん殴っているであろう。

いや、そんなことを考えている場合ではない。




「これから、どうしろってんだよ······」




学費ももちろん必要だし、生きていくためには生活費や食費、雑費と色々とお金はかかる。

しかし今からバイトするにしたって、まだ高校生の俺がそんな大金稼げるとは到底思えないし、事情を理解して雇ってくれるところも探さなきゃいけない。




「······人生、詰んだ」




おぉ、神よ。俺が何をしたって言うんだ。

こんな世界、壊れてしまえばいいのに。




「きゃあっ!?」

「うおっ!?」




空を見上げながら途方に暮れていると、よそ見をしていたせいか人とぶつかってしまった。

ぶつかった人は、お尻を支えながら尻餅を突いている。

スーツが良く似合う女性だ。眼鏡をかけているせいか、ちょっと理知的に見える。

ただ、尻餅を突いているせいで短めのスカートから黒いおぱんちゅ様がチラチラと見えてしまっている。

······うん、眼福だ。

っと、いくら思春期真っ只中とはいえ、いつまでも他人のおぱんちゅ様をガン見しているのはいかがなものか。

俺はすぐさま下半身から視線を逸らし、未だ尻餅を突いている女性に手を差し伸べた。




「大丈夫ですか?すみません、ちょっとよそ見をしていて前を見てなくて······」

「い、いえ······私のほうこそ、スマホを見てて······すみません······えっ?」




俺の差し伸べた手を取ろうとした女性だが、俺の顔を見て固まってしまった。

なんだ?俺の顔に何か付いているのか?

まさか、朝に食べた玉子焼のソースがほっぺに付いているのか?

ちなみに俺は、玉子焼はソース派である。




「う、嘘······な、なんで······?」




女性は、ただただ俺の顔を凝視して驚いている。

何なんだろう?人の顔を見て驚いてはいけないと、親から言われたことがないのだろうか?

あ、そういえば俺も無い。というか、さすがにそんなことで怒られはしないだろう。

じゃあ、何故彼女は俺を見て驚いているんだろうか?




「あ、ありえない······これじゃあ、まるで······」




俺の手を取ろうとせず、まじまじと見つめながら呟く女性。

どうでもいいが、さっきからおぱんちゅ様がチラチラ見えてしまっているので違う意味で俺もドキドキしている。

というか、人の顔を見てありえないとは失礼な。




「あ、あの~······?」




おぱんちゅ様にちょっと照れながら口を開くと、女性はハッとした表情になってようやく俺の手を取って立ち上がる。

おぱんちゅ様が見れなくなってしまったのは、ちょっと残念である。




「ご、ごめんなさい······それと、ありがとう」

「いえいえ、俺のほうこそありがとうございます」

「はい······?」

「何でもないです」




つい、おぱんちゅ様を見れたことにお礼を言ってしまった。

思春期って怖いね!




「ごめんなさいね?知り合いに似てて、つい······」




なるほど、それが驚いていた理由か。

にしても、まじまじと見つめるほど俺とその知り合いは似ているのか?




「本当、そっくりだわ。顔だけじゃなく、背丈も体格も、声も似ている······まるで双子みたい」




あらやだ、そんなに似ていらっしゃるので?

ちなみに俺には、双子どころか兄弟すら居ない一人っ子である。

この世界には自分に似た人間が三人いるとは良く言うが、そんなものは眉唾物としか思っていなかった。




「でも、これなら······うん、いけるかもしれない」




女性は自分に言い聞かせるように、また俺の顔を見ながらなにかぶつぶつと呟いている。

どうでもいいが、もう行っていいだろうか?

こんなところで油を売っている暇はないのである。

今日の宿代と食費をどうするか、バイトは何をすればいいのか、それを考えなくてはならないのだ。

だからさらばだ、おぱんちゅ様よ。




「えっと、怪我がないようで何よりです。では、俺はこれで······」




おぱんちゅ様······否、理知的な女性に別れを告げて、その場を後にしようと歩き出そうとする。

······が、何故か足が前に進まなかった。

何故か?それは、とても簡単な答えだ。

女性が俺の腕をがっしりと掴んで離さないからである。




「あ、あの~······何か?」

「うん、肉付きもそっくりね。口調がちょっと似てないけど、その他は完璧に近いわ」




やだこの人、自分の世界にトリップしていらっしゃる!

俺の声などまるで届いていないかのように、まだ呟きながら何かを模索しているようだった。

だけど、俺の腕は決して離してくれないようである。




「離してくれます?俺、急いでるんですけど······」

「君、ちょっと私に時間をくれない?」




なんなの、この人!?

急いでるって言っているのに、時間をくれとは勝手にも程がある。

というか、俺の話を全然聞いていないまである。

顔もおぱんちゅ様も綺麗な人だが、変な人だ。

こんな変な人に関わると、とんでもなくろくでもないことに巻き込まれそうだと俺の第六感が囁いている。

だから、俺はここから逃げることにした。

三十六計、逃げるに如かずだ。




「ほんと急いでるんで!失礼!」

「ちょっと待って!」




しかし、まわりこまれてしまった!

いや、正確には俺の腕を掴んでいる手にさらに力が入って振り解けないだけだが。

急いでるというのに、何故人の話を聞かないのか。




「ほんとにちょっとでいいの!ほんの先っちょだけ!すぐ終わるから!それで満足するから!」




何が!?

何故、わざわざエロい感じに言うの!?

思春期の男子高校生に、そんな色っぽく言うんじゃありません!




「だから、私に君のをちょうだい!」




主語抜けて変な意味になってる!?

時間って単語入れて!?でないと、なんか卑猥!

ほら、すれ違う人が怪訝な目で俺らを見ているし!

何も悪いことしてないのに、居たたまれなくなった俺はこの場を収拾するべく観念することにした。




「わ、分かった!分かりましたから!付き合いますから、変なこと言わないでください!」

「本当!?ありがとう!本当にありがとう!」




俺が了承すると、女性はぱあっと花が開いたように顔を輝かせた。

そして、掴んだ俺の腕を両手で組み直して歩き出した。




「じゃあ、今から行きましょ!」

「ちょっ!?ど、どこに!?」

「ここじゃ言えないの。とにかく、場所を移動しましょう。お礼はたっぷりするわ」




いちいちエロく言うの止めてくれない!?

そんな俺の悲痛なる心の叫びは、当たり前だが女性に届くことはなく俺は連れ去られるのであった。




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