聖女は俺に気があるけど、俺は困ってる…

| アークII | 第五章: 温かい再会

　夜遅くにワイバーン隊が到着し、夜応援隊や守衛と共に町の全ての獣やアンデッドを一掃した。カルト信者に関しては、降伏した者たちは後で尋問のために逮捕された。

　ジャンとアルムは重傷を負い、緊急治療を受けなければならなかった。ジャンは牙の一部と皮膚の一部を失ったが、優れた治療師たちのおかげで全ての傷を完全に癒すことができた。あとは意識を取り戻すだけだった。

　アルムの場合は少し異なり、彼は骨折しており、自分の魔法の影響で皮膚が割れていた。重度の内出血をしており、生きているのが奇跡だった。それでも、彼はジャンより先に意識を取り戻し、息を切らして目を覚まし、血液が不足し、激痛に耐えながら立ち上がった。深度切断のバリアを解除するために歩いていった。

　それを終えた後、治療師たちは彼に休むように言った。彼は迷惑をかけたくなく、言われた通りにした。

　廊下をよろめきながら休む場所を探していると、他の人々の苦痛のうめき声や愛する人を失った悲鳴が聞こえてきた。

　（…こんな状態で眠るのは難しいだろう）とアルムは思った。

　彼ができることは彼らの悲鳴を聞くことだけだった。助けたい気持ちはあったが、もう動けなかった。天井を見つめながら彼は恋人のアメセリ、唯一の本当の家族エミリー、そして友人たちを思った。

　「...恋しい…」と低い声でつぶやき、意識が暗闇に消えていった。

　 .….

　...

　「彼は眠っている」と誰かが言った。それは月に似た目を持つ黒と銀の髪の少女だった。

　彼女の目は彼が大丈夫かどうかを優しく見つめ、胸を押さえていた。彼の痛みの原因が自分であるかのように罪悪感と悲しみを感じていた…。しかし、それはここにいる全ての人々に共通することだった。彼女は指揮官としての義務を果たせなかったのだ。

　距離を置いているにもかかわらず、彼女は無垢な人々を守りたかった…もしかしたら純粋な行いが存在することを証明したかったのかもしれない…。

　彼女は休んでいる青年のそばに座り、彼の手を握りしめ、涙が彼女の目に浮かび、顔を伝って流れ始めた。

　「...アルム、ひく、私…ごめんなさい…」

　…

　 …..

　…

　翌日、アルムが目を覚ますと、傷にもかかわらず妙に快適に感じた…まぁ、動けるようにはなっていたが、痛みはまだあった。昨日、いくつかの傷が完全には治らなかったことを覚えていたが…なんとか快調に感じていた。傷跡もなかった。しかし…動くとまだ痛みを感じた。

　大量の血を失っていたので…自然にめまいがして部屋を歩き回った。近くには椅子に座って寝ているジュアが見えた。彼女はまだ意識のないジャンの手を握っていた。彼の呼吸は少し乱れていた。

　その光景を見てアルムは微笑んだ。「いいね…」と呟き、「昨日はありがとう…」と言い、二人を残して外に出た。

　廊下を歩いていると、人々の顔に絶望の表情がまだ見えたが、少なくとも雰囲気は良くなっていた。

　町の状態を見に行くと、夜の間には見えなかった恐ろしい光景が目に入った。アンデッドの化け物や獣、他にも多くのモンスターが死んでいた。

　（…..）

　その光景は彼を不安にさせた。それは…無実の人々が中にはいたかもしれないと思うと、心が揺れた。

　散歩を続けていると、ワイバーン隊のメンバーに出会い、ルナがそこにいることを知った。

　「…プリンセスの居場所を知っていますか？」とアルムは尋ねた。不安を感じていた。ルナもおそらく心が傷ついているだろう。

　「…ごめん、わからないよ」と男は言った。

　アルムは頭を軽く振り、「いいえ…ご迷惑をおかけしました」と言い、去っていった。

　他の人にも聞いたが、どの場所でも彼女は見つからなかった。アルムは大多数の人を信用していなかったが、彼らが彼に嘘をつく理由はないと思った。

　「…彼女は私を避けている」とアルムは結論付け、彼女を探し続けた。今回は彼のマナを隠した。ルナでさえ彼を感知するのは難しいだろう。

　しばらく探し続けた後、ついに彼女を見つけた。彼女は少し目が腫れており、彼の喉元に彼女の聖剣ムーンフラクチャーが当たっていた。

　しかしその瞬間、ルナは凍りつき、冷たい銀の目が彼の優しく柔らかい目に注がれた。誰であるかを理解し、彼女は困惑しながら「ア、アル…？」と呟いた。

　我に返った彼女は逃げようとしたが、その時にはアルムが彼女の手を握っていた。

　「...放して」とルナは震えながら目をそらした。

　「放さない」とアルムは短く答え、彼女の目を見つめようとした。「...君のせいじゃない」と言い、彼女は彼の方を向いた。涙を浮かべた彼女は子供のように膝をついて泣き出した。

　「私のせいだ—全部私のせい！もっとカルト信者を止めるのがうまくいけば…こんなことにはならなかったし、あなたも傷つかなかったのに！」

　「...それは違う」とアルムは言い、彼女の頭を撫でた。

　（やはり…彼女は心の中では柔らかい…）

　「で、でも…」

　ルナは何かを言おうとしたが、言葉が出てこなかった。静かな風が通り過ぎ、葉が平和に舞っていた。

　アルムはルナが過剰に考えていることを知っていた。彼女は責任を背負いすぎている。

　彼は彼女の髪を撫で続け、それは滑らかでシルクのようだった。アルムはルナの髪が彼女にとってどれだけ大切かを知っていた。彼女はそれをとても大切にしていたが、彼がそれを触るのを許していた。最初は偶然だったが、その後彼女に尋ねた時も気にしなかった。

　彼女が静かに泣き続ける中、アルムは彼女に寄りかからせ、その暖かさと安らぎを感じていた。

　「ごめんなさい」とルナは彼を抱きしめて謝った。

　「気にしないで」とアルムは優しく答えた。

　「ごめんなさい」とルナは再び謝った。今回は何度も繰り返した。「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

　「.....大丈夫。全部吐き出しなさい」とアルムは彼女を慰め続けた。

　しばらくしてルナは彼の腕の中で泣き疲れて眠りについた。その愛らしい少女を抱きしめていると、彼の胸は暖かくなり、微笑みが浮かんだ。人々が見ていることを気にせず、彼はただ彼女に休ませてやりたかった。

　…

　 …..

　…

　数日が過ぎ、飛行船がついに到着した。町はひどく損傷して住めなくなっていた。大部分の人口が死んでしまったため、再建する理由もなかった。バリアジェネレーターがひどく損傷しているため、修理するのにも高額な費用がかかる。

　そのため、過去数日間、地元の人々は町の残骸からできる限りの物を集め、移動の準備をしていた。アルムと夜応援隊のメンバーは、船と一緒に戻らず、数日待つことにした。というのも、彼らはすべてのスペースを必要としていたからだ。

　滞在中にクエストを終えたので、元素リザードの素材を回収するための馬車を待たなければならなかった。それでも、アルムは緊張していた。無謀な行動をとった後にアメセリと会うのが怖かった…。

　これを見たルナは皆の前でアルムに別れのハグをした。彼女が予期せぬハグをしたことで、アルムは落ち着きを取り戻し、彼女の頭を撫でた。アルムが落ち着いたのを見て、ルナの表情は晴れやかになり、笑顔を見せ、皆を驚かせた。

　（この人は誰だ？）

　多くの人はそう思った。アルムはここではあまり知られていなかったが、ルナはプリンセスだったので、彼女のことを知っていた。冷たく、優秀なプリンセスがこんなに愛らしい笑顔を見せ、男性をハグするなんて信じられなかった。

　「...アメにこの事件のことを話さないでくれませんか？」とアルムはためらいながら尋ねた。彼女を心配させたくなく、悲しませたくなく…彼に失望させたくなかったのだ。

　これを聞いたルナはクスクスと笑い、「彼女を心配させたくないのね？」と優しく尋ねた。「...本当にそれを望むなら話さないけど…でも…彼女はあなたがこれを隠そうとすることの方が悲しむと思うわ」と言い、彼を半ば叱った。彼女は彼のことを深く思っていた。

　彼女はアメセリが彼にとってどれだけ大切かを知っていたし、彼らの幸せを願っていた。彼女もまたアメセリと良い友達になった。

　アルムは彼女の言葉に驚いた。（…私の視野が狭かった）と彼は思い、「君の言う通りだ…ごめん、そしてありがとう」と答えた。

　ルナは彼をさらに強く抱きしめ、「謝る相手が違うわ」と言い、声が小さくなった。「...私も心配していたの…あなたが傷ついているのを見て」と言いながらも、その声は優しく、悲しかった。

　結局…彼女は急遽叔父のオフィスに呼ばれた。その主題はカルト信者が町を襲撃したということだった。重責を感じた彼女は、ワイバーン隊の他のメンバーと一緒に来た。彼女は彼らが任務から帰還したばかりであることを気の毒に思った。

　後に冒険者たちと会った時、この事件を報告した二人のメンバーが無謀に調査に行き、戻ってこなかったことを知った。そこでルナと隊は町の廃墟に向かい、モンスターや化け物を一掃した。

　しかし、その後、彼らは幻覚のバリアに遭遇した。彼らは生存者を見つけ、避難させた後、カルト信者を追跡した。その後、進入できないバリアがあるという報告を受け、ルナはその場所に向かうことを決めた—意識を失い、ひどい出血をしているアルムを見つけるために。

　治療師たちは最善を尽くしたが、彼の傷は閉じたが…このままでは彼は死んでしまう。彼はあまりにも多くの血を失っていた…。

　パニックに陥ったルナは自分自身を切り、急速に自分の血を彼の体に注ぎ込んで彼を救おうとした。

　医療隊員たちはこれを見てパニックに陥った。結局、彼らは適合するかどうかわからなかったが…テストの結果、ルナの血液は彼に適合するはずだった…うまくいくかどうかは別として…。もしそうでなければ…彼女は自分自身を許せなかっただろう。

　その後、デプスカッターの存在を感じ、アルムがバリアを無効化するのを待つように命じた。結局、彼女はそれがマナ切れになるのを望まなかった…罪悪感を感じ、他のことをするために去った—それが彼女の言い訳だった。

　最悪の場合、彼の最後の息を見届けることに耐えられなかった…。彼を生かしておくことができると知りながらも、彼に直面することができなかった。彼がこの状態にあるのは、彼女が仕事を十分に果たせなかったからだ。だから—彼女は自分自身を許せなかった…。

　ルナが深く考え込んでいる間、アルムをしっかりと抱きしめているため、彼は愛情のシャワーを受け入れるしかなかった。

　そして、ワイバーン隊のメンバーは驚愕していた。冷たく効率的な指揮官がこんなに愛情深いとは信じられなかった。しかし…彼らは彼女がこんなに幸せそうな姿を見たことがなかったので、この光景を歓迎した。

　…

　 …..

　…

　ルナが去ってから三日後、アルムはモンスター素材を運ぶ馬車を護衛しながらイリフェルに近づいていた。首都に近づくにつれ、海が見えてきた。穏やかで新鮮な空気は彼を落ち着かせ、彼は空を見上げてアメセリにどう説明しようかとぼんやり考えていた。

　しかし…彼は非常に高速で接近してくる何か異常なものを見た。それが何なのかはわからなかったが、それは首都から来ていた。

　その恐ろしい速度で接近するものを見て、皆は攻撃に備えていたが…瞬時にそれが着地した。誰もそれが何なのか、誰なのかを見なかったが…それが素早く皆を通り過ぎた瞬間、アルムはアメセリの抱擁の中にいた。

　アルムは凍りつき、他の者たちはぼんやりと見つめていた。それが心配するものではないと気づき…聖女と彼女の恋人に少しの空間を与えた…。

　どう反応すべきかわからず、アルムはただ彼女をぼんやりと見つめていた。彼女が彼を解放した時、彼女は彼の目を見つめ、涙の角を見て心が痛んだ。彼をこんな風に見るのは苦しかった。アルムは通常は冷静で無表情だったが…彼が泣くのを見たくなかった。

　しかし…これは誤解だった。アルムは彼女を見て安心し、涙を流した。アメセリは彼を抱きしめ、愛の言葉を暖かくささやいた。彼女はルナからすべてを聞いていた。彼を慰めるためにそこにいたかった。でも…それはできなかった。

　今、彼女の抱擁の中で、彼女は彼を甘やかし、泣き、愛を捧げ、見物人から遠ざけて彼に涙を流させた。彼の髪を撫で、愛の言葉をささやき続けて、彼が落ち着くまでそうしていた。